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落合博満のリーダーシップ3——どんな境遇でも不貞腐れたら負け

横尾弘一野球ジャーナリスト
落合博満は、折に触れてプロとしてのあり方を若手に伝えた。

「プロ野球にチームリーダーはいらない」と言う落合博満が、現役時代に発揮したリーダーシップとはどんなものだったか。フリー・エージェント権を行使して、中日から巨人へ移籍した1994年のシーズン、チームの日本一に貢献した『落合効果』を振り返る。

 1994年10月8日にナゴヤ球場で行なわれた、優勝をかけたシーズン最終戦、いわゆる“10.8決戦”で落合は、2回表にそれまで14打数2安打と打ちあぐねていた今中慎二から先制ソロ本塁打を放つ。その裏に同点とされても、直後の3回表には一死二塁から勝ち越し打を右前に運ぶ。ところが、その裏の守りで一塁ゴロを処理しようとした際、左内転筋と左腹直筋を痛めてしまう。患部に痛み止めの注射を打って出場を続けるも、4回裏の守りにつく際、長嶋茂雄監督に自ら交代を申し出た。

 球史に残る決戦を6対3でものにし、長嶋監督を胴上げするという約束は果たした。だが、落合が日本シリーズに出場するのは誰の目にも無理だとわかった。それでも、「何とか日本シリーズには……」という長嶋監督の思いを正面から受け止め、落合は必死のリハビリに励む。

 西武との日本シリーズは10月22日に幕を開けたが、指名打者制のない巨人の本拠地・東京ドームで行なわれる第1戦、第2戦はドクターストップがかかる。いよいよ第3戦、四番・指名打者でスターティング・ラインアップに名を連ねた落合は、1回表二死二塁で打席に立つと、セカンド左へヒットコースの打球を弾き返す。

 普通ならば内野安打になるはずだが、落合は足を引きずっていた。名二塁手の辻 発彦ならアウトにするかと思われたものの、辻は捕球するとサードへ送球。しかも、それが逸れて二塁走者の川相昌弘はホームを踏む。落合も何とか一塁に辿り着き、巨人は先制点を挙げる。長嶋監督はこのシーンを振り返る度、「落合が四番に入っていると違う。存在感が違うんです」と語っている。この試合を延長10回の末に制した巨人は、4勝2敗で日本一に輝いた。

 長嶋監督や選手たちは、激闘を終えると各メディアで『落合効果』について語った。中でも、長嶋監督は落合のリーダーシップを絶賛した。しかし、当の落合は、こんな話をしている。

もっと自分の職業について考えなければいけない

「プロ野球チームというのは、誰かが先頭に立ってまとめていこうとか、誰かの後にくっついていこうという集団じゃない。あいつに追いつけ、追い越せという強い意識を持った人間の集団であるべきなんだ、本来は。相撲界は、そのあたりがはっきりしているよね。二人で勝負し、勝つか負けるかは自分の責任だから。そうして横綱になっても、成績不振が続けば引退。誰も助けてはくれない。それが、本当の意味でのプロと言うんだろう。

 だから、私はプロ野球という言葉が好きじゃない。職業野球がいいと思っている。野球は、子供の頃からクラブ活動で続けてきた選手がプロ入りするけれど、クラブ活動の延長という意識ではなく、野球が自分の職業になったのだという自覚を持たなければいけない。そして、自分の職業なら、少しでも多くの給料を手にし、一年でも長く仕事に携わるんだという意識を強く持たなければならないだろう」

 だから、優勝を目指して全力を尽くし、自分自身の成績もしっかりと残す。そして、誰よりも多くの年俸を手にしているのなら、簡単には試合を休まないし、故障やケガに見舞われても出場できるかどうかは自分で判断する。そうシンプルに考える落合は、「プロとはどうあるべきか」の持論をこう締めくくる。

「野球が自分の職業だと自覚すれば、日常生活も自ずと野球を中心にまわっていく。そして、誰が監督になっても使わざるを得ない選手にならなければいけない。シーズン前に『横一線で競争してもらう』と口にする監督はいるけれど、頭の中では起用するメンバーはほぼ決まっているものだ。なのに、監督の言葉を真に受け、『あんなに努力したのにメンバーから外されるなんて』と不貞腐れてもはじまらない。不貞腐れている暇があるなら、自分の力不足を認めて努力するしかないんだ」

 40歳の落合は、折に触れてそうした持論を若手に伝えながら、巨人の四番に座っていた。

(写真=K.D. Archive)

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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