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今年絶対に行くべき「かき氷激戦区」はどこか?

山路力也フードジャーナリスト
「Miss Berry」(西長堀)の「デコ氷」はまるでケーキのようなかき氷

かき氷ブームが止まらない

空前のかき氷ブームである。かつてはお祭りの縁日や街の甘味処でしか食べられなかったかき氷。削った氷の上に赤青黄色と色鮮やかなシロップがかけられたかき氷は昔の話。今は氷の削り方も変わりふわふわした食感のものが増え、シロップも旬の食材を使った自家製シロップを使うなど、かき氷はこの十年で一気に進化を遂げた。今ではかき氷専門店も多く生まれて、夏に限らず一年中美味しいかき氷を食べられる時代になった。かき氷はもはやスイーツの一ジャンルになっているのだ。(現在のかき氷の概要についてはこちらの記事をご参照下さい)

毎年夏に六本木ヒルズで開催される「かき氷コレクション」は東京の夏の風物詩に。
毎年夏に六本木ヒルズで開催される「かき氷コレクション」は東京の夏の風物詩に。

進化した最先端のかき氷が食べられる街として真っ先に挙げられるのはやはり東京であろう。店の数もさることながら新しいアプローチのかき氷が次々と生まれているのも東京だ。今年も7月15日(土)から六本木ヒルズで開催される「かき氷コレクション」は、日本最大規模のかき氷イベントとして定着している。また、埼玉や神奈川、茨城、栃木など近県も含めると関東圏は一大かき氷エリアとして他の追随を許さない。

奈良氷室神社で毎年開催されている「ひむろしらゆき祭」は全国のかき氷ファンが集結。
奈良氷室神社で毎年開催されている「ひむろしらゆき祭」は全国のかき氷ファンが集結。

一方、関西もかき氷が熱い。京都も古くからかき氷を出す店が多い街として知られているが、最近になって創作系のかき氷専門店も増えてきた。またかき氷を町興しの一環として取り組んでいる奈良にも、かき氷ファンが注目するかき氷専門店が多い。奈良には「氷室神社」という全国でも珍しい「氷」を祀る神社があり、全国のかき氷好きやかき氷専門店の聖地になっている。毎年この神社の境内で行われる「ひむろしらゆき祭」は全国から人気かき氷店が一同に会するイベントで、かき氷専門店はこの神社にかき氷を「献氷」するという習慣もある。

大阪のかき氷が熱い

そんな中、今私が最も注目しているかき氷の街は「大阪」である。数年前までは関西にかき氷を食べに行っても京都と奈良ばかりで、大阪は素通りすることが多かったのだが、最近は大阪を軸にして食べ歩きをするほどになった。ここ数年で大阪に話題のかき氷専門店が急増している印象が強い。そしてそのかき氷のレベルも東京などに遜色のないものが増えている。大阪が一気にかき氷激戦区になったのはなぜだろうか。

まずは京都や奈良といった、すでにかき氷ブームが到来している場所に隣接している地理的な要因が大きいだろう。進化したかき氷は手間ひまがかかっている分、昔のかき氷に比べると値段も高い。かき氷が一杯500円以下が当たり前、と思っている地域ではなかなか1,000円近くするかき氷は売れない。しかし、大阪にいる人の大半は京都や奈良で進化系かき氷に触れていて、昔のかき氷とは違うということを知っている。そして大阪という大都市であるそもそもの市場規模も影響しているだろう。

次に東京などの最先端かき氷技術の導入もあるだろう。大阪で新しくかき氷専門店を始める人の多くが東京のかき氷専門店で修業を積んだり、東京でかき氷の食べ歩きをしたりと、進化したかき氷の現在に触れている。結果として、氷の削り方やシロップのアプローチなどが一気にレベルアップした。市場にレベルの高いかき氷店が数軒出来ると、あとは市場原理でその数は増えていく。今の大阪は普通のかき氷を出していては勝てない、という「かき氷ブーム前夜」という雰囲気になっている。

今、大阪で食べるべきかき氷は?

「大阪浪花家」(中崎町)は東京の人気店で修業を積んだ若き店主のアイディアが満載。
「大阪浪花家」(中崎町)は東京の人気店で修業を積んだ若き店主のアイディアが満載。

そんな注目エリア大阪で、今食べるべきかき氷店はどこなのか。まずお勧めしたいのが天五中崎通り商店街の一角で人気の「大阪浪花家」だ。ここは東京麻布十番の老舗鯛焼き店「浪花家総本店」の暖簾分け店。もちろん看板メニューは一匹ずつ焼き上げる「天然物」の鯛焼きだが、夏季に提供しているかき氷も負けず劣らずの人気の逸品。注目すべきは限定のかき氷たちで、大阪の喫茶店定番メニューの「冷コー(アイスコーヒー)」をかき氷にしたり、他の店にはない切り口のかき氷が楽しめる。サイズが2種類用意されているのも嬉しい心配り。

「松下キッチン」(玉造)は手動のかき氷器で丁寧に何層にも積み上げられたかき氷。
「松下キッチン」(玉造)は手動のかき氷器で丁寧に何層にも積み上げられたかき氷。

玉造の「松下キッチン」はケーキや焼き菓子、マカロンなどを提供している人気の洋菓子店。店内にはカフェスペースも併設されていて、スイーツやコーヒーなどを楽しむことが出来る。夏季限定のかき氷は四角い独特のフォルムに四隅に添えられた生クリームが特徴的。女性店主が手動のかき氷器で丁寧に何層にも氷とシロップを折り重ねてあるかき氷は芸術的。柔らかな口溶けとクリームとのバランスが絶妙で、食べているうちにケーキやパフェなどを食べているように感じるのも楽しい。

「Miss Berry」(西長堀)はパティスリーならではのケーキ型かき氷が人気。
「Miss Berry」(西長堀)はパティスリーならではのケーキ型かき氷が人気。

2016年、西長堀にオープンしたパティスリー「Miss Berry by. C's Beaute」は、ふわふわとした食感の柔らかなかき氷も人気だが、パティスリーならではのケーキ型かき氷「デコ氷」が話題になっている注目店。削った氷を何層にもクリームや果実などと重ねて丸くケーキ型に固め、周りをクリームでナッペしてデコレーションしたかき氷は、かき氷と言われなければケーキにしか見えないビジュアル。東京では「セバスチャン」(渋谷)などでも見られるスタイルだが、大阪でもホールケーキを丸々一個食べられる贅沢さと、割った中身がかき氷という意外性で女性客を中心に人気を集めている。

「Cafe twelve」(新福島)は素材の美味しさを生かしたシロップが美味。
「Cafe twelve」(新福島)は素材の美味しさを生かしたシロップが美味。

新福島の路地裏に2017年オープンしたばかりの新店が「Cafe twelve」。こちらはかき氷カフェとして通年でかき氷を提供している大阪でも数少ないお店。東京の人気店「雪うさぎ」(桜新町)で修業を重ねた人がかき氷を全面プロデュースし、オリジナリティあるかき氷を提供している。シロップにエスプーマを使うなどかき氷のトレンドにも敏感に反応し、旬の素材の美味しさを生かした優しい味わいのかき氷は店名にちなんで常時12種類を用意。マンゴーの甘味と酸味を立体的に感じられるようにと2種類のシロップを作るなど、味の構成が複雑で奥深い技ありのかき氷になっている。

京都と奈良という二大かき氷エリアに挟まれていた大阪が、ついにかき氷に本腰を入れてきたことで、関西は一躍かき氷好きにはたまらないエリアとなった。この夏、かき氷を食べにいくべきエリアは関西、その中でも新進店が著しい大阪はぜひ足を運んで食べ歩いて頂きたいと思う。

フードジャーナリスト

フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家 著書『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』他/連載『シティ情報Fukuoka』/テレビ『郷愁の街角ラーメン』(BS-TBS)『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)『ABEMA Prime』(ABEMA TV)他/オンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』(DMM.com)/音声メディア『美味しいラジオ』(Voicy)/ウェブ『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信』『福岡ラーメン通信』他/飲食店プロデュース・コンサルティング/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。

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