Yahoo!ニュース

[社会人野球日本選手権]大和高田クラブ、SB2位・大津亮介を沈めるジャイキリ!

楊順行スポーツライター
(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

 熱戦が続くプロ野球の日本シリーズ。正式には「日本選手権シリーズ」だって知ってました? そして社会人野球でも、第47回日本選手権が開幕した。初日の第1試合では、第46回クラブ選手権を制した大和高田クラブが、日本製鉄鹿島を2対0で撃破。先発したソフトバンク2位指名の大津亮介から2点を奪い、2回戦に進んでいる。

 社会人野球になじみのない方に説明すると、鹿島などの企業チームに対し、大和高田のようなクラブチームは、一般的に戦力が落ちる。野球界のヒエラルキーでは、プロの次に位置するのが有力企業チーム。練習環境などに制約のあるクラブチームは、社会人が主体といえども、有力選手の進路選択肢としては優先順位が低いのだ。高校野球になぞらえてごく大ざっぱにいえば、企業チームは強豪私学で、クラブチームはふつうの県立高校だと思えばいい。それからすると、大和高田が鹿島に勝ったのは、ジャイアントキリングといえるだろう。

 2対0という緊迫した一戦。大和高田は初回、無死一、三塁から松本凌太の内野ゴロ併殺の間に先制すると、4回にはその松本が、大津のストレートを右中間スタンドへ。投げては先発の左腕・松林勇志が8回を6安打無失点、9回は黒岩龍成が1四球で締めた。全打点を稼いだ打のヒーロー・松本は、優勝したクラブ選手権でも13打数6安打、さらにライトの守備でも活躍し、最高殊勲選手賞を獲得している。

コロナに泣いた昨年の悔しさを……

 そのとき聞いた話を思い出した。

 もともと松本は、ファーストを守る大砲だった。だが、都市対抗でも補強選手としてホームランを記録している西浦雅弥が一塁に回った関係で、外野に転向。それとともに、自分のバッティングも変わった。

「去年までは、大きいのを打ちたくて、ポイントを前にしていたんです。その分、確実性に欠けた。だけど、後ろを西浦が打つようになり、大きいのは必要ないな、と。だからこの冬から、多少詰まっても、手もとまで引きつけて打とうとモデルチェンジしたんです。相手ピッチャーも、コツコツ当てられるほうがイヤでしょうし、長く見られる分、ボール球の見極めができるようになりました。また詰まっても、打球次第でヒットになると思うと、気楽に打席に立てるんです」

 ただ、日本製鉄鹿島戦の4回、第2打席は先頭打者。1球ボールのあとの2球目は、"大きいの"を打つのに格好のバッティングカウントだ。その通り、ストライクを取りにきたまっすぐを強振すると、右中間へ。これが、貴重な2点目となった。

 かくして勝利した大和高田だが、クラブチームのうちでは突出して練習環境に恵まれているし、母体である大和ガスのバックアップも強固。有志が週末だけ集まるようなクラブとはちょっと違う。

 クラブ選手権の優勝5回は2位タイで、先の高校野球になぞらえれば、同じ県立でも、スポーツ推薦があって骨のある高校といった位置づけか。9月初旬のクラブ選手権に優勝し、この大会への出場権を得ると、プロ野球・近鉄などで活躍した佐々木恭介監督は、こう宣言したものだ。

「しばらく休んで、選手権に向けた準備に入ります!」

 その準備が功を奏しての1回戦突破だ。昨年の大和高田は、クラブ選手権の出場を決め、優勝候補と目されながら、大会前のPCR検査でチームに陽性者が出たため、無念の辞退。今年はその悔しさをぶつけて優勝し、コマを進めた日本選手権である。

 この日の勝利で、出場4回のうち3大会で企業チームに土をつけた。2009年はTDK、三菱重工神戸(現三菱重工West)に勝ってチーム最高のベスト8。中6日となる2回戦では、松林はもちろん、高卒2年目で佐々木監督が「大事な試合を任せられるほど成長した」という西陸和も控える。大和高田旋風が吹いても、おかしくないぞ。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は63回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて54季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

楊順行の最近の記事