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インドネシアへ最短直行便(成田~マナド)3月就航 観光フロンティアへのゲートウェイ ガルーダ航空

米元文秋ジャーナリスト
ガルーダ・インドネシア航空のA330-300機(写真:ロイター/アフロ)

 ガルーダ・インドネシア航空が3月、日本とインドネシアを結ぶ最短ルートとなる成田~マナド(スラウェシ島北部)間の直行旅客便を就航させることが2月23日分かった。現在日本からはジャカルタ、デンパサール(バリ島)への直行便が飛んでいるが、所要時間はいずれも7~8時間ほど。インドネシアの北端付近に位置するマナドへの新たな直行便は5時間半~6時間で、約2時間短いフライトとなる。

 就航第1便は3月2日(木)のマナド発。3月中に週1往復、計3往復が予定されている。その後も定着するかが注目される。ガルーダ幹部は筆者の取材に「このフライトが持続するよう努める」と述べた。(本稿末尾に幹部のコメント全文)

 マナドは有名なダイビングスポットのブナケン島を抱えるが、多くの日本人にとって未知の旅先だ。国際的リゾートのバリ島などと比べると、アクセスの問題がネックになっていたが、直行便によって大きく改善する。

 マナド東方には、大航海時代の「香料諸島」として知られるマルク(モルッカ)諸島、ニューギニア島西部に当たるパプア地方など、ユニークな歴史・文化と観光・経済開発の潜在力を秘めた東部インドネシアの島々が広がっている。マナドはこれらの「フロンティア」への玄関口となることが期待される。

 【追記1】ガルーダは2月24日、「GA880/GA881便(デンパサール-成田)3月一部の便にて運航経路及び便名変更について」としてマナド直行便を正式発表した。

 【追記2】ガルーダは3月16日、「GA880/GA881/GA884/GA885便(デンパサール-成田)及びGA874/GA875便(ジャカルタ-羽田)の2023年4月-5月の運航・運休便について」として、4、5月のマナド直行便の運航予定を発表した。定期便化が具体化したといえる

6時間で「最も近いインドネシア」

 ガルーダによると、マナド直行便は成田~マナド~デンパサール便の一区間として運航、3月中に実質3往復を予定している。2、9、16日の木曜午前2時10分マナド発~午前8時40分成田着、7、14、21日の火曜午前11時成田発~午後4時マナド着(いずれも現地時間表記。マナドの時間は日本時間マイナス1時間)とのスケジュールだ。

 日本とマナドの間の所要時間は、どの航空会社でもジャカルタやシンガポールで大回りする乗り継ぎがあるため最短でも計14時間ほど、長ければ2日間以上にもなっていたが、直行旅客便の就航で一気に短縮される。これまでガルーダは、マグロなどを運ぶ貨物機を運航していた。

 北スラウェシ州のオリー・ドンドカンベイ知事は、日本だけではなく、シンガポールや韓国、中国、マレーシアとの間でマナド直行便の増便や開設を進め、観光客や投資を呼び込み、輸出を増大させる方針を地元メディアに示している。マナドと同州を「インドネシアのアジア太平洋へのゲートウェイ」として発展させたい考えだ。関係者によると、知事が率いる代表団30人余りも第1便に乗り訪日する予定だ。

マナド沖の海中
マナド沖の海中写真:アフロ

「ドロップオフ」ブナケン島

 マナドは北スラウェシ州の州都で人口約45万人。市内にはキリスト教会が多く、日曜にはあちこちから賛美歌が聞こえてくる。イスラム教徒が多いインドネシアの他の地域とは異なる雰囲気が漂う。

 沖合には、海中深くまで落ち込む断崖「ドロップオフ」のサンゴ礁で知られるダイビングのメッカ、ブナケン島がある。付近では、アフリカ沖でしか生息が確認されていなかった古生代の魚「シーラカンス」が捕獲され、話題となった。

 南方にある高原都市トモホンは活火山のロコン山へのトレッキングの起点となっており、旅慣れた欧米人らも訪れる。周辺は至る所で温泉が湧く。マナドと高速道路で結ばれた港町ビトゥンは漁業、農産業、物流分野の経済特区に指定されている。

トモホンからロコン山を望む=米元文秋写す
トモホンからロコン山を望む=米元文秋写す

東方は歴史刻む香料諸島

 東方のマルク諸島の北端に位置するモロタイ島(北マルク州)は、観光分野の経済特区として開発が始まっている。マナドからは少ないながらも航空便がある。太平洋戦争中に日本軍に対する米軍の上陸作戦が行われた同島では、1974年に山中にいた台湾先住民の元日本兵が見つかり、大きなニュースとなったこともある。

 マルク諸島には、17世紀ごろオランダと英国が香辛料ナツメグをめぐって争奪戦を繰り広げ、住民を虐殺したバンダ諸島もある。今はダイビングスポットとして有名だが、長期休暇が取りにくい多くの日本人にとって、依然アクセスが課題だ。

元日に大洗新ベツレヘム教会を訪れた北スラウェシ州のオリー・ドンドカンベイ知事(中央のジャケットの男性)=レインホルドさん提供
元日に大洗新ベツレヘム教会を訪れた北スラウェシ州のオリー・ドンドカンベイ知事(中央のジャケットの男性)=レインホルドさん提供

日本で働く日系人の古里

 マナド周辺は、太平洋戦争前から沖縄県や愛知県など出身の移民が漁業や水産加工業などに従事した地域でもある。戦争では日本軍が落下傘部隊でオランダ航空基地を急襲するなどして一帯を占領した。

 戦後、日本人の大半は強制送還されたが、マナド周辺には日本人の移民や軍人の血を引く多数の日系インドネシア人が残された。20数年前から、これらの日系人やその家族の一部が茨城県大洗町に移住し、地場産業の水産加工業や周辺地域の農業、解体業などで働いている。人口約1万6000人の同町は、「技能実習生」なども合わせてインドネシア人の住民が計450人(2022年6月)に上る。

 最近の年末年始には、ヘリ・アフマディ駐日インドネシア大使、オリー・ドンドカンベイ知事やガルーダの幹部らが相次いで大洗町を訪れ、成田―マナド直行便の構想をインドネシア人教会関係者に表明。町内のインドネシア人の間で話題となっていた。

 大洗新ベツレヘム教会の世話役でトモホン出身の会社員レインホルド・レンコンさん(52)は「直行便就航は私たち北スラウェシ州出身者の願いでした。大歓迎です。マナドまではジャカルタやシンガポールで乗り継ぎしなくてはならないため、これまで普通は2日かかりました。直行便なら1日で行けます」と話している。

 「特定技能」などの在留資格で日本で働くインドネシア人の増加が見込まれる中、往来ルートにもなりそうだ。

「フライト持続に努める」

 ガルーダ・インドネシア航空のソニー・シャフラン日本・韓国地区総代表の話 ガルーダ・インドネシア航空はフラッグキャリアーと開発エージェントとしての責務を担い、マナドをゲートウェイとする東部インドネシアの経済・観光セクターの発展を支援するため、このフライトが持続するよう努めます。私とステークホルダー一同は、東部インドネシア、特に海洋レジャーとグルメで最も有名かつベストの旅先の一つであるマナドの経済と観光を、フライトがサポートすることを願っています。

ジャーナリスト

インドネシアや日本を徘徊する記者。共同通信のベオグラード、ジャカルタ、シンガポールの各特派員として、旧ユーゴスラビアやアルバニア、インドネシア、シンガポール、マレーシアなどを担当。こだわってきたテーマは民族・宗教問題。コソボやアチェの独立紛争など、衝突の現場を歩いてきた。アジア取材に集中すべく独立。あと20数年でGDPが日本を抜き去るとも予想される近未来大国インドネシアを軸に、東南アジア島嶼部の国々をウォッチする。日本人の視野から外れがちな「もう一つのアジア」のざわめきを伝えたい。

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