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やはり星稜高は優勝候補だ――第96回選抜高校野球大会が開幕

横尾弘一野球ジャーナリスト
今大会の星稜高は、奥川恭伸を擁した2019年夏の準優勝を超えるか。(写真:岡沢克郎/アフロ)

 第96回選抜高校野球大会が開幕し、一回戦3試合が行なわれた。投手戦が続き、2試合が延長タイブレークで決着という展開に、今大会から導入された反発性能をこれまでより低く抑えた新基準のバットとの関連を分析する記事も散見される。まだ心技にわたって成長途上の高校生ゆえ、反発性能を抑えた影響は出るのだろう。ただ、思い出すのはプロが低反発の統一球を導入した時のことだ。

 国際大会で使用されている低反発球への対応力を高めるため、あるいは球団ごとに異なるボールを使用していたことに対する批判に応える形で、2011年に日本野球機構(NPB)はミズノ社製の低反発球を採用した。結果的に、2010年に1605本だった本塁打が939本まで激減。ボールが変わった影響はあるという意見もあったものの、多くの選手が「ボールが変わったこと以上に、ボールが変わったという意識が影響したのでは」と語った。

 事実、ボールが飛ばないことを理由に自身の打ち方を変えた選手は苦しんだケースが多く見られ、特別な対応はしないと自身のスイングを貫いた選手はさほど変わらぬ数字を残すことができた。選抜に話を戻せば、出場チームが低反発バットでロースコアの接戦が増えると予測し、投手を中心としたディフェンスをより固めたことが、初日の投手戦に反映しているのではないか。

 さて、そんな大会には、初日から優勝候補の一角と評される星稜高が登場した。元日に発生した能登半島地震により、被災した日本航空高石川とともに大きな声援を浴びているのに加え、昨年の北信越大会、明治神宮野球大会で優勝と実力でも頂点に立つチャンスである。

 イエローのユニフォームでお馴染みの強豪は、日米で活躍した松井秀喜氏をはじめ、多くの優秀な選手を輩出している。ただ、左腕の山本省吾(現・福岡ソフトバンクスカウト)を擁した1995年夏、奥川恭伸(現・東京ヤクルト)が力投した2019年夏の準優勝が最高で、まだ甲子園で王座にはついていない。選抜大会は4回のベスト8が最高だ。しかし、同校を強豪に押し上げた名将・山下智茂氏の長男・智将監督が昨春に就任すると、夏に甲子園の土を踏み、その後の新チームで無敵の進撃を続けている。

 一回戦では、21世紀枠で76年ぶり出場の田辺高(和歌山県)と対戦。田辺高のエース・寺西邦右の丁寧な投球と打線の粘りで8回まで2対2と緊迫した展開になったが、9回表一死からの3連打で2点を勝ち越し、佐宗 翼から3人の継投で山下監督に甲子園初勝利を贈った。優勝候補と目される中での初戦はどうしても硬くなるし、山下監督の初勝利や低反発バットなどプレッシャーにつながる要素もいくつかあったものの、落ち着いた試合運びは昨年からの成長も感じさせた。

 幸先いいスタートも、21世紀枠に勝った高校は次戦で敗れる確率が高いというジンクスもある。

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 まだまだ優勝を話題にするのは早過ぎると思うが、それでも松井秀喜氏が主砲だったチーム、過去2回の準優勝チームと比較しても、総合力の点では決して引けを取らないという印象がある。まずは、勝負強さを発揮して開幕戦を勝ち上がった八戸学院光星高との二回戦で、嫌なジンクスを吹き飛ばしたい。

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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