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辛味と旨味が共存する激辛ラーメンの革新的進化

山路力也フードジャーナリスト
革新的なラーメンを発表し続ける『麺屋武蔵』が激辛ラーメンラーメンに挑戦

ラーメンの固定概念の破壊

2018年10月にオープンした、麺屋武蔵最新店『麺屋武蔵 五輪洞』
2018年10月にオープンした、麺屋武蔵最新店『麺屋武蔵 五輪洞』

 1996年の創業以来、常に革新的なラーメンを生み出し、ラーメン界に衝撃を与えてきた人気店『麺屋武蔵』。「革新にして上質」「唯一無二」が麺屋武蔵の変わらぬコンセプト。店舗ごとに味やテーマが異なる斬新かつ意欲的な出店を続け、現在国内外に20店舗以上を構えている。

 常に攻め続ける麺屋武蔵のラーメンの中でも、より先鋭的で革新的なものが、2016年から取り組まれている「金乃武蔵」シリーズだ。一杯2,000円、毎回原価率100%越えのラーメンのテーマは「ラーメンの固定概念の破壊」。これまで数々の衝撃的かつ斬新な「料理としてのラーメン」を発表してきたが、その最新作「黄金一味ら〜麺」(税込2,160円、一日10食限定)が28日まで『麺屋武蔵 五輪洞』(東京都港区芝5-29-1)で販売されている。

「金」にこだわる遊び心

『麺屋武蔵 五輪洞』(田町)の「黄金一味ら〜麺」
『麺屋武蔵 五輪洞』(田町)の「黄金一味ら〜麺」

 今回のラーメンは「金乃武蔵」シリーズ初となる激辛味。辛味には日本一辛いと言われている、京都『祇園味幸』の「黄金一味」を使用。「金乃武蔵」専用の金色丼の上に振り掛けた黄金一味の上から、金胡麻をオイルプレッソ(油搾り機)で搾った自家製金胡麻油を熱々にしたものをかけて、丼の上で辣油にする演出。スープは「信州黄金シャモ」の清湯をベースに、金華ハムの上湯の餡掛けを重ねた二層構造。麺は肉桂(シナモン)を練り込んだオリジナル麺。具は『平田牧場』の金華豚の干し肉二種(バラ、肩ロース)に、静岡朝比奈の金平筍が別皿で添えられる。どれも「金」にちなんだ食材ばかりを選ぶ遊び心があるが、どの食材も最高級で最上質なものだけが吟味されている。

 麺にシナモンを練り込んだ理由は、京都の一味を使う事から「八ッ橋」などにも使われるシナモンを生かしたということもあるが、言うまでもなくシナモンは七味にも使われる香辛料なので唐辛子との相性は抜群。さらに麺から溶出するシナモンの香りがスープと融合して奥深さを醸し出している。また、練り込み麺としての完成度も高く、味と香りを表現出来る麺の新たなアプローチとして、この麺をベースにして違ったラーメンも生まれそうだ。

 別皿で供される金華豚の干し肉も、名だたる中国料理店に引けを取らない完成度。しっかりと乾燥させて旨味を凝縮させ、塩味のバラ肉は炙って、醤油麹の肩ロースは燻製して異なる部位を異なる味付けと異なるテクスチャーで表現。この別皿だけで2,000円は軽く取れるクオリティ。ラーメン専門店でこれだけのものを出せるのは、中国料理をはじめとする料理人も多い『麺屋武蔵』ならではのアドバンテージだ。

激辛ラーメンの「コペルニクス的転回」

今回の味の主役、『祇園味幸』(京都)の「黄金一味」
今回の味の主役、『祇園味幸』(京都)の「黄金一味」

 今回のラーメンの主役ともいえる「黄金一味」は、少量で激辛味を表現出来る知る人ぞ知る唐辛子粉末。ほんの少しで尖った直線的な辛さが直ぐに立ち上がるが、スッと辛さが引くのも早く、その後に香りと爽やかさの余韻がたなびく。通常『麺屋武蔵 五輪洞』では、削りたての鰹節に熱い油を注いで香味油を丼の中で仕上げているが、その製法が今回の辣油にも見事に生かされている。

 激辛ラーメンということで、どうしてもその辛味に意識が行きがちだが、このラーメンの要諦は基本設計の巧みさにある。黄金シャモの濃厚な清湯に金華ハムの上湯を重ねたスープは、通常のラーメンよりも遥かに旨味の力強さがある。そして圧倒的に旨味を蓄えたスープだからこそ、黄金一味の鮮烈な辛さを受け止める事が出来るのだ。これまでの激辛ラーメンは、その辛味によってスープの旨味が打ち消されてしまうものが多かったが、このラーメンはしっかり旨くて激しく辛い。辛味と旨味がハイレベルで共存する激辛ラーメンの誕生だ。

 麺屋武蔵代表取締役の矢都木二郎さんは「昨今の激辛ラーメンとは違ったアプローチで辛いラーメンに挑戦したかった」と語る。世の中の激辛ラーメンの大半は、まずラーメンがあってそこに辛さを付加していく設計が多いが、今回の「黄金一味ら〜麺」はまず意識の中心に黄金一味の辛味があって、その辛味を美味しく感じさせるにはどうすればいいか、という発想からスープの濃度や旨味の出方、具材の調味などが決められている。これは激辛ラーメンにおけるコペルニクス的転回と言ってもいいだろう。

 『麺屋武蔵』によるラーメンの限界への挑戦。「金乃武蔵」シリーズ最新作「黄金一味ら〜麺」(税込2,160円、一日10食限定)は28日まで『麺屋武蔵 五輪洞』(東京都港区芝5-29-1)で販売されている。激辛好きやラーメンマニアはもちろんのこと、ラーメン店を営む人や料理人など、すべての人に食べて欲しい一杯だ。

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※写真は筆者の撮影によるものです。

フードジャーナリスト

フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家 著書『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』他/連載『シティ情報Fukuoka』/テレビ『郷愁の街角ラーメン』(BS-TBS)『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)『ABEMA Prime』(ABEMA TV)他/オンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』(DMM.com)/音声メディア『美味しいラジオ』(Voicy)/ウェブ『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信』『福岡ラーメン通信』他/飲食店プロデュース・コンサルティング/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。

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