Yahoo!ニュース

「ドローン仏」「専属メイド」「仏具ガチャ」京都の龍岸寺が挑み続ける「今を生きる人々の心に刺さる仏教」

吉村智樹京都ライター/放送作家
「龍岸寺」の池口龍法住職と専属メイド「くーたん」(筆者撮影)

■仏像が宙を舞う「ドローン仏」初の10体編隊飛行

2022年11月23日(水)の勤労感謝の日、京都の塩小路通沿いにある「龍岸寺」の本堂にて「ドローン来迎仏」の編隊飛行が披露されました。

ドローンの上に立った10体の仏像がリズミカルに編隊飛行した(筆者撮影)
ドローンの上に立った10体の仏像がリズミカルに編隊飛行した(筆者撮影)

これは龍岸寺が毎年11月「仏欲の秋」に開催している仏教とアートの融合イベント「超十夜祭」2022の一環。

ドローン来迎仏、通称「ドローン仏」とは、遠隔操作や自動制御によって飛行できる無人航空機「ドローン」に載せられた仏像のこと。仏像が宙を浮揚し、極楽浄土から衆生(しゅじょう)を迎えに来る様子を表現しています。開発したのは伝統工芸のみならず3Dプリンターなど最新ツールをも操るハイテク仏師、三浦耀山(みうら ようざん)さんです。

龍岸寺では2018年11月にドローン仏の初飛行に成功。以来、ドローンと仏像の数を増やしながら編成や演舞を複雑化させ、たびたび、ありがたい来迎の光景を描き続けてきました。

今回、実演したドローン仏は、LEDライトで発光した阿弥陀如来と9体の菩薩、計10体による編成。10体もの仏像を浮かび上がらせるのは初挑戦。すなわち本邦初。

まるで編隊長をつとめるがごとく先陣をきって飛行した阿弥陀如来(筆者撮影)
まるで編隊長をつとめるがごとく先陣をきって飛行した阿弥陀如来(筆者撮影)

GPSが届かない屋内での編隊飛行は難しいのですが、ドローンによる教育事業を基幹とする「fly株式会社」の吉江考史さんの協力を得たことで、4年の歳月を経てプログラミングによる編隊飛行がついに実現したのです。

サイケデリックに色を変える照明のなか、池口龍法(いけぐち りゅうほう)住職(42)の読経とともに、ふわりと浮かび上がる来迎仏。堂内に集まった参詣者たちはそれぞれに配られた木魚を叩きながらも息をのんで見守ります。

池口住職の読経に合わせ木魚を叩きながら動画を撮る人々。なんというシュールな光景(筆者撮影)
池口住職の読経に合わせ木魚を叩きながら動画を撮る人々。なんというシュールな光景(筆者撮影)

皆、仏像が輝きながらリズミカルに上下運動と旋回をする神秘的な演出に感無量の面持ち。1体の墜落や衝突もなく飛行を終え、着地。堂内は拍手に包まれたのです。

こういったナウい、ならぬ「ナムい」イベントを、すべての人が好意的に受けいれたわけではありません。SNSでは「俗人の発想だ」「まるで邪教の儀式」と批判する声も少なからずあがりました

しかし池口住職は「批判は初めから予想していました」と意に介さぬ模様。池口住職はドローン仏の他にこれまで、ガチャポンマシンでカプセル入りの仏具を購入できる「仏具ガチャ」や、「専属メイド」をおくなど、さまざまな試みで寺の固定観念をくつがえしてきたのです。そこには「現代のライフスタイルに仏教をなじませたい」という池口住職の深い想いがありました。

■若者に仏教を伝えるために情報誌を創刊

開基400年を超える悠久の歴史をたたえた龍岸寺。池口龍法さんは24代目の住職。2014年に、母親の実家であるこの寺を継ぎました。

浄土宗寺院の長男として生まれた池口住職。20代の頃は「自分は宗教家としてどう生きるべきか」と悩んでいたと言います。原因は1995年(平成7年)、オウム真理教が引き起こした「地下鉄サリン事件」。世界でも類を見ない大都市での無差別テロによる大量殺人は、巷に「宗教」に対する大きな抵抗感をもたらしたのです。

池口龍法さん(以下、池口)「オウムに対するアレルギーから、世間が仏教に対しても距離を置こうとしているのを感じていました。そんな状況のなかで、僧侶を志しているとは言いにくい雰囲気だった。『自分はどんなお坊さんになったらいいのか』と、20代は悩んでいましたね」

20代の頃は「どんなお坊さんになればよいのか」悩んでいたという(筆者撮影)
20代の頃は「どんなお坊さんになればよいのか」悩んでいたという(筆者撮影)

知恩院の職員として勤めはじめた池口住職。2009年8月に一つの大きなチャレンジをします。勤めとは別に個人で、宗派を超えて仏教界の情報を発信する無料の小冊子『フリースタイルな僧侶たちのフリーマガジン』を編集発行したのです

池口「寺院の職員をしながら、若い人たちに仏教を伝える難しさを感じていました。世の中の構造が変化し、親や祖父母から子へと仏の教えが伝わるという流れがなくなっていた。若者が“自分たちが生きていくための仏教”を知るためには、情報誌による発信が不可欠だと考えたのです

そうして池口さんは独学でDTP(パソコンによる印刷物のデータ制作)を学び、『ニューズウィーク』や『クーリエ・ジャポン』などのデザインやレイアウトを参考にしながら『フリースタイルな僧侶たちのフリーマガジン』を創刊しました。

さらに、これまで仏教とはゆかりがなかったカフェやクラブ、ライブハウスなどで無料配布を実施。手にした若者たちのあいだで「お寺っぽくないフリーペーパーがあるぞ」と口コミで広がり、京都にとどまらず日本全体の新しい仏教カルチャーとなっていったのです。

「若者が“自分たちが生きていくための仏教”を知るために」創刊した無料のZINE『フリースタイルな僧侶たちのフリーマガジン』。画像は30号記念号。テーマは「この時代のものとなれ仏教」(画像提供/龍岸寺)
「若者が“自分たちが生きていくための仏教”を知るために」創刊した無料のZINE『フリースタイルな僧侶たちのフリーマガジン』。画像は30号記念号。テーマは「この時代のものとなれ仏教」(画像提供/龍岸寺)

*版元の書影の掲載ルールに則る。

「愛読者だった」という若い僧侶へ編集長のバトンを渡しながら、現在も『フリースタイルな僧侶たちのフリーマガジン』は続刊しています。若者が寺院や仏教に関心をいだくきっかけを生んだり、僧侶どうしの交流を深めたりする、現代の日本になくてはならないメディアとなっているのです。

「フリースタイルな僧侶たちのフリーマガジン」(無料)は現在も街のさまざまな場所で手に取れる(画像提供/龍岸寺)
「フリースタイルな僧侶たちのフリーマガジン」(無料)は現在も街のさまざまな場所で手に取れる(画像提供/龍岸寺)

情報誌だけではなく龍岸寺の壁に掲げた掲示板でもメッセージを発信している(画像提供/龍岸寺)
情報誌だけではなく龍岸寺の壁に掲げた掲示板でもメッセージを発信している(画像提供/龍岸寺)

■学生の提案を受けいれた「お寺のアートフェス」

そんな池口住職の元に、京都の芸術系大学に通うある男子学生がやってきます。そして学生は、「お寺や神社の未来を作っていく事業をしたい」と提案したのです。それが、現在8回目を迎えるアートフェスティバル「十夜祭 -ju ya fes-」(のちの超十夜祭)でした。

2015年、手さぐりで始まったお寺でのアートフェス。学生たちがアート作品を展示したり、アイドルがライブをしたり。池口住職は境内やお堂を貸すだけではなく、コーディネーターとしても協力したのです。

池口「おそらくほとんどのお寺が『学生に使わせるなんて』と抵抗があるでしょう。学生が仏像や仏具を損傷する危険性がありますし。ただ、私は彼らの情熱に胸を打たれた。それに京都は学生の街。街を支える若者が新しい試みに挑戦しようとするとき、協力するのは現代の京都のお寺がやるべきことだと考えたんです」

「若者が新しいものごとに挑戦するとき、寺は協力すべきだ」と考えたという(筆者撮影)
「若者が新しいものごとに挑戦するとき、寺は協力すべきだ」と考えたという(筆者撮影)

■前代未聞? お寺の専属メイド

京都にある芸術系の大学が中心となり、多くの学生が参加した十夜祭。そのなかに一人、とりわけ仏教に強い関心を示した女子大生がいました。それが現在「専属メイド」として龍岸寺に花を添えるイラストレーターの「くーたん」。大乗仏教においての基本概念である「空(くう)」から、その名がつけられました。

龍岸寺の専属メイド「くーたん」。僧衣とメイドファッションが融合したコスチュームで話題になった(筆者撮影)
龍岸寺の専属メイド「くーたん」。僧衣とメイドファッションが融合したコスチュームで話題になった(筆者撮影)

くーたんは当時、京都市立芸術大学で彫刻を学んでいた美大生。友人に誘われ参加した十夜祭で池口住職の法話に感銘を受けたのだそうです。

くーたん「芸術は宗教の歴史と切り離せない関係にあります。彫刻を学ぶうちに、人間の営みとしての宗教に興味をもちました。そして、龍岸寺で初めて法話を聴いて感動したんです。八正道(はっしょうどう/涅槃に至るための8つの実践徳目)や四諦(したい/仏陀の説いた4つの真理)など、世界観が体系だてて語られていることを知って、『おお!』っと、かぶりつきで聴いていましたね」

池口住職の法話を聴き、仏教に関心をいだいた(筆者撮影)
池口住職の法話を聴き、仏教に関心をいだいた(筆者撮影)

法話を聴きながら自然と手が動き、内容をよりよく理解するためにイラストを描いていたという、くーたん。大学を卒業後、禅道場に寄宿。さらに2020年3月に筑波大学大学院(哲学・思想専攻)にて修士号を取得し、宗教と芸術の関係について探究を続けています。

そんなくーたんが池口住職とともに2016年から開催しているのが、宗教間対話をテーマとしたカフェ型トークイベント「冥土喫茶ぴゅあらんど」

くーたん「運営メンバーのなかで、『最初からお堅い雰囲気だとハードルが高いから、もうちょっと印象をやわらかくしたいよね』と話をし、『だったら“冥土(メイド)喫茶”にしよう』という流れになりました」

(画像提供/くーたん)
(画像提供/くーたん)

くーたんはメイドとして給仕やおもてなしをするのみならず、テーマの企画立案、フライヤーなどのデザイン、さらにイベント全体のファシリテーターとしてフル稼働。2021年には法衣店の協力を得て、僧衣とメイド装束を融合させたオリジナルのコスチュームが完成「龍岸寺の専属メイド」というキャラクターをいっそう確立させたのです

くーたん「お寺オフィシャルのメイドなんて半分ギャグみたいですが、この衣装は実際にお袈裟など僧衣をつくっている職人さんに特注した真剣なものです。メイドのファッションを通じて僧衣や仏具という工芸の文化を伝えていきたいし、私自身も仏教文化と真摯に向き合い、新しい解釈で応答と創造を重ねてゆかねばならないと考えています」

大学院で哲学・思想の修士号を取得。宗教と芸術の関係について探究を続けている(筆者撮影)
大学院で哲学・思想の修士号を取得。宗教と芸術の関係について探究を続けている(筆者撮影)

ゆくゆくは「教義を表現する絵巻物をつくりたい」という夢をいだく、くーたん。今後も龍岸寺で開催されるイベントで、彼女に会えるでしょう。

■「仏具ガチャ」が大人気で品薄状態に

僧衣を基本としたくーたんのメイドコスプレからもわかるように、龍岸寺の催しや企画には、仏具など工芸が大きくかかわります。特に工芸界との絆を強くしたのが、仏具系ポップユニット“佛佛部”(ぶつぶつぶ)の結成。

佛佛部とは、ドローン仏の生みの親である仏師、三浦耀山氏をリーダーに、塗師、箔押師、宮大工ら京都の仏具職人たちが集結したクラフトマンユニットです。

仏具職人たちが集結し、現代の仏教プロダクトを追求するユニット「佛佛部(ぶつぶつぶ)」(画像提供/龍岸寺)
仏具職人たちが集結し、現代の仏教プロダクトを追求するユニット「佛佛部(ぶつぶつぶ)」(画像提供/龍岸寺)

「いまを生きる人々の心に刺さるお寺アイテムの開発」を旗印に、2019年6月に発足した佛佛部。「ドローン仏」や、カプセルトイのように手作りの仏具が収められたその名も「佛佛玉」が飛び出す「仏具ガチャ」などは佛佛部の活動から誕生(あるいは披露)したものでした。

ドローン阿弥陀三尊(撮影/町田益宏 画像提供/龍岸寺)
ドローン阿弥陀三尊(撮影/町田益宏 画像提供/龍岸寺)

池口「日頃から、『今の時代、仏の教えの伝え方を変えてゆかねばならない』と感じていました。しかしながら、お坊さん一人でやれる行いには限界がある。僧侶だけではなく仏壇や仏具の文化が変わっていかないと、現代のライフスタイルのなかに仏教が入っていけない。そこで、キーを握っている仏具職人さんたちに、『一緒にやらないか』と声をかけました」

同じ頃、職人たちもまた「このままではいけない」と危機感を抱いていたタイミングだったのだそうです。そうして仏師の三浦氏をリーダー、池口住職をプロデューサーとして、新しい仏教プロダクトの開発が始まりました。

培ってきた伝統技術の粋をいかんなく発揮した佛佛部の数々のプロジェクトは即、効果を表しました。「ドローン仏」はたびたびニュースに採りあげられ、龍岸寺に常設している「仏具ガチャ」は購入希望者が詰めかけ、「品切れ状態になる」日もしばしばあるのだそうです

職人が手作りした仏具をカプセルに閉じ込めた「佛佛玉」が飛び出す「仏具ガチャ」。マシンを置くお厨子も本職の宮大工が制作した(筆者撮影)
職人が手作りした仏具をカプセルに閉じ込めた「佛佛玉」が飛び出す「仏具ガチャ」。マシンを置くお厨子も本職の宮大工が制作した(筆者撮影)

池口「仏具を欲しいと思ってくれる人たちがこんなにいるんだと、反響の大きさに驚いています。百貨店などから出展の依頼も多々ありました。職人さんにも元気を与えているんじゃないかな」

■「抗議の電話や手紙はしょっちゅうある」

「専属のメイドをおく」「ドローンで仏像を飛ばす」「ガチャで仏具を販売する」など、お寺の既成概念を打ち破り続ける池口住職。仏教の現代化に理解を示す人が多い反面、先述したように、すべての人が温かく受け入れているわけではありません。

池口匿名の電話や手紙での抗議はしょっちゅうあります『お前みたいなやつが仏教の伝統を壊しているんだ』と。2009年にフリーペーパーを発行して以来ずっとですから、もう馴れました。新しいことをやれば賛否は必ずある。それだけ関心をもってくれる人がいる証し。むしろ反響のバロメーターとして受けとめています」

「お前みたいなやつが仏教の伝統を壊しているんだ」と批判される場合も多々あるという(筆者撮影)
「お前みたいなやつが仏教の伝統を壊しているんだ」と批判される場合も多々あるという(筆者撮影)

たとえ批判されても前進する。その背景には池口住職の熱い想いがありました。

池口「仏壇がない家庭が当たり前なので、仏の教えは受け継がれにくい時代だと思うんです。そのために、新しいかたちで仏の教えを提示していきたい。仏具に触れたり、仏像に手を合わせたりする環境を現代の暮らしのなかに採り入れてほしい。そのために仏教を体験として伝えるのもお寺の役目だと考えています」

今後「念持仏」(ねんじぶつ/身近なところに安置し、日々礼拝する小さな仏像)の造立教室や、消しゴムケース、シャープペンシル、ボールペンなどの文房具の漆塗り体験を通じて仏具文化を知ってもらうワークショップなど、佛佛部をはじめとした催事がいっそう活発になるようです。

「念持仏」とは、身近なところに安置し、日々礼拝する小さな仏像。佛佛部の指導によるワークショップを開催している(筆者撮影)
「念持仏」とは、身近なところに安置し、日々礼拝する小さな仏像。佛佛部の指導によるワークショップを開催している(筆者撮影)

仏壇仏具に欠かせない漆塗り。文房具に塗ってその技術を体感できるワークショップを2022年12月からスタートする(画像提供/龍岸寺)
仏壇仏具に欠かせない漆塗り。文房具に塗ってその技術を体感できるワークショップを2022年12月からスタートする(画像提供/龍岸寺)

2022年は「宗教と国家」について誰もが考えさせられた一年でした。再びネガティブで怖いイメージで捉えられるケースが多くなった宗教。そんな印象を拭い去るには、たとえ物議いや「佛議」を醸しても、宙を舞う仏像のように軽やかでポップな行動が必要なのかもしれません。

(筆者撮影)
(筆者撮影)

浄土宗 龍岸寺 | 一緒にツクろう。新しいお寺のカタチ。

https://ryuganji.jp/

浄土宗龍岸寺『龍岸寺ナムナムTV』

https://www.youtube.com/@7676tv

池口龍法Twitter

https://twitter.com/senrenja

くーたんTwitter

https://twitter.com/sunyata000

京都ライター/放送作家

よしむら・ともき 京都在住。フリーライター&放送作家。近畿一円の取材に奔走する。著書に『VOWやねん』(宝島社)『ビックリ仰天! 食べ歩きの旅 西日本編』(鹿砦社)『吉村智樹の街がいさがし』(オークラ出版)『ジワジワ来る関西』(扶桑社)などがある。朝日放送のテレビ番組『LIFE 夢のカタチ』を構成。

吉村智樹の最近の記事