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落合博満は中学生で気づいたホームランを打つ極意【落合博満の視点vol.68】

横尾弘一野球ジャーナリスト
大谷翔平が本塁打を放ったスイングにも、落合博満が唱える極意が見られる。(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 大谷翔平がメジャー・リーグで本塁打王を手にしたように、近年はワールドクラスの体格やパワーに恵まれた日本人選手も増えてきた。だが、以前は長打力やパワーは体格に比例するととらえられており、それが日本人の長打力不足につながっていると落合博満は考えていた。

「身長が170cmそこそこの選手でも、両翼100mのフェンスを越える打球は打てるんです。それが、日本ではコンパクトなスイングと『体の前に壁を作れ』という指導で、大きく速いスイングができなくなっている」

 コンパクトなスイングも体の前の壁も、概念自体は理解できるが、感覚的なとらえ方に間違いがあると落合は指摘した。

「コンパクトとは、バットのヘッドを最短距離でミートポイントに出せるよう、無駄のない軌道で振りなさいということ。それなのに、両脇を締めて体の前で小さく振るように教えている。また、体の前に壁を作るとは、投手寄りの肩、腰、ヒザを開いてはいけないという意味でしょう。ミートするまでは確かにその通りだ。けれど、フォロースルーの段階では、スイングの力を逃がしてやらなければいけない。その時に体の壁を意識したら、下半身に大きな負担がかかってしまうか、スイングのスピードが抑制されてしまう」

 落合は、ハンマー投げの動作を例とした。決められたサークルの中で回転運動に力を与え、ハンマーを投げた直後は回転した力を逃がしている。これを、投げた姿勢で止まれと言われたら、ヒザを痛めてしまうか、はじめから力のない回転をするしかないだろう。同じように回転運動のバットスイングでも、大きなフォロースルーを取ろうとするなら、捕手寄りの手はバットから離れてもいい、下半身はつま先を上げてヒザを開き、回転運動の力を逃がそうと意識したほうがいいはずだ。

ハンマー投げは、つま先を上げて回転運動にパワーを生み出しながら、投げた直後に上手く力を逃がしている。
ハンマー投げは、つま先を上げて回転運動にパワーを生み出しながら、投げた直後に上手く力を逃がしている。写真:ロイター/アフロ

「力強い打球をより遠くへ飛ばそうと思うなら、バットを振り抜く理想的な方向はセンターだ。それが、壁を作ったスイングではバットを振り抜く場所が自分の体の背中側などに制限されてしまう。打球を90度の扇形(フェアグラウンド)の中に打ち返すのなら、バットもこの90度のエリアの中でさばくという意識が大切。そして、つま先が上がってでも回転運動の力を逃がしてやる。言い換えれば、フォロースルーの際につま先が上がってしまうほど、鋭く大きなスイングをしたほうがいい。それが打球を遠くへ飛ばす秘訣でしょう」

 確かに、本塁打を放ったスイングを見てみると、日米を問わず打者が踏み出した投手寄りの足のつま先は上がっていることが多い。スイングにしっかりとパワーを蓄え、それを打球にも伝えられているということなのだろう。

 ちなみに、落合はそのことにいつ着目したのか。

「野球雑誌には、昔からピッチングやバッティングの分解写真が載っているでしょう。中学生の頃にそれを見ていたら、ベーブ・ルースと川上哲治さんだけが、フォロースルーでつま先が上がっていた。日米の一番いい打者に他の選手と違う共通点があれば、なぜなんだろうと考えるよね」

 今季、大谷翔平が本塁打を放った時の写真を見ても、つま先が上がって回転運動のパワーを逃がしている。ベーブ・ルース、落合博満、大谷翔平――時代が変わっても、ホームランを打つ極意に変わりはないのだろう。

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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