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落合博満の視点vol.4『プロ入りに必要なのは実績よりも今、何ができるのか』

横尾弘一野球ジャーナリスト
正しい動き方ができるかを重視する落合博満の目に留まったセガサミーの根岸晃太郎

全日本大学野球選手権大会が終わり、都市対抗野球大会、夏の甲子園と続く中で、今季のドラフト戦線も本格化してきた。上位候補と目される選手の名前も挙がっているが、プロ側は個々の選手のどんな部分に注目し、どう評価しているのだろうか。中日ドラゴンズのゼネラル・マネージャーとして、3年間アマチュア球界を見て歩いた落合博満は、こう説明してくれた。

「ダルビッシュ有(現テキサス・レンジャーズ)や藤浪晋太郎(現・阪神)は、誰が見ても高校生でも1位だろうという素材だった。そういう選手は別として、メディアと我々の見方に違いがあることを、まず認識しなければならない。メディアがドラフト候補として取り上げるのは、目立つ実績のある選手が大半。投手ならストレートの最速が150キロ、甲子園で優勝した、大学ではベストナイン何回という感じ。しかし、私たちにとって過去の実績は参考に過ぎず、注視しているのは『今、何ができるのか』という点だ」

確かに、最速150キロと評される投手のほとんどは、コンスタントに150キロを投げられるわけではなく、実際には140キロ台前半がアベレージという場合が少なくない。全国レベルの大会で上位に進出したというのも、選手の潜在能力と直結するかといえば、必ずしもそうとは言えない。

「また、そうした実績のある選手には、本人や周囲がメディアの評価に躍らされ、実力以上のものを発揮しようとしているケースがある。自分がどんなタイプか理解していない選手は、どんな実績があっても私たちの目には魅力的に映らない」

正しいノックを受けているとわかる内野手は評価できる

では、プロ入りという目標を叶えるためには、どうすればいいのか。落合は「自己評価をせず、しっかり自己分析できること」だと言う。

「ストレートの球速が150キロは出なくても、140キロ台のボールをしっかりコントロールできればいい。特に高さを間違えない投球は、球速以上に評価できる。捕手の二塁送球は、スライダー回転は二塁ベースから離れていくけれど、シュート回転ならプロの内野手はタッチでカバーしてくれる。欠点かもしれないが、許容範囲と考えられる。また、内野守備は、守備位置から真横に動くのではなく、『ハ』の字に攻める動きができるかどうか。ゴロに対する足の運び方を見れば、普段からどんなノックを受けているかがわかる。獲得を検討できるのは、やはり正しいノックを受けている内野手だ」

一方、水ものと言われる打撃はあてにならない場合が多いゆえ、結果よりもトップの位置から最短距離でミートポイントにヘッドが走るか、自分の打てるボールを打っているかという点が判断材料になるという。

「そうやって野球の基本を理解していると見た選手は、一年間戦い抜く基礎体力があるのか、勝負運を持っているのかと観察していく。簡単に表現すれば、今すぐに入団してもそれなりにプレーしてくれるかどうか。即戦力と言う意味ではなく、『今、何ができるのか』を考えてほしい」

ちなみに、昨年のこの時期に、そんな落合の目に留まった一人がセガサミーの根岸晃太郎だった。四番ショートで成長を続ける今季、2年目でドラフト指名解禁となる。

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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