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【落合博満の視点vol.65】落合監督なら、今季4勝11敗の柳 裕也をどう評価する?

横尾弘一野球ジャーナリスト
WBCも経験した髙橋宏斗の7勝10敗は、成長の証と受け取れるが……。(写真:CTK Photo/アフロ)

 チームの根本的な再建を託された立浪和義監督でも、中日はなかなか上昇気流に乗ることができない。今季は、大野雄大が左ヒジのクリーニング手術で戦列を離れたため、2ケタ勝利を経験している柳 裕也や小笠原慎之介、ワールド・ベースボール・クラシックで日本代表入りした髙橋宏斗、東北楽天から移籍してきたベテランの涌井秀章に先発として期待がかけられた。しかし、この4人が揃って2ケタ敗戦を喫し、23勝44敗と21の負け越しを作っていては、Aクラス入りを実現するのは難しい。

 もちろん、3年目で21歳の髙橋がマークした7勝10敗は今後の飛躍を予感させる数字だし、セ・リーグ最下位のチーム打率.236、376得点と打線の援護が乏しく、先発投手には不運な状況だという見方もある。では、守り勝つ野球を徹底して実践し、2011年にはリーグ最下位のチーム打率.228、419得点でもリーグ2連覇に導いた落合博満監督なら、今季の投手陣をどう評価するのだろう。

「投手なら規定投球回数、野手なら規定打席をクリアした者は、チームの成績がどうあれ、マイナスの評価にはならない。監督がそれだけ頼りにして起用し、それに応えてプレーしたんだから。一番厄介なのは、休みながらまずまずの数字を残し、自己評価が高い選手だ。投手なら、自分のコンディションが整わなかったり、打線の調子がよくない時はどこかが痛いと言って登板を回避し、それでも7勝2敗で5つ勝ち越しを作りましたとか主張するタイプ。そうやって戦いの場から都合よく逃げる選手は、私の中では評価の対象にしていなかった。戦って負ける分には、勝つための努力や工夫をすればいいわけだから」

 その考え方からすれば、柳、小笠原、髙橋とも十分な合格点となる。では、柳の4勝11敗に代表される負け越しについてはどうか。8月13日の広島戦では9回を無安打に抑えながら援護がなく、勝ち星を手にできなかった。そうした不運なケースが多く見られるシーズンなのだが……。

「極論と言われるけれど、打線が1点しかとってくれないならゼロに抑えなきゃいけないし、9点取ってくれた試合なら8点まで取られてもいい。そうやって勝ち星を伸ばし、野手との信頼関係を築いていくのがプロの先発投手という仕事でしょう。それを真に受けて成長したのが、吉見一起じゃないかな。0対1で負けても、私に『おまえが1点取られたから負けたんだ』と言われていたから(笑)。それが、6回まで3失点以内なら先発の役割は果たしていますとかいう指標が出てきて、周りも同情するからタフになれない。それに、1点でも先に取られてしまったら、打線がそれを追いかけていくのも大変なんだ。援護をもらうまで失点しないという投球をできるようにならないと、先発投手として長く活躍することはできない」

中日の投手は好成績を継続できていない

 柳は2019年に11勝7敗で初めて2ケタ勝利を挙げ、21年には防御率2.20、168奪三振で2つのタイトルを獲得。この年も11勝6敗だったが、昨年は9勝11敗で、今年はさらに4勝11敗と大きく負け越している。また、小笠原は7年目となる昨季に、10勝8敗で初めて勝ち星を2ケタに乗せたが、今季はまた負け越しに戻っている。ほかに、福谷浩司も2020年に8勝10敗と2ケタ勝利への足がかりを築いたが、その後は目立つ数字を残すことができない。さらに踏み込めば、大野雄も2020年に11勝6敗と勝ち越したものの、その他のシーズンに大きな勝ち越しはなく、通算でも84勝86敗と負け越している。

 柳も小笠原も、気迫のこもった投球で勝利を目指しているのは間違いない。ただ、チームの成績が振るわないから、打線の援護が少ないから勝ち星を稼ぐことができないと見ていても、根本的な問題は解決しない。中日の働き盛りの投手たちが、目立つ数字を継続できないことには、必ず原因があるはずなのだ。

「思い通りの数字にならない原因を考え、それを改善しようと必死になれるか。プロ野球界は、理由がどうあれ、数字を残せない者からユニフォームを脱がされる。負けた選手たちの来季の戦いは、もう始まっているんだ」

 落合の言葉のように、中日投手陣のリベンジに期待したい。

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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