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入管庁が帰国困難外国人らに18言語でワクチンサポート オーバーステイも実は… 担当官に聞く

米元文秋ジャーナリスト
入管庁は法務省の外局(写真:cap10hk/イメージマート)

 オーバーステイ(超過滞在者)の仮放免者や、帰国が難しい短期滞在外国人もワクチンを打てる―。新型コロナウイルスワクチンの2回の接種を完了した人が日本の全人口の71.2%(首相官邸ウェブサイト10月29日公表)に達する中、「住民登録がなく自治体からのワクチン接種券が届かない」「日本語が分からない」などの理由で接種を受けることができていない外国人に向け、出入国在留管理庁(入管庁)が接種を呼び掛けている。

 同庁の外国人生活支援ポータルサイトの「FRESC多言語ワクチン接種サポート」のページ(リンク参照)を通じ、日本語と17の外国語で電話相談に乗り、接種までの流れを紹介し、東京、名古屋、大阪の病院での接種予約も受け付けている。

 入管庁が、「不法残留者」として退去強制手続き中のオーバーステイ外国人も対象に含めて、サポートに取り組む狙いや運用について、担当の在留支援課の田中信子補佐官に聞いた。

 「ぜひ何でも聞いてください」と田中さんがおっしゃるので、コロナとオーバーステイ外国人について記事を書いてきた者として、単刀直入に質問した。「今回のサポート対象から外れている、入管が所在を確認していないようなオーバーステイの人が接種を申請した場合、どうなるのか

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ビザ延長申請書の住所に案内はがき

「多言語ワクチン接種サポート」のページは支援の対象者として以下の6カテゴリーの外国人を挙げ、それぞれ接種の流れを説明している。(番号は筆者が記入)

(1)中長期在留者(自治体からワクチン接種券を受け取っている人)

(2)中長期在留者(自治体からワクチン接種券を受け取っていない人)

(3)帰国困難な短期滞在者(出入国在留管理庁からはがきを受け取っている人)

(4)帰国困難な短期滞在者(出入国在留管理庁からはがきを受け取っていない人)

(5)退去強制手続中の人(在宅調査中の人)

(6)退去強制手続中の人(仮放免中の人)

 ―(3)(4)の「帰国困難な短期滞在者」はコロナの影響で帰国航空便がなかったといった人たちか。

 「90日などの短期ビザを持ち、地方入管で延長をしながら飛行機が出るのを待っている状態。住民登録していないが、ビザ延長申請書に住所を記入している」

 「接種券は自治体が出す。(住民登録していないため)住民であることを証明する公共料金の領収書などが本来必要だが、外国人も自治体も大変だ。外国人の在留を所管する入管として、延長申請書で分かった住所へ接種案内のはがきを送り、受け取っていれば住んでいることの証明資料として使えるようにしている。しかし、引っ越した後であったり、住所にアパートの号数を書いてなかったりして、はがきが届かないケースがある」

所在不明オーバーステイ「自治体の普通の接種で」

 ―(5)の「退去強制手続中の人(在宅調査中の人)」は、収容や仮放免のプロセスに入る前の人か。

 「その通り。仮放免中の人なら、入管から出る仮放免許可書に住所などが入っており、それを(接種券交付のための居住実態の証明として)自治体に持って行くことができる。しかし、仮放免許可に至っていない人は、公共料金支払い証明書などを持って自治体に相談を」

 入管庁の統計によると、不法残留者とされるオーバーステイの人々は2021年1月1日現在で8万2868人、7月1日現在では7万3327人となっている。仮放免者は不法残留者に含まれ、20年12月31日現在では5781人だ。同庁総務課によると、在宅調査中の人の数は集約していないが、違反調査を受理された人は、20年中では3万4224人に上る。

 ―(5)(6)の「退去強制手続き中の人」は。

 「(不法残留者の中で)入管に出頭し、所在が分かっている方々だ」

 「それ以外の、所在が分からなくなっている不法残留者が予防接種を受けたい場合は、予防接種法に基づき、厚生労働省と自治体が行っている普通の接種の枠組みでやっていただく。自分の住んでいる自治体に、パスポートと、公共料金の支払い証明書を持って行って、接種券交付を申請する。入管の多言語ワクチン接種サポートの支援の対象外になる」

相談してきた人を通報するか

 ―6月28日付の自治体に対する厚労省事務連絡では、予防を優先するなら入管通報なしで接種も可能と書いてある。それでも捕まるのが怖くて出てこない人がけっこういるのでは。

 「総理官邸のホームページで接種状況何人と出ているが、国籍別の数はない。後どれくらい外国人が残っているのかが、分からない。病院から『どれくらいの接種人数を見込んでいるのか』と聞かれるが、私たちも答えようがない」

 「事務連絡は、(通報義務の対象となる外国人を)認知した自治体、保健所、病院の方が、通報していたのでは逃げられることになり、接種をする職務が遂行できなくなってしまうのかどうか、比較考量してくださいという話。私の読む限り、『退去強制させられない』ということではない」

―やはり捕まるという話。

 「入管としては『捕まえない』とは言えない。職務放棄になってしまう。予防接種法を司っている厚労省が、イニシアチブを取ってやらなければならないところ」

 ―「潜っている人」が、ここ(入管の多言語ワクチン接種サポート)に相談してきた場合、そこから探知して居場所を突き止めるとか、警備に通報するということになるのか。

 「そういうことではない。出頭しなくてもワクチンは打てるので、打ちたいがため出頭する人たちはいないと思う。私たちは入管職員なので、『ワクチンのためには不法残留者も見逃す』などとは言えない。それはそれ、これはこれでやらせていただく」

 ―「出頭してください。(接種は)それからだ」ということか。

 「そういうケースがこれまでにない。同時並行はできると思う。ワクチンの予約は入れつつ、『きちんと(入管法上の)手続きもやってください』ということになる。『手続きをしないと予約しません』という話にはならないと思う」

「打ちたい人が打てない世の中はまずい」

 ―潜行している人の間で感染者も一定出ている。事務連絡は接種優先で国として割り切ったと思うが、自治体はそれをはっきり言わず、当事者にあまり伝わっていない。

 「感染症対策では、不法残留者に打たなくていいという話にはならない。周りの日本人が打っていても、一部そういう人たちがいるとお互い不幸では。不法残留者で潜っている人でも打ちたいという人もいるかもしれない」

 ―けっこういる。

 「そういう人たちが打てない世の中はまずいと思う」

 ―茨城県大洗町は「接種券発行申請で得た情報は、接種のためだけに使う」という言い方を、クチコミで外国人コミュニティーに対して伝えている。

 「うまい言い方。自治体さんたちは、よく考えられている。自分たちの住民を守ることでもあると思うので、工夫されている」

ジャーナリスト

インドネシアや日本を徘徊する記者。共同通信のベオグラード、ジャカルタ、シンガポールの各特派員として、旧ユーゴスラビアやアルバニア、インドネシア、シンガポール、マレーシアなどを担当。こだわってきたテーマは民族・宗教問題。コソボやアチェの独立紛争など、衝突の現場を歩いてきた。アジア取材に集中すべく独立。あと20数年でGDPが日本を抜き去るとも予想される近未来大国インドネシアを軸に、東南アジア島嶼部の国々をウォッチする。日本人の視野から外れがちな「もう一つのアジア」のざわめきを伝えたい。

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