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2019年高校野球10大ニュース【10】12月/近大高専。史上初の甲子園出場なるか?

楊順行スポーツライター
2019年センバツの優勝は東邦(愛知)(写真:アフロ)

 高専。高等専門学校の略で、中学校卒業生を受け入れ、原則として5年制で工学や商船などの専門技術者を養成する高等教育機関だ。全国に国公立が54校。そして、3校ある私立のひとつが近畿大学工業高等専門学校だ。その、近大高専。もしかすると、高専として史上初めての甲子園出場がかなうかもしれない(ただし高野連の規定によって、出場資格があるのは3年生まで)。

 来春センバツの、「21世紀枠」地区候補9校が発表されたのは12月13日。各都道府県から推薦された候補校から、地区ごとに最終候補1校に絞り込まれた。そのうち、東海地区から選ばれたのが、秋の三重県を初めて制し、秋季東海大会に出場した近大高専だったのだ。この選出を受けて、重阪俊英監督はこう語った。

「ただただうれしく思っております。ですが、やることは変わりません。大いに希望を持ちながら、基本に忠実に足元を見つめ直していきます」

県4強、8強の常連

 近大高専の開校は、1962年。当時は同じ三重県の熊野市にあり、熊野高等専門学校としてだったが、熊野工業高等専門学校を経て2000年に現校名となり、11年に同県名張市に移転した。09年には、鬼屋敷正人(元巨人)が高専出身者として初めてドラフト指名を受けている。

 もともと力はあった。ここ5年に限っても、毎年春夏秋の少なくとも1回は8強以上に進んでおり、17年は春に優勝し、夏もベスト8。18年11月には、大学事務職のかたわら、ヤングリーグの香芝ベースボールクラブで指導をしてきた重阪監督が就任。19年春にベスト8に入ると、わずか1年で秋の東海大会初出場を果たすわけだ。だが、重阪監督はこういう。「まだまだのチームで、勉強させていただいた積み重ねの結果なので、全く想像もしていなかった。僕は大したことはできません。選手の頑張りに尽きます」。

 投打の中心は白石晃大だ。最速140キロ右腕で、打っても1年夏から一番に座る。東海大会は加藤学園(静岡)との初戦に先発。7回4失点と本調子を欠いたが、打つほうでは5打数3安打と気を吐いた。チームも、終盤に4点差を追いつき、4対5で敗れたものの延長にもつれ込む粘りを発揮している。白石本人は、「自分の甘さが出た試合。高専初の甲子園を目ざしていましたが……」と唇をかんだが、21世紀枠候補として、夢はまだ継続しているわけだ。

 ただ、学業の忙しい高専のこと。週3日は8限授業で、実験などもあれば、テストで60点以下の赤点だと補習、追試などを受ける。2学年で60名の大所帯ながら、「正直、選手がそろうのは毎週金曜日だけ」(重阪監督)という。かと思うと地域交流にも積極的で、部員たちはボランティアサークルにも加入し、祭りに参加すれば後片付けを買って出、野球教室の会場としてグラウンドも提供。これらも21世紀枠としての推薦理由のひとつで、名張市に根づき、まだ甲子園出場のない県北西部・伊賀地区きっての強豪になりつつある。

「何事においてもやり切るため、目的を持って取り組むこと。また、守備を見つめ直しながらバランスよく練習ができれば」重阪監督は冬を見すえる。過去には分校も、通信制高校も出場を果たしている甲子園。令和となって初めてのセンバツで、高専の初出場という歴史が刻まれるか。21世紀枠の地区候補9校中3校(一般選考は29校)を選出する選考委員会は、来年1月24日である。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は63回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて54季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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