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世論調査から読み解く、自民党総裁選「有力候補」の支持構造

米重克洋JX通信社 代表取締役
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

安倍晋三首相の辞任を受けて、「次の首相」を選ぶ自民党総裁選は、国会議員と都道府県連の代表による選挙となる見通しだ。党員の投票を含めたフルスペックの総裁選にはならないため、国民世論よりも、派閥を軸とした議員の支持動向の影響を多分に受けることになる。

だが、次の自民党総裁は、首相になった途端に衆議院議員の任期満了がおよそ1年後に迫っているという現実に直面する。

今後、新政権は、来年に延期された東京オリンピック・パラリンピックの開催の可否をめぐる動きや、冬に向けたコロナの流行の深刻化、経済へのダメージの拡大といったリスクを抱える。これらのリスクは時限爆弾のように、時間経過とともに顕在化する可能性が高い。すると、解散して民意を問うタイミングはどんどん失われ、且つ与党にどんどん不利な環境になっていく可能性もある。このため、10月下旬を軸に、新首相による秋の解散総選挙を予想する声も大きくなってきている。

そこで、本稿では、今回の自民党総裁選の「有力候補」と目される人物が、選挙の顔としてどのような人々から支持を集めているのか、これまでに行われてきた各種世論調査のデータをもとに紹介していきたい。

支持トップの石破氏 自民支持層からも支持増

石破茂元幹事長は、長らく「ポスト安倍」を問う各社世論調査の結果で筆頭に名前が挙がってきた人物だ。しかし、その内訳を見ると、立憲民主党を中心とする野党支持層からの支持が厚かったのが特徴だった。6月の朝日新聞の世論調査でも、次の自民党総裁に相応しい人として石破氏は立憲民主党・国民民主党両党の支持層の50%以上から支持を得ている。こうした傾向は、長らく各社の調査で共通するものだ。数字上は、よく言えば野党支持層に食い込める候補であり、悪く言えば肝心の自民党支持層からの支持が微妙な候補だった。

ところが、最近はその傾向が変わってきている。安倍首相の支持率が下がり、どことなく退陣が近づく雰囲気の中で、自民党支持層からの支持も多くなっているのだ。今月中旬のJX通信社と選挙ドットコムの合同調査(電話調査)では、石破氏は自民党支持層から約2割の支持を集めている。この割合は、安倍氏を除くと最大だ。3度の総裁選出馬経験があり、知名度の高さも手伝ってか次の総裁候補として名前が挙がりやすくなっている。

前回2018年の自民党総裁選では、石破氏は安倍氏との一騎打ちの構図となったため、反安倍ないし現状の転換を求める党内世論を一身に受け止め、45%もの党員票を獲得した。安倍政権からの路線転換、心機一転を期待する層の支持を得られやすい立場にいる。

性別で見ると、女性よりも男性の方が支持が多い。また、年齢層別で見ると、比較的高齢の層の支持が厚い。これらもまた、安倍政権を支持しない層の傾向と似ており、同氏を支持する世論は知名度のみならず「反・安倍」のスタンスにも依っていることが窺える。結果、これまで安倍政権を支持し続けてきた層からは忌避されるリスクもあるだけに「選挙の顔」となるかどうかは未知数だ。

若い世代から支持される河野氏、菅氏

現職の防衛大臣である河野太郎氏は、複数社の調査で、40代までの比較的若い世代では石破氏に迫る支持を得ている。今月中旬に実施したJX通信社と選挙ドットコムの合同調査では、20代、30代からの支持で石破氏を上回った。

比較的若い世代から支持される傾向にあるのは、菅義偉官房長官も同じだ。前述のJX通信社と選挙ドットコムの合同調査では、菅氏は主に20〜40代で一定の支持を集めている。6月の朝日新聞の世論調査でも、30代からの支持の割合が最も高かった。これまで菅氏は公に出馬の意欲を示したことはなく、且つ世論調査も安倍氏が自民党総裁に在任している前提で、安倍氏を含めた質問を行っていた。こうした状況のためか、菅氏の名前はそもそも回答として挙がりにくい傾向にあったが、今後仮に出馬し、本命候補と見なされるようになれば、安倍首相の支持基盤を受け継いで大きく数字を伸ばす可能性もある。

現在環境大臣を務めている小泉進次郎氏は、主に50代までの比較的若い世代から支持を集めている。とはいえ、高齢層からの支持の割合も他候補と比べて低いわけではなく、全世代で一定の支持があるのが特長だ。知名度先行タイプの内容と言える。

一方で、長らく安倍氏の「意中の人」と見られてきた岸田文雄政調会長は、そもそもの知名度の低さが祟ってか、世論調査では支持すると答える有権者が少ない。そのため、内訳から支持者の傾向を読み解くのは難しい。首相の辞任当日も、夜にテレビ出演をはしごした石破氏とは対照的に、ぶら下がりで1度コメントするにとどめ、「安倍首相への敬意」からあえて露出を避けたようにも見える。今回の総裁選は党員の投票のない選挙になるため、選挙の仕組みとしては岸田氏に不利ではないが、知名度の低さは選挙にプラスではないため、今後総裁選で集中的に露出が増える機会を捉えて、どう世論の支持をも獲得できるかに注目したい。

なお、安倍首相の辞意が知れ渡ってから行われた世論調査の結果は、本稿執筆時点ではまだ公表されていない。これまで、世論調査の「ポスト安倍」を問う質問に、安倍氏の名前を挙げていた有権者は、今後新たに支持する選択肢を求めなければならない。こうした有権者の態度の変化により、今後のポスト安倍をめぐる世論は大きく変わり得る。

JX通信社 代表取締役

「シン・情報戦略」(KADOKAWA)著者。1988年(昭和63年)山口県生まれ。2008年、報道ベンチャーのJX通信社を創業。「報道の機械化」をミッションに、テレビ局・新聞社・通信社に対するAIを活用した事件・災害速報の配信、独自世論調査による選挙予測を行うなど、「ビジネスとジャーナリズムの両立」を目指した事業を手がける。

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