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なぜラーメン店は「創作限定ラーメン」を作るのか?

山路力也フードジャーナリスト
「桜ラーメン」をテーマに人気ラーメン店が足並みを揃えて創作ラーメンで味の競演

ラーメン店が創作限定ラーメンを出す理由

『あの小宮』(渋谷)の「さくらそば」
『あの小宮』(渋谷)の「さくらそば」

 ラーメン店を食べ歩く楽しさの一つに、その時期ならではの「創作限定ラーメン」がある。通常のラーメンとは違った食材や製法を駆使して、期間限定で創作ラーメンを提供する店が増えている。通常よりも調理や仕込みに手間がかかるばかりか、材料費も高くなることも少なくない創作ラーメンをなぜ作るのか。それにはいくつか理由がある。

 一つはラーメン職人としての創作意欲のあらわれ。新しい食材や製法にチャレンジしたいというのは、ラーメン職人としての性のようなものだ。しかしそれを通常のラーメンで使うのは、すでに多くの人に愛されている味が変わってしまうため現実的ではない。そこで通常メニューとは異なるラーメンとして、職人の創作魂をぶつけるのだ。

『Noodle Stand Tokyo』(原宿)の「さくらと桜えびの塩つけ麺」
『Noodle Stand Tokyo』(原宿)の「さくらと桜えびの塩つけ麺」

 もう一つは季節感の演出。料理の世界では旬の食材などを使うことで、その季節ならではの料理を作ることが出来る。また、それによって季節感を演出することも出来る。しかし、一年中同じものを作らなければならないラーメンの場合はなかなかそうはいかない。しかし、期間限定や季節限定のラーメンであれば、その時期に最適な食材を用いることも出来るし、季節感を出したラーメンを作ることも出来るのだ。

人気店が「桜ラーメン」で味の競演

『らぁ麺 やまぐち』(西早稲田)の「桜海老の塩まぜそば」
『らぁ麺 やまぐち』(西早稲田)の「桜海老の塩まぜそば」

 かくして、昨今では期間限定の創作ラーメンを出している店がほとんどだ。しかし、当然のことながらそのテーマは店ごとに異なり、販売されている期間もまちまちだ。もし、まったく異なるラーメン店が同じテーマで同じ期間に足並みを揃えて創作ラーメンを作ることが出来たら、と考えるとワクワクせずにはいられない。

『拳ラーメン』(京都)の「炙り牛カルビは桜と共に〜塩まぜそば〜」
『拳ラーメン』(京都)の「炙り牛カルビは桜と共に〜塩まぜそば〜」

 そこで私はラーメン評論家という立場を利用して、東京と関西の人気ラーメン店8軒に依頼し、今回同じテーマで創作ラーメンを作って頂いた。そのテーマとは「桜ラーメン」。春らしい、桜をイメージさせるラーメンを作って欲しい。オーダーしたのはそれだけである。同じテーマで競作したことにより、各ラーメン店の熱の入り方も通常より強くなっていると感じる。さらに春や桜の解釈は人によって異なる。決まった形がないからこそ、創作ラーメンは面白いのだ。

個性豊かな「桜ラーメン」たち

 今回、桜ラーメンに挑戦したラーメン店は、東京が6店舗、関西が2店舗(大阪、京都)の計8店舗。いずれもラーメン好きはもちろん多くの人たちに愛されている人気店ばかりだ。

『麺屋武蔵 武骨相傳』(上野)の「さくら〜麺」
『麺屋武蔵 武骨相傳』(上野)の「さくら〜麺」

 ラーメン業界でいち早く創作限定ラーメンを提供した嚆矢的存在が、新宿に本店を構える『麺屋武蔵』である。『麺屋武蔵 武骨相傳』(東京都台東区上野6-11-15)が作る桜ラーメン「さくら〜麺」は、丼の中でお花見を表現した一杯。低温でじっくりとローストして柔らかく仕上げた桜肉(馬肉)を桜の花びらのように盛りつけ、ウズラの卵で表現したお花見団子を添えた。桜鯛をローストしたスープには鯛油を浮かべ、桜海老や桜大根を乗せた、まさに桜づくしの桜ラーメンとなっている。

『麺匠 真武咲弥』(渋谷)の「桜かほる塩らーめん」
『麺匠 真武咲弥』(渋谷)の「桜かほる塩らーめん」

 味噌ラーメンの人気店『麺匠 真武咲弥』(東京都渋谷区道玄坂2-10-3)の桜ラーメン「桜かほる塩らーめん」は、桜咲く春の鮮やかな風景を描いた一杯。桜フレーバーが香るスープは魚介出汁と豆乳を使っており、動物系素材は不使用。桜色のジュエリーシュガーを散らして桜の花びらの舞いを表現。麺は今回のメニューのために北海道の製麺所に特注した色鮮やかな桜麺。麺を引き上げるごとに鼻腔を桜の香りが抜け、スープを含めば口の中に桜の旨味が広がる。桜色にコーンの黄色や春キャベツの緑など、色鮮やかな一杯に仕上がった。

『175° DENO担担麺 TOKYO』(新宿)の「SAKURA担担麺」
『175° DENO担担麺 TOKYO』(新宿)の「SAKURA担担麺」

 担々麺ブームを牽引する『175° DENO担担麺 TOKYO』(東京都新宿区西新宿7-2-4)が作る桜ラーメンは、もちろん桜色をした業界初の「桜の担々麺」。二種類の自家製ベーコンは桜チップで燻製。自家製燻製ウズラの卵と共に、スープに奥深い香りを与えている。桜の花びらの塩漬けが華やかさを演出。鶏白湯ベースに数種の魚介をブレンドしたスープに、四川省から直接仕入れた稀少な「青花椒」を使うことで、担々麺としての存在感を際立たせている。

『ストライク軒』(大阪)の「吉野桜舞う!修験道お山かけらぁめん」
『ストライク軒』(大阪)の「吉野桜舞う!修験道お山かけらぁめん」

 大阪屈指のラーメン激戦区、天神橋天満エリアで人気を集める『ストライク軒』(大阪市北区天神橋5-8-8)の桜ラーメンは、修験道の聖地である春の吉野山を駆け抜ける山伏たちのドラマを表現。地鶏とアサリのスープにビーツなどの野菜出汁を合わせ、桜色に染まる春爛漫のスープを創作。穂先メンマで桜の木の幹を、山かけで残雪、卵黄で満月を描き、さらに桜色のスープと黄金色の鶏油で春の朝焼けをイメージした、絵画のような一杯を創り出した。

 他にもつけ麺あり、まぜそばありと、どのラーメンも見事なまでに店ごとの個性が出たオリジナリティあるものに仕上がっている。販売期間は4月9日(火)から一ヶ月間。店舗ごとに販売時間や限定杯数が異なるので注意して欲しい。また、詳細はメンズファッション誌『SENSE 5月号』にも掲載されているのでこちらも確認して欲しい。

【創作限定「桜ラーメン」参加店】(順不同)

麺屋武蔵 武骨相傳(東京都台東区上野6-11-15)

 「さくら〜麺」1,200円 ※一日10食限定

らーめんとしょうが焼き あの小宮(東京都渋谷区神南1-23-10 MAGNET by SHIBUYA109 B2)

 「さくらそば」980円 ※数量限定

Noodle Stand Tokyo(東京都渋谷区神宮前1-21-15 ナポレ原宿ビルB1)

 「さくらと桜えびの塩つけ麺」1,000円 ※一日10食限定(金曜は提供無し)

麺匠 真武咲弥 渋谷店(東京都渋谷区道玄坂2-10-3)

 「桜かほる塩らーめん」880円 ※一日15食限定

らぁ麺 やまぐち(東京都新宿区西早稲田3-13-4)

 「桜海老の塩まぜそば」1,000円 ※数量限定

175° DENO担担麺 TOKYO(東京都新宿区西新宿7-2-4)

 「SAKURA担担麺」1,200円 ※一日20食限定(11:00〜10食、17:00〜10食)

ストライク軒(大阪市北区天神橋5-8-8)

 「吉野桜舞う!修験道お山かけらぁめん(桜の〆めし付き)」1,000円 ※一日20食限定(11:00〜10食、18:00〜10食)

拳ラーメン(京都市下京区朱雀正会町1-16)

 「炙り牛カルビは桜と共に〜塩まぜそば〜」1,200円(11:30〜10食、18:00〜10食)

※写真は筆者の撮影によるものです。

フードジャーナリスト

フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家 著書『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』他/連載『シティ情報Fukuoka』/テレビ『郷愁の街角ラーメン』(BS-TBS)『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)『ABEMA Prime』(ABEMA TV)他/オンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』(DMM.com)/音声メディア『美味しいラジオ』(Voicy)/ウェブ『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信』『福岡ラーメン通信』他/飲食店プロデュース・コンサルティング/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。

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