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第102回全国高校野球選手権大会は甲子園球場で開催しなければ意味がないか

横尾弘一野球ジャーナリスト
阪神甲子園球場は、日本が世界に誇る野球場であることは確かだが……。

 5月5日に韓国でプロ野球が開幕。すでに4月12日から公式戦を開催している台湾プロ野球では、5月8日に約1000人の観客を入れた。

世界初!! 台湾プロ野球が徹底した防疫対策で1000人の観客を迎える

 海の向こうでメジャー・リーグも夏場の開幕を模索する中、プロ野球とJリーグによる新型コロナウイルス対策連絡会議が5月11日に実施。緊急事態宣言が5月31日まで延長されているという現状も考慮され、開幕日の確定は見送りとなった。今後、一部の県で規制の緩和や解除が行なわれた結果も踏まえ、設定を検討するという方向性のようだ。

 プロ野球の開幕時期がいつになるかは、高校野球にも大きく影響するだろう。第92回選抜高校野球大会の中止は、出場が決まっていた32校はもちろん、ファンや報道を含めた関係者にも計り知れないショックを与えた。「野球バカ」と言われても、夏は何とか開催に漕ぎ着けてほしいというのが、野球に関わる人間の偽らざる心情だろう。

 ただ、都道府県大会で代表校を決めた上で夏の甲子園が開催されるというプロセスを考えれば、8月10日から16日間という日程は、すでに時間的猶予がない。まずは、9月から10月になっても開催できるのか、という点がカギを握っていると思う。

 もし、時期を後ろ倒ししてでも第102回全国高校野球選手権大会を開催しようとすれば、次に課題となってくるのは“甲子園球場”である。プロが開幕していれば阪神タイガースの本拠地であり、そう簡単に16日間プラスアルファの日程を動かすことはできない。

 こうして、第102回全国高校野球選手権大会を現実的に考えていくと、9月より先に甲子園以外の球場でも開催するのかという点がポイントになる。メジャー・リーグのスカウトでも、日本の高校野球大会と言えば「コーシエン」と呼ぶように、春と夏の甲子園は、野球に関わる者にとって特別な存在だ。

 甲子園のみで開催し、それをNHKが全国に完全生中継する特別感が、日本に野球という競技を根づかせ、世界に誇る競技力の土台となってきたことは疑いようがない。ゆえに、「甲子園でやるからこそ意義がある」という意見を否定するつもりもない。

今回のような不測の事態を乗り切る際のプライオリティは何か

 一方で、1995年に野茂英雄がロサンゼルス・ドジャースに入団したのをきっかけに、25年間で多くの日本人選手が海を渡り、野球の本場から技術、トレーニング、指導法、コンディショニングなど、あらゆる情報や考え方が入ってきた。

 それにより、高校時代の厳しい練習を乗り越えてこそ、という日本古来の考え方には、いかに将来の可能性を潰さないかという合理性が採り入れられるようになる。甲子園のマウンドは背番号1がひとりで守り切るものではなくなり、休養日が設けられ、投球数や登板間隔などを制限する必要性も議論されている。

 そうやって選手の健康を第一に考えれば、まず見直されるべきは単一会場での開催だろう。他の競技のように全国大会を複数の会場で開催すれば、16日間という長期の日程も連戦もなくすことができる。

 いや、それは随分前からわかり切ったことなのだが、野球界では高校球児の健康について議論が交わされても、単一会場開催の是非を問う声は聞かれない。先も書いたが、「甲子園だからこそ」を否定するつもりはない。

 けれど、今回のような不測の事態で高校球児の夢が奪われ、将来への影響も避けられない事態に直面した時、何とかプレーする舞台を整えようとする中でのプラリオリティは何なのか。

 例えば、ほっともっとフィールド神戸、明石トーカロ球場など甲子園の近隣にある複数の野球場を使用すれば、大会日程は短縮できる。あるいは、今回の場合は感染者数が少ない地域で開催するほうがリスクは少ないと思える。しかし、それでは第102回全国高校野球選手権大会として意味がないものになってしまうのか。

 日本の高校野球の歴史も伝統も、甲子園という存在も素晴らしいものだ。それでも、教育の一環たる高校野球で最も大切なのが、選手たちが思い切りプレーすることならば、この苦難の機会に議論すべきことはいくつかあると考えている。

(写真/Paul Henry)

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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