ポスト橋下を決める大阪市長選 3度の独自情勢調査で分かった「維新リード」の要因

新しい「大阪の主」に選ばれるのは誰か。独自情勢調査で探った(写真:アフロ)

来る11月22日(日曜日)、大阪府知事・市長の同日選挙が行われる。今回、筆者が代表を務める報道ベンチャーのJX通信社では、この「大阪ダブル選」に合わせて、大阪市域・大阪市長選に絞った情勢調査を告示前、序盤、中盤の3度行った。

その結果見えてきた情勢は、大まかにまとめると以下のようになる。

  • 中盤にかけて吉村洋文氏(大阪維新の会公認)が勢いを増し、柳本顕氏(自民党推薦)が追う展開
  • 吉村氏の勢いは「テレビ討論ウィーク」を挟んで急加速した
  • 足場の自民支持層を固める戦いを強いられる柳本氏、伸びしろを追求する吉村氏
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今回の大阪ダブル選に関する世論調査は、共同通信と大手紙各社が中盤の1度ないしは告示前も含め2度行っているが、紙幅の限界もあってか「どのタイミングで」「なぜ」情勢が変化したのかが分かりづらい。そこで、JX通信社では告示前、序盤、中盤の3度に渡り調査を実施し、その変化を踏まえて大阪市長選の情勢と争点、構図について分析した。

※注:JX通信社は共同通信グループと資本関係があるが、今回の調査は自社調査サービス(公開準備中)の準備企画として完全に独自で行ったものであり、データの交換や提供などは相互に一切行っていない。

大阪市長選の中盤情勢は「吉村氏やや先行。柳本氏に差」

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上図は、吉村氏と柳本氏の情勢の変化を自社調査をもとに示したものだ。中盤情勢調査を終えた今の段階では、新聞の「情勢表現文法」に倣えば「大阪維新公認の吉村氏がやや先行し、自民党推薦の柳本氏が追う展開」と言える。この内容は、生の数字ベースでも他社の調査結果とそれほど変わらないと見られる。

※なお、候補別の具体的な支持率は、公職選挙法の規定を踏まえた新聞報道の慣行に従い、選挙前段階での公表は差し控えたい。

告示前までは「接戦」とされてきた両候補だが、告示前、序盤、中盤と経時的にその差が拡大している。ただ、中盤時点でまだ態度未定者が3割おり、情勢は流動的だ。現在、選挙選はあと1週間足らずで投票を迎える終盤の時期に差し掛かっているが、仮にこのままの差で推移すれば吉村氏が勝利する可能性が高く、その票差も最大で4年前の市長選と同規模にまで達しそうだ。

週ごとの情勢変化を追うと、告示前と序盤はまだ「競り合う」レンジだった差が、中盤までに「やや先行」のレンジに広がったことが分かる。

特に大きく変化したのが告示前の10月31日~11月1日調査時と、11月7日~8日の序盤調査時の間の「テレビ討論ウィーク」期間だ。この期間には、先んじて討論を企画した毎日放送、朝日放送を除く民放キー局3局の夕方帯ニュース番組が順次テレビ討論会を企画した。更に、知事選告示日の5日、市長選告示日の8日を前に選挙関連の報道も飛躍的に増えている。この期間、吉村氏の知名度と訴えの浸透度は大きく増しており、その伸びは柳本氏と対照的だ。

では、このスタートダッシュの勢いの差はどこに根源を発しているのか。そのポイントを「争点」と「構図」の2つの側面から見てみたい。

争点:世論の大勢は「二重行政の解消は望むが、市の廃止・分割は不安」

大阪都構想に対する世論の姿勢について、新聞ではよく「賛成と答えた人は◯◯%」などとあっさり伝えられる。しかし、大阪都構想のような大規模で複雑な制度論には多くの側面や論点がある。大阪市を廃止、分割し特別区を設置するものなのか、府市統合により二重行政を解消するものなのか…そのどこにスポットを当てるかによって有権者の印象、意見は大きく変わるのではないか。

こうした仮説を確かめる「ヒント」にするために、今回、自社で世論調査を行うにあたって、あえて「市の廃止・分割」に焦点を当てた朝日新聞とは反対に「府市統合」に焦点を当てた質問文を作り、有権者にぶつけてみた。

その結果が、以下のとおりだ。

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実施日はわずかに違うものの、おおまかな傾向として、明らかに賛成・反対の差が異なることが分かる。市の廃止・分割を強調した質問文では反対が増える一方、府市統合を強調した質問文では反対意見が減り、賛否の差が開くのだ。

言い換えると、大阪都構想の「大阪市の廃止・分割を伴う側面」に焦点を当てるのか、「二重行政の解消手段としての側面」に焦点を当てるのかで、市民の態度には明確な差が生じることが分かる。

今回の選挙で、各社世論調査で共通する最大の争点は「二重行政の解消」だ。つまり、大阪の有権者の多くが今回の選挙において関心事としているのは、府市の二重行政の解消ということになる。

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維新はこれに対して、都構想そのものの訴えは松井一郎知事(現職)に絞り、吉村氏は二重行政の解消、そして府市一体で取り組む「大阪の副首都化」にスポットを当てている。つまり、「大阪市の廃止・分割」というネガティブに聞こえる側面に焦点を当てすぎず、府市統合・二重行政解消というポジティブな「手段」としての都構想のリスタートに信任を得ようと言う戦略が透けて見える。

一方、本来であれば格好の攻撃対象にされるはずの国政政党の内紛劇も「東京の国会議員と本気でやり合うくらいでないとダメ」(橋下徹市長)などと「大阪vs.東京」の構図に組み替えて逆に宣伝材料にする選挙巧者ぶりを発揮しており、選挙情勢への悪影響は数字上殆ど見られない。普通であれば、明らかな政党組織のガバナンスの問題であり「都構想ではなく党抗争」(後藤田正純・自民党衆議院議員)などと揶揄されても仕方ないのだが、こうした批判は有権者には殆ど浸透していないのが実情だ。

一方自民は、柳本氏・栗原氏の初日の演説に代表されるように「制度論に終止符を打つ」「対立から協調へ」と維新批判を繰り返しているものの、世論調査で有権者の最大の関心事である二重行政の解消については「必要ない」との立場だ。次点に挙げられることの多い経済政策についての訴えも「府市の成長戦略のパクリ」(橋下氏)「数字がなく具体性を欠いている」(吉村氏)などと維新の強い批判の的となっており、有権者から見ると積極的に選べる理由付けを欠いているようだ。府立大学・市立大学統合問題での公約変更などもあり、政策の詳細に力点をおいた主張ができない事情もあるようだが、総じて「反・都構想」以外の政策の浸透度はかなり薄い。言い換えると、世論の関心事と訴えの内容があまり噛み合っていない。

こうした両陣営の戦術や種々のデータから明らかになる「世論」の大勢は「二重行政の解消は望むが、市の廃止・分割には抵抗がある」といったものだろう。本来、この世論に対する自民党の武器となっていた「大阪会議(大阪戦略調整会議)」は、市を解体せずに広域行政を一元化して二重行政を解消できる「都構想の対案」(宗清皇一府議(当時)/現・自民党衆議院議員)として提起されたものだが、既に3度の失敗で制度としての欠陥を指摘されている。且つ「悪い二重行政はない」「都構想の対案ではない」と課題の存在自体を否定したことが、今になって逆に柳本氏の伸びしろを少なくしてしまっているように見える。つまり、維新が設定した争点を覆すことができずに終盤まで来た、というのが現状だ。

構図:「自共共闘」で真っ二つの自民支持層 vs.吉村一色に染まる維新支持層

今回は、有力2候補による「維新vs.反維新」の構図が鮮明な選挙だ。維新が擁立した吉村氏に対抗して、自民が擁立した柳本氏に共産、民主が支援するほか、公明も組織としては「自主投票」ながら所属市議が実質支援に回っている。

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本来であれば、得票数や支持率の総和で見て維新候補には勝算はないはずだが、逆に吉村氏がリードしている背景には実は各党支持層の「分断」がある。以下に、政党別支持層の動向を見ていきたい。

まず、政党支持率が最も高い自民党の支持層は、今回の選挙を象徴する分断ぶりを見せている。序盤、柳本氏が吉村氏を上回る支持を得ていたが、中盤になると序盤の態度未定者のうち約3分の1を吉村氏が取り込み、ほぼ横並びになっている。残る態度未定者は約2割だ。

柳本氏が足元の自民支持層を固めるのに苦戦する要因として、吉村氏側の強い「自共共闘」(自民党と共産党の実質的な選挙協力)批判の効果があると見られる。一方で、柳本氏が採ってきた維新批判戦術の効果は全く限定的であることが既にデータから明らかになっており、且つ今回は投票率も高くなることが予想される(後述)。これらを踏まえると、柳本氏が吉村氏を逆転するには、自民支持層の態度未定者2割の大半を固めつつ、他党・無党派支持層でも伸びしろを確保するという極めて難しいハンドリングが必要になる。

陣営は当然、この課題を認識しているはずだ。先週末以降、稲田朋美政調会長や石破茂地方創生相といった自民党中央の「大物議員」が相次いで来援している背景には、まず自民支持層の足場固めを必要条件として満たしたいという事情があると見る

自民党とほぼ肩を並べる支持率を持つ大阪維新の会の支持層は、吉村氏が一貫して殆どを固めている。告示1週間前の10月31日~11月1日の調査時点ではちょうど8割ほどを固めていたが、ここから14日~15日の中盤に掛けて更に1割を固め、残る1割もほぼ態度未定者のみという状況だ。柳本氏ら他候補の食い込みはごくごく僅かで、他党支持層と比べても極めて特異な傾向が見られる。なお、訴訟沙汰にまでなっている分裂騒動の相手方「維新の党」の支持層も支持動向としてはほぼ同様の傾向だ。

公明支持層は、序盤から中盤に掛けて柳本氏の浸透が進んでいる。序盤、柳本氏が固めていたのは5割ほどだったが、中盤では7割を超える支持を固めている。吉村氏はあまり食い込めておらず、序盤の1割から中盤の2割弱に伸びた程度。維新は、市内で公明党を含めた批判を展開するビラを配布するなど対決色を強めており、市議や支持者の反発の声も聞かれる。こうしたことも、支持動向に影響を与えていそうだ。態度未定者はあと残り1割ほどに減った。

共産支持層は、序盤から中盤にかけて柳本氏の支持が弱まった可能性がある。序盤、7割あった柳本氏の支持が、中盤では6割となっている。連動して態度未定者が1割増え、一部は中川氏に流れるといった変化がある。自民党との共闘を掲げ、勝手連として主に街頭活動を担ってきた共産党だが、他のこれまでの選挙よりも足元を固めきれていない。加えて、そもそも共産自身の支持率もやや減っている。なお、共産支持層での吉村氏の支持は、序盤も中盤も1割に留まる。

民主支持層は、柳本氏が5割以上を固めている。吉村氏への支持は2割に届かない。態度未定者は2割を切っている。

そして、数としては最も多い無党派層では、序盤に競り合っていた吉村、柳本両氏の差が中盤に大きく開いた。中盤の段階では吉村氏が3割以上を固め、柳本氏は2割に届いていない。一方、態度未定者が中盤でも5割近くに上り、見方によっては両者ともに大きな伸びしろがあるとも言える。ただ、無党派でこの時点でも態度未定の有権者は投票に赴かない可能性も高く、投票結果にどう影響するかは不透明だ。

総合すると、政党支持トップでほぼ肩を並べる自民党と大阪維新の会それぞれの候補の足場固めの程度が、全体の情勢に大きく影響していると言える。現在は、足元の維新支持層をほぼ完全に固めている吉村氏がリードしており、自民支持層を固められない柳本氏が党本部の支援を受けながら懸命に追っているという状況だ。

4年前に匹敵する高水準の投票率も

最後に結果を大きく左右する「投票率」は、4年前の2011年大阪市長選に匹敵する高水準が見込めそうだ。

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今回の調査(14・15日実施分)では、中盤時点で選挙に「大いに関心がある」と述べた有権者が66.1%、「必ず投票に行く」と述べた有権者も83.2%と高水準に上っている。無論、83.2%もの人が必ず投票に行くはずはないのだが、そう回答する人が多いという傾向は他社の世論調査のほぼ全てにも共通する傾向であり、選挙への相当な関心の高さが窺える。

また、既に行われている大阪市長選の期日前投票は、15日(日曜日)の時点で4年前のダブル選より3万1887人多い10万4510人に上っている。投開票日の22日(日曜日)は三連休の中日であり、それも期日前投票者数にある程度影響しているようだが、当日の天気は「曇り」ないし「曇時々晴れ」と予想されており、前回並みかそれに近い投票率がありそうだ。

この情勢のまま投開票日に至るのか、それとも「大どんでん返し」があるのか。大阪市民・府民のジャッジに、全国が注目している。