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来春センバツは福井勢の出場が(ほぼ)確定。復活気配の福井商に『高嶋仁』効果?

楊順行スポーツライター
北信越大会が開催されているHARD OFFエコスタジアム(撮影/筆者)

 10月15、16日に第1週が行われた高校野球・北信越地区秋季大会は、ベスト4が決定した。長野の松商学園のほかは敦賀気比、北陸、福井商と福井県勢が3校。2枠が与えられる来春センバツ出場の重要な参考資料となる大会で、少なくとも福井の1校は決勝に進むから、福井県からの来春センバツ出場がほぼ確定したといっていい。

 北信越ではもともと、福井や石川勢が強い。直近5回ずつの選抜高校野球大会、全国高校野球選手権大会(春夏ともに中止になった2020年を除く17〜22年)の47都道府県別戦績では、奥川恭伸(現ヤクルト)を擁して2019年夏に星稜が準優勝した石川が14勝9敗(春7勝4敗、夏7勝5敗)で全国8位タイ。福井は8勝10敗1分(春2勝5敗1分、夏6勝5敗)で20位タイ。長野と富山は4勝ずつで34位タイ、新潟は1勝で43位タイと、甲子園の勝ち星では北信越の5県にずいぶん差がある。福井は、通算の勝利数も95に伸ばし、長野を抑えて北信越のトップだ。

「福井のレベルが上がったのは、(敦賀)気比さんの存在が大きいと思いますよ」

 というのは、20年から母校・福井商を率いる川村忠義監督である。

「1978年センバツで準優勝しているように、昭和の時代、福井の甲子園での勝ち星は大半が福井商でした。ですが平成に入ると、94年夏に初出場した敦賀気比が上位に進むようになり、15年には北陸勢としてセンバツに初優勝。われわれ公立勢は、その気比に勝たないと甲子園はなく、その切磋琢磨が全体のレベルを上げてくれたと思います」

 甲子園の通算勝ち星でも、古豪・福井商が33勝で県勢トップだが、敦賀気比も31勝で猛追。その気比は今回の北信越でも、「全然ダメ」と東哲平監督を激怒させながら、中越(新潟)との準々決勝では4点差をはね返す地力を見せ、4強入りしている。またもうひとつの4強・北陸を率いるのは、気比で長くコーチを務めた林孝臣監督だ。

 川村監督にしても、春江工(現坂井)を率いて13年のセンバツに出場したときは、12年秋の福井大会決勝で敦賀気比に敗れながら、北信越の決勝で借りを返しての初出場。かと思うとこの夏は、福井の2回戦で気比に0対7、さらに秋の決勝でも2対6で完敗。まさに「気比に勝たないと甲子園はない」ことを、体じゅうで知っているといっていい。

1年生三遊間コンビが引っ張る

「夏は、私が監督になった年に入学してきた3年生のみで戦いましたが、この新チームは監督になってからの1、2期生。決勝で、夏の甲子園帰りの気比と戦えたのは大きいですね。負けたとはいえ、全国のレベルをハダで感じてくれたと思います」

 13年の夏以来甲子園から遠ざかり、全国では「忘れられていた」(川村監督)福井商を引っ張るのは、松宮諒治と前川竜我という1年生三遊間コンビだ。ことに中学時代、リトルシニアの福井県選抜メンバーだった前川は、松本国際(長野)との初戦では2安打4打点の活躍。連投の川野仁輔が完封した富山第一戦でも、先制点につながるヒットを放っている。

「入学してすぐの春に、いきなり5割近い結果を残した子。夏は、コロナに泣かされた3年生のみで戦ったためメンバーから外しましたが、試合に使えば結果を出す選手です。やはり、1年生が引っ張るチームは強い。春江工でセンバツに出たときも、1年の栗原陵矢(現ソフトバンク)が打線の中心でした。前川はまだそこまでのレベルではないですが……」

 と川村監督はいう。そしてもう一人、気になる名前がいた。県大会では.438と高打率を残し、富山第一戦でも2安打と気を吐いた捕手の高嶋仁だ。ん? 高嶋仁? 長く智弁和歌山などを率い、歴代最多の甲子園通算68勝を記録した名監督と同じじゃないか。

「いや、僕は"じん"と読むので(高嶋監督は"ひとし")。また親も、別に高嶋監督を意識したわけじゃないと思います」

 と本人。川村監督は「元気だけはあります(笑)」と、一定の評価をしているようだ。

「最多勝監督にあやかって、勝ち星を伸ばしていければ」と笑う高嶋。北陸との準決勝を制すれば、福井商にとって05年以来のセンバツ出場が見えてくる。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は63回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて54季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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