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さあ、ドラフト。とっておきを探せ! その9 異色の国立大出身右腕・中田朋輝[三菱重工神戸・高砂]

楊順行スポーツライター
三菱重工神戸・高砂は出場を逃したが、社会人の都市対抗野球大会は11月22日開幕(写真:アフロ)

 国立広島大、しかも理系の工学部出身というから、野球界では異色も異色だ。ちなみに、卒論のテーマは「堆肥発酵熱の定量的解析」。野球とはほとんど関係ありません……という中田朋輝に、理系では実験などで時間を割くため、練習とのやりくりが大変だったのでは……と問うと、「そこは多少、配慮してもらいました」と笑う。

 山口・宇部高時代は、3年夏の3回戦敗退など、県ベスト8が最高成績。当然、甲子園など縁もゆかりもない。だが、「高校野球でやり残した感がありって」、一般入試で合格した大学でも野球を続けた。すると、高校時代は無縁だったストレッチやウエイト、自ら工夫した練習の成果でパワーアップ。質の高い指導を受けてこなかったから吸収力も旺盛で、イッキに開花した。130そこそこだった球速は最速148キロまで伸び、3年春秋には最優秀防御率を獲得している。そのうち3年秋は、広島工大戦のノーヒット・ノーランを含む0.55と抜群の数字で、社会人でのプレーが視野に入ってきたのはこのころだ。

異色の国立大出身右腕

 ただ、「変化球に自信がなく、3年までは勝ちきれなかった」ため、4年春にはナックルカーブに取り組んだ。するとこれが威力を発揮する。3季連続の最優秀防御率とともに6勝を稼ぎ、35年ぶりの大学選手権出場に大きく貢献したのだ。そして2019年は、「大学入学時には、考えもしなかった」という社会人野球1年目。中田朋輝はこう振り返る。

「まだまだ力不足でした。社会人の打者は、全員が大学野球の三、四番のレベル。自信を持って投げた球を簡単に見極められ、打ち返され……ただ、思い通りに投げられた球なら差し込めたり、打ち取れたりはしました」

 とくに苦労したのは、制球だという。そこは社会人球界屈指の技巧派・守安玲緒兼任コーチのブルペンの姿から学び、さらには、

「守安さんのいう、コースに対してしっかりラインを"出す"感覚を吸収中です。1年目よりはイメージができている」

 今季はさらに、2段気味のモーションに改造し、瞬発系のトレーニングを増やして制球が向上。多用し始めたカットボールも有効で、7月には阪神二軍との練習試合に先発して5回を5安打1失点と好投した。それでも、「まだまだ、通用するとは思えない」とは本人。都市対抗予選前には「1年目には登板がなかったので、ぜひ緊迫した予選で投げてみたい」と語っていたが、チームは近畿2次予選の3連敗で出場権を取れず、中田自身も1試合の途中登板に終わっている。

 来季は、三菱グループの野球部再編で、統合する他チームから多く選手を迎え入れることになるはず。となると、現有戦力から一人でも多くプロに巣立つに越したことはない。ということは……もしかすると、大学進学時の中田が「想像もしなかった」プロの世界が、そこまで近づいているかもしれないぞ。

なかた・ともき/三菱重工神戸・高砂/投手/右投右打/1996年9月19生まれ/山口県出身/185cm89kg/宇部高→広島大

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は63回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて54季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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