今年のアメリカ大統領選は、これまでの選挙と異なりなかなか「当選確実」の判定が出ないのが特徴だった。接戦州が文字通りの大接戦になり開票に時間がかかっていることや、大手報道各社が前回2016年の反省ないしトラウマから、各州の選挙人獲得や当選確実の判定により慎重になっていることが要因として挙げられる。

こうした大勢判明の遅れは、一時「世論調査がまた外れた」との風評が広がる原因にもなった。

開票序盤で、バイデン氏が選挙戦終盤に注力していたフロリダ州などの大きな接戦州を落としたことや、他の接戦州の多くでもその時点での開票結果でトランプ氏が先行していたことから、バイデン氏が事前の予測よりもかなり弱いとの受け止めが広がったのだ。

しかし、結局のところ、バイデン氏は獲得選挙人数のうえでは差をつけて勝利する勢いだ。開票がかなり進んだ現時点(日本時間8日未明)での状況を見渡すと、同氏は現在もなお開票が続く接戦州で概ね僅差ながらリードしており、最終的な選挙人獲得数は最大で300人を窺うペースとなっている(過半数は270人)。今後法廷闘争や再集計のために結果の確定にかなり時間を要する可能性はあるが、大勢は覆らないだろう。得票数は既に約7400万票と、オバマ大統領の約6900万票を上回り史上最多となることは確実だ。世論調査やそれをもとにした予測も、散々に批判された2016年とは異なり今回はほぼ的中したと言ってよさそうだ。

緩慢な開票プロセスの中で、徐々にバイデン氏の「大勝」が明らかになってきている格好だ。開票序盤の報道や論評にあった「バイデン氏苦戦」という雰囲気とはかなり違う結果と言える。一体なぜ、こうした現象が起きたのか。

開票のスピードには地域差がある

まず最初に指摘しなければならないのは、開票の速さには地域差があるということだ。開票作業は、人口が少ないところの方が速く、多いところの方が時間がかかるのが一般的だ。

加えて、都市部と郡部では投票・支持傾向そのものが大きく異なることも多い。今回も、接戦州では州都などの都市部でバイデン氏が優勢であるために、開票が進捗するにつれて郡部でのトランプ氏の「貯金」が減ったり逆転する様子が見られた。

同様の現象はアメリカに限らず、日本でもよく見られる。特に知事選では、大票田である県庁所在地などの大都市と、そうでない地域で無党派層のボリュームなど投票傾向が違うため、開票が進むにつれて県庁所在地で強い候補が開票途中でそれまで先行していた候補を追い抜くケースが見られる。最近では今年7月に行われた鹿児島県知事選がそれに該当する。

また、筆者も情勢調査に取り組んだ、いわゆる「大阪都構想」の2度目の住民投票では、TVの開票速報で開票率が8割を超え、且つ賛成票の数が上回っている時間帯に、報道各社が「反対多数確実」の判定を出した。これは、元々反対が強く人口も多い南部の区などの開票作業が時間を要した結果、開票時間の終盤になって反対票が大きく積み増されたためだ。

大阪都構想の住民投票がそうであったように、事前の世論調査や出口調査の結果が僅差での拮抗を示していた場合、その結果だけで当選(多数)確実を出すことは困難となる。開票状況を見ながら、残票の数や、残票自体が多い地域の状況を踏まえて慎重に判定を出していくことになるのだ。

画面では賛成票が多いのに「反対多数確実」と言われると視聴者は驚くだろうが、その背景にはこんな事情があるのだ。当然、そこに大規模な不正など存在しない

「世論調査」と「予測」は別物

今回はこうした開票の時系列での状況変化を踏まえずに、世論調査と予測を混同した議論が多く見られた。

その要因には、バイデン氏勝利の予測の中に過度に「楽観」的なものが含まれ、それが広く周知されたことや、予測とともに公開される当選確率などの数字が独り歩きしたことがありそうだ。

今回のアメリカ大統領選では、接戦州が軒並み僅差で拮抗する調査結果が事前に示されており、バイデン氏がフロリダ州などを落とした場合は「決着」に数日かかるであろうというシナリオは事前に広く報じられていた。実際の結果もその通りになった。これは調査結果が概ね正確だったことの証左だ。

ただ、フロリダ州などの情勢を巡っては、予測に一部課題も見えた。例えば、著名な選挙予測サイト「FiveThirtyEight」ではバイデン氏がフロリダ州を制する確率は69%としていた。実際は同州は勝利確率31%とされたトランプ氏が制したため、この予測は一見、大きく外れているように見える。

しかし、これはあくまでいずれかが勝利する確率であり、支持率ではない。支持率では、両者はここ数ヶ月間、最大でも5ポイント程度の差で拮抗していた。更に、この予測には「バイデン氏はわずかに有利」だという但し書きがついている。要は、フロリダでの勝負は「100回やれば31回はトランプ氏が制する勝負」であり、到底大差とは言えないというわけだ。

確かに考えてみれば、100回走るとうち31回は事故に遭う車に乗りたい人はいないだろう。事故に遭う確率があまりにも高いと感じられるからだ。

アメリカでは選挙をめぐるデータの公開に日本のような規制はなく、支持率や予測などが多数公表されている。今回も、これらをもとにメディアが選挙のシナリオを伝えるにあたって、勝利の確率などの数字が独り歩きしたり、もしくは予測モデル自体に多少のバイアスがあった可能性はある。だとしても、それは世論調査とは別の話だ。

州ごとの世論調査でも「番狂わせ」なし

今回の大統領選では、各州ごとの世論調査の平均値を見ても、調査結果と開票結果が大きく乖離するような事態は現在まで起きていない。

未だ開票中で、その行方が注目されているジョージア、ネバダ、アリゾナ、ノースカロライナ、ペンシルバニアの各州は、いずれも事前に接戦が予想されていた州だ。いずれの州も事前の各社調査の平均で0〜2ポイント程度の差の大接戦となっていた。この差は統計上は誤差の範囲であり、これらの州はどちらが制しても全く不思議ではない調査結果である。現時点でこの5州はいずれも開票が終了していないが、報道各社が未だにいずれかの候補の勝利判定を出せないほど接戦になっている点は共通している(アリゾナ州についてはAP通信とFOXニュースのみいち早くバイデン氏勝利と判定している)。

オハイオ州やテキサス州では、トランプ氏が調査結果の平均値よりも高い得票率を得ているが、直前の調査でトランプ優勢が伝えられていながらバイデンが勝利したり、その逆のようないわゆる「番狂わせ」と言える開票結果は今のところ見られない。

前回のような大きな課題は見当たらず、世論調査の結果は概ね問題がなかったと言ってよいのではないだろうか。