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センバツ100年物語③夏の大旗を手にした東北勢。センバツでは、かつては冷遇されていた?

楊順行スポーツライター
仙台育英時代の佐々木順一朗監督(写真:岡沢克郎/アフロ)

 3月18日から阪神甲子園球場で開催される第96回選抜高校野球大会。先日出場32校が決まり、東北からは青森山田、八戸学院光星の青森勢と、学法石川(福島)の3校が出場する。東北6県からは過去、4校の出場が最多だが、それは神宮枠や21世紀枠での選出を加えてのもの。一般選考枠での3校出場は初めてだ。

 そもそも東北は、センバツの選考では冷遇されてきた。北海道からは、1938年の第15回大会に北海中が初めて出場しているが、東北からの出場は、戦後になった55年の一関一(岩手)が最初なのだ。50年代、東北からのセンバツ出場といったらほかに、57年東北(宮城)、58年遠野(岩手)、59年会津(福島)があるのみ。秋田からの初出場は60年の秋田商で、青森は69年の三沢、山形にいたっては73年の日大山形まで待たねばならない。まあ当時、寒冷地では冬の練習環境が未整備だったし、地域間の実力差が顕著だと見られていたのだろう。

 だが、その勢力地図は大きく書き換えられている。仙台育英(宮城)が東北勢として初めて甲子園を制した2022年夏には、同じ東北の聖光学院(福島)と史上初めて夏の準決勝で対戦。仙台育英は昨年夏も連覇まであと一歩の準優勝を果たし、その大会ではほかにも八戸学院光星、花巻東と3校がベスト8に進出。センバツでは一度例があるが、夏の大会では史上初めてのことだった。

一般選考の3校が大旗を目ざす

 ちなみに、秋季地区大会の地区割りにあてはめ、昨夏の代表校1校あたりの勝ち星を算出すると、

1 東 北(6校) 12勝/1校あたり2

2 北海道(2校) 3勝/1校あたり1.5

3 関東・東京(9校) 13勝/1校あたり1.44

4 九 州(8校) 8勝/1校あたり1

5 近 畿(6校) 5勝/1校あたり0.83

6 中 国(5校) 4勝/1校あたり0.8

7 四 国(4校) 2勝/1校あたり0.5

8 東 海(4校) 1勝/1校あたり0.25

9 北信越(5校) 0勝/1校あたり0

 ということになる。なんと、近畿や関東などの強豪エリアを抑え、東北が堂々のトップだ。準優勝した仙台育英が単独で5勝しているのが大きく、その育英を含めてベスト8の3校が星を稼いでいる。むろん、北海道は分母が2と少ないから、優勝した慶応(神奈川)のいる関東より高い数字になっているように、単純比較はできない。また、一大会だけ算出してもあまり意味はないだろう。ただ少なくとも、東北勢が元気なことはわかる。それが一般選考枠の増加につながったわけだ。

 学法石川を指揮するのは、長く仙台育英を率いた佐々木順一朗監督。八戸学院光星は仲井宗基監督。いずれも甲子園で通算20勝以上を記録し、準優勝も経験している名将だ。夏の優勝旗は、ようやく白河の関を越えた。東北勢に残るのは、かつて冷遇されていた(?)センバツの大旗だ。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は63回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて54季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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