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落合博満監督の大失敗4――口は災いのもと【落合博満の視点vol.52】

横尾弘一野球ジャーナリスト
アライバコンビも躍動し、2005年の中日は独走優勝するかと思われたが……。(写真:ロイター/アフロ)

 2004年から中日を率いた落合博満監督は、目立った補強をせずに5年ぶりのリーグ優勝を果たすと、その年のオフには「このままでは、来年は最下位になる」と外国人を含めて18名の選手のユニフォームを脱がせ、ドラフトで11名を獲得。タイロン・ウッズと契約するなど積極的な補強に動いて2005年を迎える。

 開幕投手はエースの川上憲伸に託すなど、正攻法で横浜(現・横浜DeNA)との3連戦に2勝1敗で勝ち越し、神宮球場に乗り込んでヤクルトにも2勝1敗。巨人には1勝2敗だったが、そこからカード負け越しはなく、4月を終えて16勝9敗で2位と2.5ゲーム差の首位に。5月に入るとさらに加速し、4連勝で20勝に一番乗り。早くも貯金11で、2位の阪神とは5ゲーム差をつける。

 ファンやメディアは前年を上回るぶっちぎりでのリーグ連覇に期待し始めたが、結果的には阪神にペナントを奪われてしまう。そのことに触れたのが下の記事である。

落合博満監督の大失敗――2005年の負けから学んだこと【落合博満の視点vol.17】

 中日は、この年から新たに導入され、5月6日から36試合が行なわれたセ・パ交流戦で15勝21敗と失速し、反対に21勝13敗2引き分けだった阪神に抜かれる。7月13日の巨人戦から引き分けを挟んで11連勝と追い上げ、8月9日の直接対決に勝って0.5ゲーム差まで迫るなど熾烈な首位争いを繰り広げるも、9月の声を聞くと2度の4連敗で逃げられてしまう。

 ターニング・ポイントとなったのはセ・パ交流戦なのだが、そこで失速した大きな理由は、四番に座るウッズが出場停止になっていたことだ。5月5日にナゴヤドームで行なわれたヤクルト戦で、5回裏二死の第3打席でヤクルトの先発・藤井秀悟から頭の近くに投げ込まれると激高。マウンドまで走ると藤井の右頬にパンチを入れて退場となり、さらに10試合の出場停止処分が科されてしまう。

 翌6日、スカイマークスタジアム(現・ほっともっとフィールド神戸)に乗り込んだオリックスとのセ・パ交流戦の開幕戦では、四番に高橋光信を入れるも0対6の完敗。ウッズが不在の10試合は2勝8敗と大きく負け越し、戦列に戻ったウッズもなかなか調子が上がらなかった。

「ウッズのあれがなければなぁ……」

 タラ・レバを言わない落合がそうこぼすほど、ウッズが戦列離脱した影響は大きかったのだ。

「監督の言うことは現実になるから、もう優勝はできない」

 ただ、落合が深く反省したのは、チームが苦しむ中での自身の発言である。帰宅した際、チームの失速を心配する信子夫人に、思わずこう言ってしまった。

「心配するな。楽天に3連敗でもすれば話は別だけどな」

 東北楽天は、球界再編のうねりの中でこの年から新規参入。ただ、戦力不足は否めず、セ・パ交流戦前までに7勝26敗で、首位の千葉ロッテから17.5ゲーム、5位の北海道日本ハムからも10.5ゲーム離されていた。セ・パ交流戦でも2勝12敗と大きく負け越し、ナゴヤドームでの中日戦を迎える。

 すると、第1戦はケビン・ホッジスの好投で3対2、第2戦は山村宏樹の粘投で6対2と連勝。落合監督は第3戦に山本昌を先発させ、1点を争う投手戦を展開していたが、山本昌は6回表につかまってしまう。その際、マウンドに足を運んだ落合監督は、集まってきた内野陣も前にしてこう言った。

「いいか、この試合を落とすようなら優勝はないぞ」

 このあと、山本昌はまさかの6失点でマウンドを降り、3対15の大敗で3連敗を喫する。ちなみに、この年の東北楽天の同一カード3連勝はこの時だけである。

 実は、落合はマウンドでの発言をすっかり忘れていたという。シーズンが終わったあと、荒木雅博から「そう言われ、監督の言うことは現実になるから、もう優勝はできないかと思いました」と打ち明けられて思い出したのだ。

 信子夫人に心配させないよう、選手たちには奮起を促そうと口にした言葉が現実になる。それを実感した落合監督は、無意識な発言で勝負運を逃がしてしまうことがないように心がけ、次第に口が重くなっていくである。

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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