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センバツ第2日、イチオシは日本航空石川

楊順行スポーツライター
(写真:アフロ)

「このチームは、打ち勝つスタイルやな」

 前チームが夏の甲子園に出場したため、新チームのスタートは遅めの昨年8月中旬。だが大阪桐蔭との初の練習試合は、敗れたもののプロ注目の柿木蓮らから6得点をあげた。中村隆監督がいう。

「旧チームから打線の核が残ったので、手応えはあったんです」

上田、小板の重量打線

 ずらりと残った夏の経験者は原田竜聖、上田優弥、長谷川拳伸、小板慎之助ら。確かに破壊力は抜群で、迎えた県大会は決勝の9得点を除き4試合が二ケタ得点の5試合57点、チーム打率は・459に達した。北信越から神宮大会の公式戦11試合トータルでも、97得点。上田の・581を筆頭に、チーム打率は・379(36チーム中7位)と高水準だ。上田、原田、小板、長谷川の主軸4人は、いずれも10打点以上を稼いでいる。

 なかでも勝負強いのが、通算HR20本超のスラッガー、四番の上田だ。185センチ97キロの大きな体で、旧チームでも四番を打った。夏の甲子園では、木更津総合との1回戦、3点差を追いついた9回2死から決勝の適時打を放っている。あるいは昨秋、高岡商との北信越1回戦。初回先制二塁打のあと、6回にはプロ注目の速球派・山田龍聖からダメ押し三塁打を放ち、「あれは、おいしいところを持っていきましたね」(上田)。また日本文理との準々決勝でも、先制二塁打に中押し打と、確かに肩書きつきの殊勲打が多い。

 出身は、ヤング神戸須磨クラブ。やはり同クラブOBの中村監督が見学に行ったとき、左打席からレフト方向にとてつもない当たりを飛ばす選手がいる。びっくりして、「なんじゃ、こりゃ。進学先は決まっているんですか」と指導者に聞くと、「まだ中2やで」。さらに、目が丸くなった。それが、上田だ。けた外れの飛距離は、高校でますますみがきがかかっている。

 また「六番に強打者を置きたい」という中村監督が期待するのが、小板。夏の石川大会では4割近い打率を残し、甲子園でも、花咲徳栄戦は四番を任されている。新チームではなかなか打撃が上向かなかったが、北信越の日本文理戦だ。「下級生だった甲子園での気持ちにリセットして」臨むと、3安打3打点。星稜との決勝も3安打3打点で、北信越ではつごう17打数8安打と、大いに気を吐いた。「子どものころよく見に行っていた」甲子園でも、昨夏の9打数2安打に続いて存在をアピールしたい。

投手陣も急成長だ

 そして……新チームがスタートしたときは、打線におんぶにだっこだった投手陣も急成長した。秋の県大会では、5試合でなんと23失点という投壊状態。甲子園でも登板した杉本壮志が腰痛、大橋修人が肩の張りと出遅れ、県大会は1年生頼みだったせいもある。だが、北信越大会前の東海大甲府との練習試合で先発した重吉翼が、3回を6三振という目の覚めるような快投。高岡商との北信越の初戦の先発に抜擢されると、140キロ台の直球とキレのいいスライダーにフォークを交え、2安打11三振の完封だ。

 重吉は結局、北信越の3試合16回3分の2を自責1、防御率0・54の力投。中村監督はいう。

「短期間で球速が10キロアップして、びっくりでした。"ハンマートレで背筋を鍛えたのがよかったのか、リリースでボールを押せるようになった"と本人はいいます」

 続く日本文理戦では、下級生の活躍に刺激された大橋が、Max145キロを武器に日本文理に1失点完投。センスのいい左の技巧派・杉本も加え、終わってみれば北信越の4試合は計3失点と、不安だったはずの投手陣が大満足の結果だったのだ。

 2009年夏、能登地方から初の甲子園出場を果たした日本航空石川。そのときと昨年夏に、ともに1勝を記録している。そして今回の出場も、能登からは初めてのセンバツだ。相手は、データ解析の活用で話題の21世紀枠・膳所(滋賀)。中村監督はいう。

「相手を見ての野球ではなく、打線で押すのは変えずにいきたいですね」

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は63回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて54季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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