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【実習生入国再開】秋葉原のインドネシア人土産店主はこの日を待っていた コロナ禍耐え抜いて

米元文秋ジャーナリスト
土産物を地方の実習生に発送する準備をするアグスさん=米元文秋写す

 「ビジネス関係者」入国の水際対策緩和で8日、「技能実習生」ら外国人労働者の新規入国受け入れが再開された。世界的な新型コロナ感染状況の行方は依然不透明だが、この日を待ちわびていたインドネシア人が東京・秋葉原にいる。インドネシア人実習生ら向けの日本土産物店「JSS(Japan Souvenir Shop)インターナショナル」の店主アグス・スドラジャトさん(51)だ。

 コロナ禍による客の激減を耐え、店を開け続けてきた。日本とインドネシアの間の往来が、再び盛んになることを夢見ている。

客の消えた店内

 JR秋葉原駅から神田川を渡り南へ徒歩3分ほどのビルの1階。アグスさんの店には、以前筆者が訪れたときと同じように、着物姿の女性や富士山、金閣寺をあしらったタペストリー、花柄の和装バッグ、「侍」「忍者」「愛」「日本」と書かれたTシャツなどが並んでいた。しかし、客の姿はなかった。

 「仕事は大変ですよ。コロナの前は、日曜だと最低でも50人はお客さんが来ました。今はせいぜい4、5人。ゼロの日もあります」。売り上げの大半は店の家賃と光熱費に消えていくという。「貯金で生きているようなものです」

お得意さんは実習生、「リトルインドネシア」

 新型コロナの感染が世界を覆う前、秋葉原にも多くの外国人観光客が訪れ、大型電器店のカメラ売り場などでは、インドネシア語も飛び交っていた。アグスさんの店には、こうしたインドネシア人の訪日客もやって来たが、最大のお得意さんは、実習生と呼ばれる労働者たちだった。母国で待ちわびる家族や友人、恋人に持ち帰る土産を、帰国前にこの店でまとめ買いした。

 21年前に日本人の妻との結婚を機に来日したアグスさんは、実習生たちの要望に応え、9年前に店を開いた。店の隣の、アニソンカラオケやドール販売会社が入居するビルの5階には、インドネシア人が中心となるモスク「Masjid Nusantara - Akihabara」も入っている。礼拝に訪れるインドネシア人も店に来て、同胞たちとの話に花を咲かせた。

 アグスさんは「兄貴分」として、若い労働者たちの話に耳を傾けた。「実習先の仕事がつらい」「ブローカーに金を払って来日したのに、放置された」…そんな話も聞いた。店一帯は、関東や東海地方からインドネシア人が集い、出会い、そして旅立っていく「リトルインドネシア」の様相を呈し始めていた。

タペストリーは人気商品=米元文秋写す
タペストリーは人気商品=米元文秋写す

入国止まり帰国者も減少

 そこをコロナが直撃した。東京などに最初の緊急事態宣言が出される1カ月前の2020年3月、筆者が訪れた秋葉原は、人通りが減っていた。それでも、アグスさんの店には実習生の客が3人来ていた。しかし、コロナ感染拡大―緊急事態宣言―宣言解除―感染拡大が繰り返され、今年初めには外国人労働者の新規入国が止められた。

 日本経済新聞によると、在留資格認定証明書の交付を受けながら来日できていない外国人は約37万人で、うち実習生は11万人に上る。

 「日本に入国しなくなってしまいましたから。帰る人も減って、以前の半分か40%ぐらいの感じです。(コロナ感染拡大の影響で帰国が困難になった人を対象にした)在留延長をする人が多い」とアグスさんは話す。

 「実習期限の5年になって延長せずに帰った実習生もいます。勤務先から『今帰られたら会社を閉めなくてはならない』と言われたそうです。でも『社長がかわいそうだ』と言いながら帰国しました。帰ってから結婚したい人がいるからです」

つぶれた同業者から安く仕入れる

 人の往来が停滞し、売り上げが激減した危機。アグスさんは乗り越えるしかなかった。

 「日本人の土産物屋さんがつぶれました。そこから処分品を安く買いました。安く売ります。安いから買ってくれるお客さんもいます」とアグスさん。カタログを見せた。「SENGOKU SPIRIT 武将 真田幸村」の人形は3900円と表示されているが、店内の品には「1体 980円」の値札が付いている。「はしセット」は1400円の品だが、店内では520円で売られている。

 クチコミを聞いて地方からも注文が来る。アグスさんは箱詰め作業をしていた。「これは佐賀県の造船工場で働いている実習生に発送します。あそこは200~300人いるんじゃないかな。送料を節約するため、何人かでまとまって注文しているんですね」

 宅配業者に箱を渡したアグスさん。店の入り口の前でパイプいすに腰掛け、「ふー」っと、たばこをくゆらした。外国人実習生の入国再開。再起への闘いが始まった。

発送を終え、店の前で一服するアグスさん=米元文秋写す
発送を終え、店の前で一服するアグスさん=米元文秋写す

【参考記事】コロナ禍が始まる直前のアグスさんの店について、友人が【リトルインドネシアinアキバ】と題して記事を書いている。

ジャーナリスト

インドネシアや日本を徘徊する記者。共同通信のベオグラード、ジャカルタ、シンガポールの各特派員として、旧ユーゴスラビアやアルバニア、インドネシア、シンガポール、マレーシアなどを担当。こだわってきたテーマは民族・宗教問題。コソボやアチェの独立紛争など、衝突の現場を歩いてきた。アジア取材に集中すべく独立。あと20数年でGDPが日本を抜き去るとも予想される近未来大国インドネシアを軸に、東南アジア島嶼部の国々をウォッチする。日本人の視野から外れがちな「もう一つのアジア」のざわめきを伝えたい。

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