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鰻を私たちはいつまで食べることが出来るのか?

山路力也フードジャーナリスト
歴史的な不漁により、今年も鰻の価格が高騰している。(ペイレスイメージズ/アフロ)

歴史的不漁により今年も鰻の価格が高騰

ニホンウナギの稚魚であるシラスウナギの不漁により取引価格が高騰している
ニホンウナギの稚魚であるシラスウナギの不漁により取引価格が高騰している

 今年の夏も「土用の丑の日」(7月20日と8月1日)がやって来たが、今年も鰻の不漁による価格の高騰が続いている。国内で消費される「ニホンウナギ」のほとんどは養殖だが「完全養殖」ではない。鰻の養殖はニホンウナギの稚魚である天然の「シラスウナギ」を採捕し、養殖池で育てて出荷している。つまりシラスウナギの漁獲量がそのまま鰻の出荷量に直結するわけだが、そのシラスウナギの漁獲量が減少しているのだ。

 漁獲量が不足した場合、中国や台湾などの東アジアなどからの輸入で補うことになるが、平成30年漁期(平成29年11月~4月末日)は日本のみならず、東アジア全域での採捕が低調であったため、シラスウナギの取引価格も高騰した。今漁期のシラスウナギ池入数量は、5月末日までで14.2トンと、昨年漁期(19.6トン)を下回っているが、当初想定されていた数値よりはやや回復した状態で止まって、鰻が枯渇するという状況は免れた(参考資料:水産庁「ウナギをめぐる状況と対策について」2018年6月)。

 価格は外国産よりも国産の方が高い。当然価格の安い外国産の輸入物から売れていき、価格の高い国産鰻が売れずに余っているという現象が起こっている。八重洲で四代続く鰻専門店「はし本」(東京都中央区八重洲1-5-10)の店主、橋本正平さんはこう漏らす。

 「今年2月頃には国産鰻が枯渇するという見通しが濃厚だったのですが、3月にはやや復調してシラスウナギが獲れたのです。中国産が国産よりも1kgあたり1,000円以上安いことから専門店は飛びついて、結果として国産が余っている状況です。サイズも大きくなりすぎてしまい、専門店でも使えないものも少なくありません」

鰻は大量消費する食べ物ではない

スーパーなどの量販店で売られるようになり、鰻は大量消費の時代へ突入した
スーパーなどの量販店で売られるようになり、鰻は大量消費の時代へ突入した

 ニホンウナギは2013年に環境庁のレッドリストに、また2014年には「IUCN(国際自然保護連合)」のレッドリストにそれぞれ指定されている。ニホンウナギが絶滅危惧種となった背景には鰻の乱獲がある。

 水産庁が2018年6月に発表した「ウナギをめぐる状況と対策について」によれば、国内供給量と輸入量がピークに達したのが平成12年頃となっているが、ちょうどその頃からスーパーやデパートの量販店で鰻の蒲焼きが売られるようになり、ファミリーレストランや牛丼店、弁当店などでも鰻がメニューに加わった。専門店で食べるものであった鰻が、低価格で大量消費の時代に突入したのだ。

 前述するように鰻は天然、養殖問わずとも100%天然資源に頼っている。絶滅する可能性が高いと指摘されている天然資源を大量消費している日本は、鰻を守ることに一定以上の責任が問われている。7月16日からスイス・ジュネーブで開催されているワシントン条約の動物委員会では、鰻の保護が中心の議題の一つとなっている。

 そんな中、NGO団体「グリーンピース・ジャパン」の調査によると、2017年に日本の大手小売事業者18社が廃棄した二ホンウナギの総量は約2.7トンと推計されており、売れ残りなどを理由に絶滅危惧種のニホンウナギが大量廃棄されている事を問題視している(参考資料:ITmedia ビジネスオンライン 2018年6月4日)。

鰻は専門店で食べるべきだ

鰻はかつて専門店でしか食べることが出来なかったはずだ
鰻はかつて専門店でしか食べることが出来なかったはずだ

 「串打ち三年裂き八年焼き一生」。鰻は職人による熟練の技術が必要とされる料理で、長い間鰻を扱う専門店でしか食べることが出来なかった食べ物だった。しかし市場ニーズに応える形で企業努力や技術革新が進み、どこででも食べられる食べ物になった。その結果が鰻という天然資源の枯渇を招こうとしている。

 「シラスの不漁というのは、鰻資源を保全する前提では『どこからが不漁なのか』が分かりません。過去をベースにすると確かに不漁ですが、消費の80%近くはチェーンやスーパーなどで販売される加工品で、私たち専門店は20%程度です。現在は実質取り放題になっているシラスの池入れ上限を、適切なところに決めることで『人が消費してよい鰻』を確保できます。再生産速度が消費速度を上回る値ということになれば、まず『取るな/食べるな』を解決することができると僕は考えていますし、胸を張って加工やチェーンも鰻を扱うことができるでしょう。日本人のモラルや倫理観が成熟した時に『鰻の適切な消費』が実現するものと考えています」(橋本さん)

 鰻をいつまでも美味しく食べるために消費者である私たちが出来ること。それはやはり現在のような乱暴な食べ方を見直すことだ。スーパーで鰻を買ったりチェーン店で安い鰻丼を食べることを数回我慢して、鰻の専門店で鰻重を食べるちょっとした贅沢を選択する。私たちの身勝手により安さや手軽さばかりを追い求めて、天然資源を無駄に消費することや江戸時代から続く日本の食文化を絶やしてしまうことは決して許されることではないのだ。

※写真は筆者の撮影によるものです(出典があるものを除く)。

フードジャーナリスト

フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家 著書『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』他/連載『シティ情報Fukuoka』/テレビ『郷愁の街角ラーメン』(BS-TBS)『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)『ABEMA Prime』(ABEMA TV)他/オンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』(DMM.com)/音声メディア『美味しいラジオ』(Voicy)/ウェブ『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信』『福岡ラーメン通信』他/飲食店プロデュース・コンサルティング/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。

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