Yahoo!ニュース

さあ、都市対抗野球開幕。出場チームのちょっといい話7/MHPS

楊順行スポーツライター
第90回都市対抗野球大会は7月13日開幕(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 とにかく、神奈川のチームにはかなわないと思っていた……と、三菱日立パワーシステムズ(以下、MHPS)を率いる後藤隆之監督。1993年、三菱重工長崎に入社してすぐの関東遠征では、日本石油(現JX-ENEOS)とのオープン戦で先発し、3回まではゼロに抑えたものの4回に9失点。96年の都市対抗では、東芝との決勝で先発したが、1死しか取れず20球で1回途中KOである。

「神奈川のチームには日本代表や、大学のスターがたくさんいて、体格、パワー、われわれとはワンランクもツーランクも違っていましたね」

 そういう後藤が、だ。17年、三菱重工長崎と統合したMHPSの指揮官となると、その年に続いて今年も西関東(実質は神奈川のようなもの)第1代表での出場である。2次予選では東芝、JX-ENEOSにいずれも逆転勝ち。とくにJX-ENEOS戦は、8回表に4対4と同点に追いつき、その裏1点突き放されるも9回の2点で逆転、というねばり強さだった。コンプレックスは、もはやない。もともと後藤"投手"、三菱重工長崎が優勝した2001年の日本選手権では、決勝で東芝を完封し、最高殊勲選手に輝いてもいたのだ。

投打に充実で日本一を狙う

 今季のMHPSでは、なんといっても、昨年3月の右ヒジ靱帯手術から復活した右腕・大野亨輔の存在が大きい。東芝戦は4安打2失点の完投勝利。さらに樟南高卒3年目の左腕・浜屋将太、中央大卒の新人150キロ右腕・伊藤優太も春先から登板している。ソフトバンク入りした奥村政稔の穴は、十分以上に埋まったといっていい。打線では常道翔太、東京ドームで2年続けて2本塁打している龍幸之介らの主軸はやや不調だったが、久保皓史、久木田雄介らがそれをカバーした。

 宮崎の春季キャンプをたずねたときのこと。チーム統合から3年目、初めて新人が入社し、選手31人で「ようやくふつうのチームになりました」と後藤監督は笑っていた。なにしろ統合初年度は、選手だけで45人という大所帯。統合直後のチームをまとめるだけでばたばたしていたのだ。

「都会と田舎のチームがいっしょになり、やっと一体化しました。ただその過程で、先輩を敬う姿勢がややないがしろになっていたので、今年はまず原点に帰ろうかな、と。選手の考え方がわからないのはイヤなので、しっかりコミュニケーションを取ろうと思っています」

 4年連続出場のこの大会、初戦の相手はトヨタ自動車。16年の都市対抗を制している難敵だが、

「相手にとって不足はなく、むしろやる気が出ます。少ない得点での勝負になるでしょう」

 と後藤監督は闘志を見せる。MHPSの最高成績は、統合初年度の17年など、2回のベスト4だ。歴代、神奈川勢の強さは圧倒的で、2000年代には6回の都市対抗制覇がある。ただここ5年は優勝から遠ざかっている。このブランクは、日本石油が初優勝した56年以来、神奈川勢としては最長に並ぶものだ。後藤監督はいう。

「もちろん、全国制覇はそんなに甘いものじゃないと思います。ですがいまのチームは、一発やってくれる可能性を秘めている。神奈川の意地を見せたいですね」

 三菱重工長崎時代に神奈川の強さを、そして神奈川を倒しての日本一を知る後藤監督。それは決して大風呂敷ではないはずだ。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は63回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて54季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

楊順行の最近の記事