【落合博満の視点vol.69】大谷翔平の2024年は三冠王の最大のチャンスだ
昨年、44本塁打を放ってタイトルを手にした大谷翔平は、一時は打率、打点でもトップを争い、メジャー・リーグで三冠王の夢にも近づいていた。投打の二刀流を貫き、本塁打王に加えて投手として2ケタ勝利を達成していることも素晴らしいが、実際に三冠王を手にできる可能性はあるのか。三冠王が代名詞とも言える落合博満の経験談に照らせば、答えは「Yes」だ。
まず、三冠王を狙うのに不可欠なのは「実力」と「経験」だという。
「ホームランのタイトルを獲れる選手は、プロの世界でも限られている。私自身の経験でも、ライバルになるのは多くても5~6人だった。そして、その中での争いでは、過去に獲っているという経験がものを言う」
典型的だったのが、落合が1985、86年と2年連続で三冠王を獲得したシーズンだ。1985年は、前年に4本塁打の秋山幸二(西武)がサードのレギュラーに定着して本塁打を量産する。秋山がトップに立つこともあったが、落合は「心配するな。最後は自分が獲る」とペースを乱さず、秋山に追いつき、追い抜き、引き離す。結果的に秋山は40本塁打をマークするも、落合が52本塁打で上回る。また、1986年も秋山は41本塁打だったが、落合は50本塁打でタイトルを譲らなった。ちなみに、落合が中日へ移籍した1987年に、秋山は43本塁打で初のタイトルに輝いている。
大谷はロサンゼルス・ドジャースへの移籍でア・リーグからナ・リーグに移る。それでも、昨季のタイトルによって、ライバルも意識しながら自分のペースでアーチを描いてくれるだろう。
次に、打点王について、落合は「このタイトルの難しさは、前後の打者の成績にも左右されること」と語る。実際、3回の三冠王を手にしたロッテ時代は、落合の前後にレロン・リー、レオン・リーの兄弟がおり、走者を置いた場面で打席に入るケースが多く、また相手バッテリーが落合だけをマークするわけにはいかなかった。だが、ヤクルト勢とタイトルを争った1991年は、孤軍奮闘となってしまう。
7月10日に落合は打率でトップに立ち、本塁打は池山隆寛(現・東京ヤクルト二軍監督)、打点は廣澤克己を追いかけていた。前年にもマッチレースを制した池山には9月4日に放った28号本塁打で追いついたが、夏場から中日の打線は全体的に低調になり、打点だけが思うように伸びなかった。そして、ソロでも本塁打で1打点を挙げようと、少々のボール球も強引に打ちにいった結果、打率も落として古田敦也に抜かれ、タイトルは本塁打王のみになってしまう。
しかし、今季の大谷はそれとは逆に、ロッテ時代の落合のように強力打線に組み込まれる。ムーキー・ベッツ、大谷、フレディ・フリーマンのMVPトリオが上位に並ぶ打線では、走者がいる場面での本塁打も増えると見られており、打点王も十分に射程圏内だろう。
首位打者はレギュラーなら誰でも取る可能性がある
そして、首位打者はどうか。
「3つの中では、一番難しいというか、ライバルが予測できない。特大のホームランも、ボテボテのゴロの内野安打も1安打だから、レギュラーなら誰にも獲得できる可能性があるでしょう。計算しながら打席に立たなきゃならない局面もあるからね」
大谷は北海道日本ハム時代にも規定打席不足ながら打率3割を超えていたが、メジャー・リーグでは規定打席をクリアした上で打率も上げており、昨年は.304をマークした。ひとつの壁となる“3割の打ち方”を頭と体で理解するも、やはり投手をやりながら毎日のように上下する打率をコントロールするのは至難の業だ。
ところが、右ヒジの2回目の手術を受け、打者に専念する2024年はバッティングにより集中できる。先発ローテーション投手でありながら44本塁打を放った大谷が、打撃のことだけを考えれば高打率を残すこともできるのではないか。投手と打者の相乗効果でどちらもよくなっているという見方もあるが、少なくとも打率に関しては、打者に専念する2024年が最大のチャンスだと思われる。そして、それは三冠王の最大のチャンスとも言える。
「誰もやっていないことを、現実にしてしまうのがプロ」
そう言って、大谷がプロで二刀流に挑戦した時から、そのプレーを興味深く見てきた落合は、大谷の2024年シーズンをどう見ていくだろうか。