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第90回都市対抗野球・出場チームのちょっといい話3/JFE東日本

楊順行スポーツライター
都市対抗野球は90回の記念大会を迎える(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 6月8日、南関東第1代表決定戦。ホンダに13安打7得点で打ち勝ったJFE東日本が、3年ぶり23回目の出場を決めた。初回中澤彰太、新人の今川優馬の連打から、やはり新人・峯本匠の2点二塁打で先制する。さらに平山快と岡田耕太を含めた4人の新人野手だけで、計8安打5打点の活躍。投げてはDeNAから復帰したベテラン・須田幸太が、2次予選全3試合を抑えとして奮投した。第1代表での本大会出場は、2001年(当時は川崎製鉄千葉)以来、18年ぶりのことになる。

 落合成紀監督、さぞやご満悦だろう。

「超攻撃的な打線になると、いまからワクワクしています」

 春季キャンプ。9人の新人と須田の補強に成功し、落合監督が語る構想は「超攻撃的なチーム」だった。17年の8月、当時35歳で就任した若き指揮官。初めての采配だった昨年の都市対抗2次予選は、第2、第3代表決定戦で0対1、1対2と敗れて本大会出場を逃した。そこで痛感したのはシンプルに、「あと1、2点取れれば勝つ」ということだ。

「日本選手権の代表決定戦も、東芝にサヨナラ負けです。投手はある程度抑える。つまりテーマは明確で、得点力アップです」

 補強した新人の顔ぶれも、それを明確に表している。投手4人、捕手一人のバッテリーを除き、野手が4人。平山快は東海大時代三冠王の実力者で、今川はスイングスピードの速さと飛距離が売り。峯本は大阪桐蔭高時代の14年夏に甲子園を制覇したメンバーで、岡田は駒澤大ではベストナインに輝いた一塁手。落合監督は「新人野手4人はそれぞれ抜きん出た力があり、場数も踏んでいるし、全員スタメンもありうる」と語っていたが、第1代表決定戦ではスタメンもありうるどころか二番・今川、三番・峯本、四番・平山快、六番・岡田と、チームの中軸も中軸だ。

目論見どおり超攻撃的な打線が実現

 プロから復帰の須田も含めると大量10人もの補強、さらにコーチとして、元オリックスなどで活躍した山森雅文氏を招へい。なみなみならぬ意気込みがうかがえる。落合監督はいう。

「10人もの補強はおそらく初めてで、会社の理解にも恵まれました。ただ、2年連続して東京ドームに出ていないうえ、わがままを聞いていただいた以上は"結果を出しなさいよ"ということ」

 いわば、背水の陣である。それでも落合監督は、「春季キャンプからワクワクしていました」といい、2年目で主将に抜擢された鳥巣誉議は「すごい新人たちが入ってきたので、去年のレギュラーも危機感を持っています」。

 人材だけではない。「150キロの投手に対して、自信がないと力んでしまい、それでフォームが崩れる」と、得点力不足の一因はパワー不足にもあると分析。昨夏以降はトレーニングコーチを迎えて強化を図り、全員がパワーアップを実感していた。4月の日立市長杯、5月の東北大会ではいずれもベスト4に進み、打線は日立の4試合22点、東北では4試合でなんと40点をたたき出している。

 落合監督のいう「超攻撃的な打線」で四番に座る平山快は、東海大では三冠王や最高殊勲選手のほか、2年秋からのスタメン定着で打率.347、ホームランも12本マークしている強打者だが、それにしても1年目から堂々の四番とはただ者じゃない。そういえば春には、こんなふうに語っていた。

「僕の長所は、逆方向にも遠くに飛ばせるところ。右に体重を残しつつ、右手で押し込むイメージですね。体重を残して手元に引きつけるから変化球にも対応できるし、低めの変化球を見逃せると思っています」

 それが、大学よりもキレ、変化球の精度とも増す社会人投手への対応につながっているわけか。

 投手陣には、ヒジの手術で不安のなくなった中林伸陽、在原一稀、ストレートの質が抜群の本田健一郎らがいて、後ろに控える須田も安定感抜群。過去の都市対抗では98年の準優勝が最高成績のJFE東日本。落合監督の背番号51は「"5"つ勝って日本"1"」を意味するのだそうだ。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は63回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて54季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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