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2023年に注目すべき 個性豊かなラーメン「新店」5軒

山路力也フードジャーナリスト
東京、千葉、大阪、京都、福岡の5都市でオープンした新店から厳選した。

原価高騰の影響を受けた2022年のラーメン界

 数年にわたるコロナ禍の影響でダメージを受けてきた飲食業界、ラーメン業界ではあったが、2022年は海外からの観光客も戻り始めて復調の兆しが見えてきた。その中で、原油価格や食材価格の高騰と記録的な円安の新たなダメージが襲ってきた。薄利多売の飲食業界にとって、特に売価の低いラーメン業界においては今回の原価高騰の影響が大きい。

 ただでさえ、ラーメンという食べ物のクオリティが高まっていき、材料にかける原価率が増えていた中で、さらに材料そのものの価格が高騰したことにより、ラーメンの売価が上がってしまった。しかしながら消費者の意識は追いついていないため、ラーメン一杯の価格が1,000円を越えることに抵抗感を覚える人がまだたくさんいるのが現状だ。

 これまでの老舗ラーメン店やチェーン店は別として、今後のラーメンは価格が二極化していくと考えられる。一つは従来のラーメンよりもさらに付加価値を持った、1,000円を越えるラーメン。もう一つは、安くて美味しいという従来のラーメンのイメージを持ちつつも、再設計された新しいラーメンだ。

 2022年もたくさんのラーメン店がオープンしたが、その中で2023年に注目すべき新進気鋭のニューカマーを厳選。これからのラーメン業界に間違いなく一石を投じるであろう、新たな試みにチャレンジしているラーメン店たち。2022年にオープンした店の中から、東京、千葉、大阪、京都、福岡で特に印象に残った5軒をご紹介したい。

ラーメンの新たな形を提案する『ナポレオン軒』(東京・目黒区)

「釜玉中華そば」という新たなスタイルを提案する『ナポレオン軒』。
「釜玉中華そば」という新たなスタイルを提案する『ナポレオン軒』。

 2022年3月、都立大学にオープンした『釜玉中華そば ナポレオン軒』(東京都目黒区中根1-5-1)にはラーメンもつけ麺もない。メニューにあるのは「釜玉中華そば」のみ。こちらは、人気ラーメンチェーン『つけめんTETSU』の創業者であり、現在は『伊蔵八中華そば』『あの小宮』などを手掛けている小宮一哲さんが立ち上げた新業態。11月には蒲田に2号店を出店するなど、その人気は上々だ。

 「釜玉中華そば」とはスープが少なく油そばのようなスタイルで、加水率50%という自家製多加水麺をシンプルに味わえるメニュー。基本的には生卵とネギだけが乗るが、好みでチャーシューなどの具材も追加出来る。結果として、一番シンプルな形の「釜玉中華そば(小)」で490円、具材を全部乗せた「リッチ釜玉中華そば(小)」で690円という低価格を実現。新たな考え方でラーメンを再設計したことで、安くて美味しいラーメンの価値観を高めている。

庶民の味をリスペクトした『ラーメンショップ◯化』(千葉・市原市)

「ラーメンショップ」を新たな解釈で再構築する『ラーメンショップ◯化』。
「ラーメンショップ」を新たな解釈で再構築する『ラーメンショップ◯化』。

 2022年8月、千葉県市原市にオープンした『ラーメンショップ◯化(まるか)』(千葉県市原市市原256-2)は、千葉で『らーめん福たけ』をはじめ、数々の人気店を展開する福田竹明さんによる新業態。「安くて美味しいラーメンを作りたい」という思いから、福田さん自身も慣れ親しんでいる『ラーメンショップ』をリスペクトしたスタイルのラーメン店を作り上げた。

 ゲンコツを丁寧に炊いた旨味あふれる白濁スープの上に浮かぶのは、きめ細かな背脂の層。麺は老舗製麺所『浅草開化楼』に特注した中細縮れ麺。ほろほろに崩れるチャーシューと、ワカメ、海苔、ネギ。価格は近隣のラーメンショップに合わせて650円という低価格。これまで長年にわたり様々なラーメンを作り続けてきた職人、福田さんがたどり着いた現時点でのラーメンの答えがここにある。

煮干香る中華そばの再構築『イ袋ワシづかみ』(大阪・天王寺区)

中華そばを再構築する、実力派店主の新たな挑戦『イ袋ワシづかみ』。
中華そばを再構築する、実力派店主の新たな挑戦『イ袋ワシづかみ』。

 2022年2月、大阪天王寺区にオープンした『イ袋ワシづかみ』(大阪府大阪市天王寺区四天王寺2-2-7)は、煮干しラーメンの専門店。店主の實藤健太さんは、長年人気ラーメン店『麬にかけろ』を営んでいたベテラン職人。今回、心機一転新たな場所、新たなコンセプトのラーメンで再びラーメン店を創業した。それは原点回帰、温故知新のラーメン作りだ。

 透明な豚骨清湯スープに合わせるのは大量の煮干。そこに極太の縮れ麺を合わせた一杯は、昔ながらの中華そばを再構築したもの。店主がイメージする昔ながらの中華そばを再構築し、懐かしいけれど新しい、アップデートされている今のラーメンを作り上げた。このラーメンの真骨頂はスープの温度が下がって来る後半。熱さで感じられなかった隠れた旨味が一気に押し寄せてくる。

山椒の様々な表情をラーメンで表現『麦の夜明け』(京都・下京区)

どのメニューも看板メニューになるクオリティの『麦の夜明け』。
どのメニューも看板メニューになるクオリティの『麦の夜明け』。

 2022年2月、京都西京極にオープンした『麦の夜明け』(京都府京都市下京区西七条掛越町12-5)は、間借り営業で人気を博していた店が待望の路面店として開業。店主が製粉会社出身というキャリアから、小麦の銘柄にも意識を払いその特性を生かした自家製麺を様々なスタイルで味わうことが出来る。

 ラーメンやつけ麺などメニューはいくつもあるが、いずれもテーマに「山椒」を据えている。メニューに応じてオイルやペーストなど様々なスタイルで山椒を使い、山椒の持つ複雑な香りや味わいを見事に表現。鴨や牛、帆立など異なる旨味の相乗効果で奥深くなっているスープと、小麦が香る自家製麺の見事な組み合わせは、新店とは思えぬ高い完成度を誇る。

ラーメンの新たな可能性を示す『めんとスープ』(福岡・早良区)

ラーメンの新たな可能性を示すヌードルガストロノミック『めんとスープ』。
ラーメンの新たな可能性を示すヌードルガストロノミック『めんとスープ』。

 2022年4月、福岡野芥にオープンした『めんとスープ』(福岡県福岡市早良区野芥3-14-17)は、数々の人気フレンチでキャリアを重ねてきた料理人、安藤寛さんがオーナーシェフ。長年培ってきたフレンチの「フォン(出汁)」の技術や美味しさを、ラーメンで表現出来ないかと、ラーメンを主役に据えた「ヌードルガストロノミック」として創業した。

 フレンチの技法から生まれた「中華そば」や「オマールエビラーメン」など、フレンチならではの「香り」や「旨味」の表現を大切にしつつ、フレンチではなくラーメンとして落とし込むように心がけているという安藤さん。食べ始めから食べ終わりまで、温度によって変わる香りや旨味の変化の楽しさが感じられる一杯は、今までのラーメンにはない世界観を提示している。

 人気ラーメン店がひしめき合う東京、千葉、大阪、京都、福岡。今回ご紹介した5軒はいずれも2022年にオープンした新店だが、いずれも新店とは思えないほどの存在感あるラーメンを提供している。2023年に絶対に食べておいて欲しい、これからのラーメンシーンで要注目の店ばかりだ。

※写真は筆者によるものです。

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フードジャーナリスト

フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家 著書『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』他/連載『シティ情報Fukuoka』/テレビ『郷愁の街角ラーメン』(BS-TBS)『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)『ABEMA Prime』(ABEMA TV)他/オンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』(DMM.com)/音声メディア『美味しいラジオ』(Voicy)/ウェブ『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信』『福岡ラーメン通信』他/飲食店プロデュース・コンサルティング/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。

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