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「緊急事態宣言」解除から「まん防措置」移行へ 飲食店はどうなるのか

山路力也フードジャーナリスト
通常営業が出来る日はいつ来るのか(写真:アフロ)

9都道府県で緊急事態宣言解除、まん防移行へ

 政府は17日夕、新型コロナウイルス感染症対策本部会合を首相官邸で開き、10都道府県に発令中の「緊急事態宣言」について、沖縄を除く9都道府県は20日の期限をもって解除すると決定する予定だ。東京、大阪など7都道府県は「まん延防止等重点措置」に移行することになる(参考記事:共同通信 6月17日)。

 重点措置の地域では飲食店に対する午後8時までの時短要請を継続するが、酒類制限は緩和して、一定の対策を講じた場合は午後7時までの販売を認めることになりそうだが、知事判断で酒類提供禁止の措置も可能になる。酒類販売の制限は6月の再延長から有名無実化しており、街では大きく「お酒飲めます」などの文言で営業する店が増え、お酒を飲みたい客で賑わいを見せているのが実情だ。

 これまでの制限から比べれば、その実情に沿った形になっていると一定の評価は出来るが、これまでの措置との整合性に疑義が生じる。なぜ今まではお酒が駄目で今回はOKなのか、科学的根拠に基づいた説明と総括がなされるべきだ。それでなければ飲食店が納得することはないだろう。

「今まで我慢したのは何だったのか」

 4月25日に出された今回の緊急事態宣言。発令当初、菅総理大臣は「ゴールデンウイークという多くの人々が休みに入る機会を捉え、効果的な対策を短期間で集中して実施することにより、ウイルスの勢いを抑え込む必要があると判断した」と説明して理解を求めた経緯がある。

 しかしながら、当初は4月25日から5月11日までの「短期集中」とされていた今回の緊急事態宣言は5月31日まで延長され、さらに6月20日まで再延長されて、ようやく長かった緊急事態宣言から解放されるかと思ったところに、今回の「まん延防止等重点措置」移行である。2週間の短期集中を信じて取り組んでいたのに、まさかの2ヶ月を超える時短営業。さすがに飲食店も国民も我慢の限界だろう。

 「さすがに連休だけの短期集中では難しいだろうから延長は覚悟していましたが、5月末で終わると思ったら再延長になり、やっと長いトンネルを抜けるかと思ったら今度はまん防。協力して我慢してきた気持ちが切れてしまいますよね。21日以降はどう対応するか思案中です」(レストランオーナー)

 「20日になったらお酒を出せるのかと思ったら、酒類制限は続くなんて報道もあって、今まで我慢してきたのは一体何だったんだと。緊急事態とまん防と名前が変わっただけで、実際は解除でもなんでもないじゃないかと思いますね」(ラーメン店オーナー)

長引く「後出し要請」で飲食店は疲弊している

 ほとんどの飲食店は国や地方自治体の要請やガイドラインに従って、真面目に正直に感染拡大防止に協力をしてきた。そして要請に従わなかった店もほとんどが止むを得ず従わなかっただけで、アルコール消毒の徹底や検温の実施、パーテーションの設置や換気などを行っている。医療崩壊を防いで新型コロナウイルスの感染を収束させたいと感じているのは飲食店も同じなのだ。

 しかしながら、一年以上続くコロナ禍で飲食店はどこも疲弊している。協力金の支給についても遅滞が目立つようになってきた。見通しが見えない中で、次から次へと小出しにされる要請にはもう対応は出来ないと感じている飲食店が多いのは当然だろう。

 これまで一年以上、飲食店は我慢して協力してきた。国や地方自治体は要請に従った飲食店に対して、協力金だけではないさらなるメリットやインセンティブを与えるべきである。そうでなければ、これ以上の協力は得られなくなるだろうし、感染の収束も遅くなってしまうだろう。

都の認証制度に意味はあるのか

もはや風景と化した「感染防止徹底宣言」ステッカー
もはや風景と化した「感染防止徹底宣言」ステッカー写真:西村尚己/アフロ

 東京都では昨年の緊急事態宣言時より、飲食店向けに「感染防止徹底宣言ステッカー」の配布や「コロナ対策リーダー」などの取り組みを打ち出している。さらに今年4月からは「徹底点検 TOKYOサポート」プロジェクトと題して、感染拡大防止にむけた様々な施策を打ち出している。

 これらの施策は、東京都が策定した「事業者向け感染拡大防止ガイドライン」を徹底させる目的があり、飲食店に対して感染拡大防止を図りつつも、事業を継続してもらうことと、利用客に対して安心で安全な飲食店であることを訴求する狙いがある。しかしながら、多くの飲食店がこれらのステッカーなどを掲示している現状では、時短営業などに対する協力金の支給条件としての認識しかされていない。

 4月には政府から各都道府県知事に対し、飲食店の感染防止対策を徹底するために、すでに一部の自治体で成果を上げている「第三者認証制度」を参考に導入する旨の事務連絡が出ている(参考資料:内閣官房「飲食店における感染防止対策を徹底するための第三者認証制度の導入について(5月改定)」)。

真面目に取り組む飲食店へのインセンティブを

 政府が参考にしているのは、山梨県の取り組んでいる「やまなしグリーン・ゾーン認証」。同制度では39項目の細かな認証基準が設定されており、飲食店はその基準に従った感染防止対策を行った上で申請し、県が実際に店へ足を運んで調査して基準を満たしている店に対して認証する仕組みになっている。

 東京都の「徹底点検 TOKYOサポート」の場合は、特に重要な5つの対策分野(手指消毒・マスク・間隔確保・換気・コロナ対策リーダー)について20のチェックポイントが用意されているが、山梨と比べると比較的緩やかな基準となっているが、これまでの認証制度に比べれば厳しくなっているのは事実だ。

 この認証を受けた飲食店は「感染拡大リスクが極めて低い」と、東京都がお墨付きを与えた店であるということだ。そうであるならば、緊急事態宣言解除後は認証された店に対してのみ、午後8時までの時短要請や午後7時までの酒類販売制限を解除もしくは緩和するとか、真面目に感染防止対策に取り組んだ店に対しては、何かしらのアドバンテージやインセンティブを与えても良いのではないか。

 これまで一律酒類販売は禁止だったものが、時間制限があるとはいえ何の根拠もなく一律解禁されるのもおかしな話だ。しかし、新しく出来たチェック制度に則って対策を施した店に対しては許可するということであれば整合性はつく。利用客としてもどの店が感染予防対策をしっかりやっているのかの指針がはっきりしていないのが現状だ。そのためにも、この「徹底点検 TOKYOサポート」を効果的に運用するべきだろう。

 現段階では「正直者が馬鹿をみる」という状態で、要請を無視した店に客が集まり要請にしっかりと従っている店が損をしている状態だ。要請を順守して真面目に感染対策に取り組んだ店に対しては、協力金以外にもメリットを与えて欲しい。そして利用客には安心して喫食が出来る情報を提供して欲しい。国や地方自治体には、飲食店に寄り添い実情に即した形の効果的な施策と運用を期待したい。

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フードジャーナリスト

フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家 著書『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』他/連載『シティ情報Fukuoka』/テレビ『郷愁の街角ラーメン』(BS-TBS)『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)『ABEMA Prime』(ABEMA TV)他/オンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』(DMM.com)/音声メディア『美味しいラジオ』(Voicy)/ウェブ『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信』『福岡ラーメン通信』他/飲食店プロデュース・コンサルティング/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。

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