Yahoo!ニュース

組み合わせ決定! 都市対抗では、この選手を見よ

楊順行スポーツライター
決定した第94回都市対抗野球の組み合わせ(撮影/筆者)

 第94回都市対抗野球大会(7/14〜東京ドーム)の組み合わせが写真のように決まった。コロナ禍が沈静化し、4年ぶりに復活したのが「特定試合シード制度」だ。一定数以上の観客動員を条件に、事前申請したチームを希望する試合日・時間に割り振るもの。ひらたくいえば、「一定数」の集客を条件に、「ウチは日曜日の第3試合がいい」という申請を認めるわけだ。今回は14チームが申請したため、1回戦で希望が重複した「特定シード」チーム同士の対戦が5試合もある。

 なんといっても注目は、トーナメント表左のAブロック。前年優勝で推薦出場のENEOSをはじめ、8チームのうち5チームに都市対抗V経験があり、そのうちトヨタ自動車とHondaが1回戦で激突。連覇を狙うENEOSは、1回戦を突破しても2回戦では難敵が待っているわけだ。Honda熊本にしても一昨年の準優勝チーム。この激戦区から、どこが4強に勝ち上がるのか。

 そして都市対抗といえば、今年のドラフト候補がアピールする絶好の場でもある。筆者が今季取材したうち、とくにオススメの5選手を登場順に紹介すると……。

今季ドラフトの目玉、間違いなし

■度会隆輝[ENEOS]

 優勝した昨年の都市対抗では、決勝の追撃3ランをはじめ4本塁打・11打点と爆発。MVPにあたる橋戸賞と打撃賞、そして新人賞にあたる若獅子賞を手にした。一人の選手による三賞獲得は47年ぶり2人目のこと。そしてシーズン通じても本塁打王、打点王、社会人ベストナインというタイトルラッシュだった。

 ある記事が、胸に残っている。

「福留孝介さんがこういっていたんです。"(社会人)2年目に活躍できる選手こそ本物だ"。その通りだ、と思いました。1年目はルーキーで脚光を浴び、3年目はドラフトイヤーで注目される。節目じゃない2年目は、よっぽど活躍しない限り目立ちませんよね」

 PL学園から日本生命を経て中日入りし、メジャーでも活躍した福留氏と同じ、高卒でのENEOS入社。その2年目の活躍は、文句なかった。だが、プロ経験もある大久保秀昭監督は「今年、全大会で4割を打ったら本物だと認める」と、さらに高いハードルを設定している。成長はまだ、止まらない。ウエートトレーニングの成果か、これまで6秒15だった50メートル走が、最近は6秒フラットになったのだとか。そして……ドラフトイヤーの今季に挑むのは、都市対抗連覇だ。

「個人の数字よりまずは連覇で、それに貢献できれば、自然に成績はついてくると思います。大口かもしれませんが、22年にいただいたベストナイン、最多本塁打、最多打点に首位打者を加えた四冠が今年の目標なんです」。

■山本ダンテ武蔵[パナソニック]

 大阪桐蔭高時代は17年センバツV戦士にして、国学院大では優勝した21年春の最高殊勲選手とベストナイン(指名打者)。大きくなった体は、高校時代とはまるで別人だ。ただ社会人1年目の昨年は、2月に右ヒジのトミー・ジョン手術を行い、3カ月ほどはギブス生活。それでも順調に回復し、9月の日本選手権予選では代打起用されると、本戦では指名打者で2試合先発して1安打。1年目にして二大大会デビューを果たした。

 投手力には定評のあるチームにあって、山本に期待されるのは長打力。ただ、

「国学大4年春に3本塁打し、そこから欲が出ておかしくなったことがあるんです。長打は意識せず、体の開きを我慢してボールを呼び込み、センター返しを心がけます。打率どうこうより、勝負どころで決められるバッティングをしたいですね」

 近畿2次予選では、23打数6安打と打率はいまいちだったが、7試合で5打点は三番として合格点か。

 大阪桐蔭高の同期・泉口友汰(NTT西日本)と坂之下晴人(三菱重工West)も、同じ近畿地区予選を突破して東京ドーム出場を決めている。そして……お互い勝ち上がれば、NTT西日本とは2回戦で対戦する。

■高杉勝太郎[明治安田生命]

 最速152キロ右腕。東海大時代には、先輩の不祥事もあり4年春までさほど目立たなかったが、秋には主戦として初完封を記録するなど優勝に貢献し、最高殊勲選手賞に輝いた。社会人では、1年目から主戦の一角に。負けたら終わりの都市対抗第四代表決定戦で先発を託されるも、セガサミーに初回2失点で降板し、チームもそのまま敗れた。部屋に戻ると、試合の動画を見ながら「悔しすぎて泣いた」という。それでも「このままだったら、自分は終わる」と、低めに投げることを徹底すると、徐々に持ち味のチェンジアップが生きるようになる。三菱重工Eastとの日本選手権代表決定戦では、負けはしたものの2試合11回3失点と、ある程度納得のいく投球ができるようになった。今季にかけるものは大きい。

「プロを目ざすには、勝負の年。先発完投を目標に、チームを勝たせるピッチャーになりたい」

 東京都2次予選では、セガサミー戦に先発して5回を4安打1失点。「チームを勝たせる」ピッチャーとして、第一代表での出場に貢献している。

■猪原隆雅[ミキハウス]

 昨年のU-23ワールドカップの優勝メンバーだ。韓国とのスーパーラウンドでは四番で4打数2安打。連戦でも、ただ一人練習での打球速度が落ちずにいたが、それを最後に無念のコロナ陽性が判明し、表彰式にはその姿がなかった。それでも、幸い無症状だったので落ち込みはしない。昨年の公式戦では、打率.354、14打点と1年目からいずれもチーム2位。それでも、「もっと繊細にならないと」とどん欲なのは、「プロへの思いが強いからです。長打でアピールすれば、プロにも近づく」。

 近畿2次予選では、4試合3安打とやや当たりが湿ったが、第二代表を決めた三菱重工West戦では、1点を追う9回に同点二塁打と、勝負強さも見せている。今度こそ。金メダルを首にかけて表彰を受けたい。

■高島泰都[王子]

 準硬式出身という異色の経歴。それでも、明治大時代全国制覇した投球術と経験で、1年目の公式戦では先発、救援にフル回転し、投球回数はチームトップだった。

「硬球に慣れるのに多少時間はかかりましたが、(4月の)静岡大会の日本製鉄鹿島戦でリリーフし、3回を無失点。通用するな、という手応えはありました」

 と高島はいう。準硬式では、金属バットを使用する。ピッチャーに求められるのは空振りの取れる球種で、高島のそれはチェンジアップだ。加えて硬球では、準硬式よりスピードが2〜3キロアップするといわれており、得意のチェンジアップとの組み立てがうまくいった格好だ。

「今季の目玉」と、湯浅貴博監督が太鼓判を押し、今季の東海2次予選では3試合に登板。7回までを2点でしのいだHonda鈴鹿戦では敗れたが、西濃運輸との第四代表決定戦では、救援した9回から2イニングを1四球無安打に抑え、サヨナラ勝ちを呼び込んでいる。過去王子からは、やはり早稲田大準硬式出身の川口盛外がプロ入りしている。高島が王子に入社したのも実は、準硬式での川口との縁だった。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は63回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて54季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

楊順行の最近の記事