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[社会人野球日本選手権]珠玉の投手戦。トヨタ自動車が決勝進出

楊順行スポーツライター
2014年アジア大会での佐竹功年(写真:ロイター/アフロ)

 それにしても……手に汗を握る、とはこのことをいうのだろう。

 第47回社会人野球日本選手権。準決勝の第1試合では、トヨタ自動車とENEOSが一歩も譲らぬ白熱の投手戦を演じた。トヨタは、先発の佐竹功年から細かい投手リレーで、都市対抗に続く夏秋連覇を狙うENEOSを9回まで2安打無失点。6回以降は毎回得点圏に走者を置きながら、ショート和田佳大の美技などでしのいでいる。

 一方のENEOSも、先発左腕の加藤三範が絶妙だ。2安打を許した5回以外は、7回まで二塁を踏ませない。8回から継投した関根智輝も、9回2死までこぎ着けた。ENEOSにとって、この大会3度目のタイブレークが見えかけている。

 だが、ここから。トヨタは五番・樺澤健が中前へのヒットで5回以来の走者になると、高祖健輔が四球で続く。この2死一、二塁から、八木健太郎が左前に弾き返して名勝負の決着をつけた。  

さすがのレジェンド、佐竹功年

 トヨタの投手陣では、藤原航平監督が「さすがです」といったように、なんといっても先発の佐竹だろう。「5回、頑張ってくれ」と藤原監督から先発を託された社会人野球のレジェンドは、破壊力のあるENEOS打線を6回1死で降板するまで2安打無失点。今季はおもにリリーフでの出番で、公式戦の先発は5月の東北大会以来だったが、見事に責任を果たした。

 39歳。

「さすがに、ランニングなどでは若い子には勝てませんし、疲れが抜けにくくはなっています。ただ、昨年はベーブルース杯でも完投していますし、試合での体力となると、また話は別ですよ」

 シーズン前の対話を思い出す。そういえば「今年は、若いピッチャーと勝負するつもりです」といっていたっけ。

「去年はチェンジアップに加え、SFFにも挑戦しましたが、やっぱり基本はまっすぐ。自己最速の149キロをマークしたのは2019年ですが、そこを超えるつもりでやりますよ。ピッチャー陣の軸になれるように、冬のトレーニングではいつもより追い込んで体を作り直しました」

 佐竹はここ何年か、自分の持ち球の握りや投げ方のコツなどを、インスタグラムで惜しげもなく披露していることも知られる。考えようによっては、ライバルチームに手の内を知られることになりはしないか。だがそれについては、

「もっと社会人野球を知ってもらいたいんです。すごくおもしろい野球なのに認知度が低く、僕が"野球をやっているんですよ"といっても、草野球だと勘違いする人もいるくらいです。それと、野球人口の減少に少しでも歯止めをかけたい。豊田市でも、小学校3つでやっと人数が集まるチームがあったり、いまは指導者がいないチームもめずらしくないですから、僕のインスタが少しでも役に立ってくれればと思います。アップしたものに高校生などから質問がきたり、反響があるとうれしいですよね」

 日本選手権では、現存するチームでは最多の優勝5回を誇るトヨタ。佐竹はその5回を、すべて知っているまさにレジェンド。ただ前回の優勝は17年だから、ちょっと間が空いた。

「最近は二大大会であまり勝てていない。チームが強いときは基本、バッテリーが中心で、失点が計算できるんです」

 と佐竹はいう。ここまでの4試合、チームはわずか3失点で、まさに失点が計算できる戦いぶりじゃないか。トヨタ自動車、6回目の優勝まであとひとつ。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は63回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて54季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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