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このドラフト候補を知っていますか? 2 吉村貢司郞(東芝)

楊順行スポーツライター
黒獅子旗と呼ばれる都市対抗野球の初代優勝旗(撮影/筆者)

 若き三冠王が三振! 

 東芝は6日、セ・リーグを連覇してCSを控えるヤクルトと練習試合を行った。試合はヤクルトが4対0で勝ったが、先発して3回を無失点に抑えたのが東芝・吉村貢司郞である。3安打7三振という内容。1回1死一、三塁からは、村上宗隆をフォークで空振り三振に取り、

「自分の球が通用するか楽しみだった。少なからず、自信にはなりました」

 東芝に入社して3年目。いまの社会人で、一番いいピッチャー……というのは、今年の都市対抗で自身4度目の優勝を果たしたENEOS・大久保秀昭監督の評である。

 国学院大では4年春に本格化し、そのシーズンは3勝、防御率0.93。だがその後右肩関節を痛め、プロ志望届を出しながら指名はなく、東芝に入社した。故障は順調に回復し、1年目から東京ドームデビューしたが、柱と期待された2年目、ある日は先発でKOされたかと思えば、優勝した四国大会の準決勝は、セガサミーから14三振を奪う3失点完投。使ってみるまでわからない投球に「好不調の波、ムラがありすぎる」と平馬淳監督の信頼もいまひとつだった。

 吉村自身も、もどかしい。しっくりくるフォームを模索する。試しに、セットポジションから左足かかとを一度一塁方向に大きく蹴り上げてみると、その反動で左ヒザを胸に引きあげ、スムーズに体重移動ができた。すると、「リズムと勢いが生まれ、投球が安定してきたんです」。いわば"振り子投法"だ。

振り子投法で三冠王から三振!

 実戦で初披露したのが2021年9月、都市対抗西関東代表決定トーナメントのENEOS戦だ。平馬監督が「期待せずに」先発に起用したこの試合、吉村は圧巻の投球を見せる。伸びのあるストレート、フォーク、さらにカットボールを有効に使い、連打を許さない。またときには、振り子ではなくクイックで投げてタイミングをずらし、4安打10三振の完封だ。

 この年、東芝は結果的に本大会出場を逃したが、10月の神奈川企業大会でも、2安打8三振でENEOSを再度完封。ENEOSに補強された東京ドームでは、日本通運戦で先発を任され、7回1失点と勝利に貢献している。

 今季は最初から快調だった。3月の東京スポニチ大会では、同日に行われた準決勝で救援、決勝で先発と大車輪で、ことにJR九州との決勝では6安打10三振。「ストレートが伸びる。まっすぐか変化球か、どちらかに割り切らなければ打てない」という相手打線に三塁を踏ませなかった。吉村はこの大会、17回を投げて20三振2失点。3勝に貢献し、文句なしの最高殊勲選手賞に輝いた。

 優勝候補として臨んだ都市対抗では、北海道ガス戦に先発して6回1失点と好投はしたものの、チームは0対1で敗退。吉村は社会人での3年間、都市対抗3試合で1.23という防御率を残しながら、東芝では初戦を突破できていない。

 今月末から開催予定の日本選手権では、開幕戦でバイタルネットと対戦する。もしドラフトで指名されたら、そこでのVを名門への置き土産にしたい。力は、十二分にある。なにしろ、三冠王を三振に取るんだもの。

■よしむら・こうじろう/1998年1月19日生まれ/東京都出身/183cm84kg/右投右打/日大豊山高→国学院大

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は63回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて54季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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