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やるなあ、ロウキ世代。石川昂弥がサヨナラ打

楊順行スポーツライター
2019年、東邦高時代の石川昂弥"投手"(写真:アフロ)

 中日・大野雄大投手が阪神を相手に、9回を完全投球。ただし打線も青柳晃洋投手を打てず、試合は延長にもつれた。大野は10回表2死から、30人目の佐藤輝明に二塁打を打たれ大偉業は逃したものの、その裏1死満塁から、石川昂弥が中前へサヨナラ打。真っ先にベンチを飛び出した大野が、

「僕は佐々木朗希君じゃない。記録なんてどうでもいい、勝ててよかった」

 といえば、3年目で初のサヨナラ打というもう一人の殊勲・石川昂は、

「大野さんからユンケルをもらったので打てました!」

 過去、9回まで一人の走者も出さないながら、延長にもつれて完全試合を逃した例では、2005年8月27日、楽天戦の10回無死からヒットを許した西武・西口文也がある。このときも西武が10回にサヨナラ勝ちし、西口は1安打完封だった。さらに西口と大野雄は、ともに9月26日生まれと誕生日が同じらしい。なかなかドラマチックだ。

 石川昂は、大野雄が引き合いに出した佐々木朗希と同世代の高卒3年目。ともに高校日本代表として出場した2019年のU18ワールドカップでは、四番を任されていた。参考までに、こちらもどうぞ。

https://news.yahoo.co.jp/byline/yonobuyuki/20220426-00293136

 今シーズンの石川昂は開幕から全試合に先発出場し、チーム最多の18打点と勝負強さをアピールしている。実は4月28日の阪神戦では、大野雄から「ユンケル」をもらい、プロ入り後の甲子園初本塁打を放っていた。

グラウンド整備中の鼻歌

 甲子園、で思い出したことがある。19年のセンバツでは、東邦(愛知)のエース兼三番として、平成最後の優勝を飾るとともに、1大会3本塁打の大会タイも記録した石川。大会中、甲子園で撮影しているカメラマンからおもしろい話を聞いた。

「石川君、5回終了時のグラウンド整備中に、キャッチボールしながら『今ありて』を歌っているよ」

 今ありて 時代も 連なり始める……グラウンド整備中に流れる大会歌(阿久悠作詞/谷村新司作曲)。至近距離のカメラマン席にいるからこその発見だけど、真剣勝負で緊迫しているエースの鼻歌というのは、なかなかいい感じだ。

 本人にそのことを確かめようとしたのだが、なにしろチームの中心選手とあって、つねに報道陣に囲まれているから、本人に直接質問すると、ちょっといいエピソードが他社にもれる。そこで、女房役だった成沢巧馬捕手に確認してみた。

「ああ……そういえば歌っています。グラウンド整備の時間が、ちょうどいいリラックスになっていると思いますよ。フレンドリーでおもしろいヤツ。楽しくやっているから、アドレナリンが出るんだと思います」

 高校時代の石川は、本当に楽しそうに野球をやっていた。アウトを取ればガッツポーズし、野手からの声かけには笑顔で答える。報道陣との受け答えも、質問者の目を見ながら表情豊かだった。

 広陵(広島)との2回戦では、今季ドラフトの目玉といわれる好投手・河野佳(現大阪ガス)から、一発含む2安打2打点。盗塁も決めて、

「ホームランは自分のスイングを心がけたおかげ。甲子園なんで、小さくならずに思い切って振ろうと思ったんです。ベースを回るときはもう、興奮状態でした。盗塁すると、ピッチングにとって体は疲れますけど、あたたまってちょうどいいです」

 こんな具合。「大野さんからユンケルをもらった」というなかなかのコメント力は、高校時代からだったのね。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は63回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて54季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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