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センバツ高校野球 第11日のお気に入り/ごくごく私的な大会ベストナイン

楊順行スポーツライター
東海大相模は写真の2015年夏以来春夏通算5回目の優勝。ライバル・横浜に並んだ(写真:岡沢克郎/アフロ)

 2対2で迎えた9回裏。この日なんと、満塁で回るのが3打席目になる東海大相模・小島大河がはじき返した打球は、明豊のショート・幸修也の右を襲う低いライナー。これを捕りきれなかったのを見て、三塁から深谷謙志郎がサヨナラ優勝のホームを踏んだ。東海大相模、東日本大震災のあった2011年以来、センバツは10年ぶり3度目の優勝……。夏も合わせれば自身4度目の優勝となった門馬敬治監督は、

「後半まで明豊さんに完全に押されていました。ですが崖っぷちで粘り、しぶとく、最後まで執念を持って戦ったのが、最後のサヨナラにつながったと思います」

ピッチャーは畔柳亨丞

 優勝投手となった石田隼都は、この日も加えて2完封を含む29回3分の1を投げて無失点! しかも奪った三振はなんと45に達したからオドロキだ。ただ……大会を通じてのベストナインを選ぼうとすると、個人的な好みとしてピッチャーは中京大中京の畔柳亨丞を推したい。なんといっても、6安打完封した専大松戸との1回戦、バントさえ簡単にさせなかった球の強さにほれぼれした。続く常総学院との2回戦では、7回でお役御免ながら大会最速の149キロをマーク。球数がかさみ、リリーフ登板だった明豊との準決勝でチームは敗れたが、畔柳の投手成績は2完封を含む27回3分の1を投げて失点わずか1。相模の石田と比べても遜色ない。

 捕手は、同じ中京大中京の加藤優翔。畔柳を巧みにリードしながら、打っても4試合で16打数8安打、そして8打点の勝負強さが光った。ことに常総学院戦は、3二塁打含む4安打で4打点だ。一塁手は、仙台育英の島貫丞主将。プレーどうこうより、「春はセンバツから。穏やかで鮮やかな春、そして1年となりますように。2年分の甲子園、一投一打に多くの思いを込めてプレーすることを誓います」という宣誓が感動的だった。

 二塁には、明豊の黒木日向。試合ごとに打線を組み替えるチームで準々決勝からは四番を任され、智弁学園との準々決勝では3安打3打点、決勝でも初回にタイムリーを放つなど19打数9安打でチーム最多の7打点をたたき出した。終盤の守備固めでは一塁に回り、とくに中京大中京との準決勝で2点リードの8回、先頭打者のヒット性の当たりを横っ飛びで好捕したのはとてつもなく大きい。

 三塁には、東海大相模の四番・柴田疾を。東海大甲府との初戦では、1点を勝ち越した延長11回、貴重な追加点をたたき出し、天理との準決勝の初回に先制打など、21打数7安打。それととにかく、捕ってからの送球が素晴らしい。ショートは明豊の幸。難敵・智弁学園との準々決勝は初回、ファウルフライの落球で命拾いして大会14人目の先頭打者ホームランを放つと、これがチームを勢いに乗せ、初の決勝進出に導いたという印象がある。

ベルトがよく切れました

 外野はまず、明豊の阿南心雄。智弁との準々決勝、6回の守りだ。2点差に追い上げられ、なおも2死一、三塁から、山下陽輔の打球はレフトの頭上を越えそうな長打コースへ。だがこれを背走し、大ジャンプして好捕。中京大中京との準決勝でも、初回2死二、三塁のピンチに、辻一汰の左中間への当たりを美技で救っている。実はもともとはショートだが、「センスがないんです。守備が下手で、昨秋から外野に回された」のだとか。だが、うまくないという自覚があるから、球に食らいつくことだけを意識した。それゆえの美技だった。明豊の堅い守備陣は結局、大会通じて無失策。ダイビングキャッチを試みるため、チーム全体でもよくベルトが切れたり、ユニフォームまで裂けたのはご愛敬だ。

 専大松戸との初戦に途中出場し、虎の子のランニング2点本塁打した中京大中京の櫛田理貴。昨秋は三塁ベースコーチに甘んじ、マネージャー就任も打診されたが、「冬の頑張りが頭に浮かんだ」という高橋源一郎監督の一手に見事、応えた。以後はスタメン起用され、仙台育英との2回戦では先制打するなど、計4打点をあげている。もう一人は、監督の次男・東海大相模の門馬功だ。急性胃腸炎で準々決勝からリタイアした大塚瑠晏主将の代行を務め、その福岡大大濠戦ではホームラン。斬り込み隊長として21打数9安打し、決勝では申告敬遠が2打席、という珍事もあった。というわけでまとめてみると、

[投] 畔柳亨丞(中京大中京)

[捕] 加藤優翔(中京大中京)

[一] 島貫 丞(仙台育英)

[二] 黒木日向(明豊)

[三] 柴田 疾(東海大相模)

[遊] 幸 修也(明豊)

[外] 阿南心雄(明豊)

   櫛田理貴(中京大中京)

   門馬 功(東海大相模)

 というのが私のベストナイン。皆さんはいかがですか。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は63回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて54季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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