ラーメンから「アレ」が消えた意外な理由とは?

豚骨ラーメンの中に入っているものは…。

ラーメンが「麺料理」で無くなる日

ラーメンがこの世に生まれて百年余。中国料理の麺料理を祖とするラーメンは、日本で独自の麺料理として進化を遂げて、現在の世界食としてのラーメンになっていった歴史がある。塩味だったスープに日本独特の調味料である醤油や味噌を合わせた黎明期。ラーメンはスープの中に麺が浸っている食べ物だったが、つけ麺の登場でスープと麺は別々になり、油そばにいたってはスープすら無くなってしまった。それらをラーメンと同じ料理と呼んで良いかは異論もあろうが、世の中の認識として広義的に「ラーメン」のカテゴリに入ることは間違いない。

これまでに様々なスタイルのラーメンが生まれて来たが、当然のことながらどのスタイルにおいても「麺」は入っている。むしろ、つけ麺や油そばなどはスープよりも麺そのものを楽しむための料理だ。つけ麺ブームと相まって、ラーメン業界はスープから麺へと意識が傾注していったことも看過出来ない。そこには故山岸一雄(東池袋大勝軒創業者)や故佐野実(支那そばや創業者)など先達の尽力も大きいが、江戸時代より日本蕎麦やうどんなどを食べて来た日本人としてのDNAに依るところも多分にあるだろう。日本人は麺を啜るのが元来好きなのだ。

しかし、である。今年に入ってラーメン界に新たな動きが出て来た。それは「麺がないラーメン」の登場である。麺がなくて果たしてラーメンと呼べるのかどうかの議論は今後行っていくとして、ラーメン店が麺を入れないラーメンを出し始めたのは事実で、それが多くのリピーターを呼んで人気を博しているのだという。ラーメンから麺がなくなったら、私たちは何を啜ればいいのか。ラーメンに麺がなかったら何料理なのか。ラーメンは一体どこへ向かおうとしているのか。

野菜がたっぷり摂れる、秀ちゃんの「ラーキャベ」

秀ちゃんラーメンの「ラーキャベ」は麺の代わりにキャベツがたっぷり入る
秀ちゃんラーメンの「ラーキャベ」は麺の代わりにキャベツがたっぷり入る

福岡の人気ラーメン店「秀ちゃんラーメン」で、今人気を博しているのが「ラーキャベ」というメニュー。見た目は通常の豚骨ラーメンと変わらないが、麺の代わりに入っているのは麺のように細く刻まれた「キャベツ」である。スープをたっぷりとまとったキャベツは、程よくしんなりとしていて意外にも豚骨スープと合う。キャベツの甘味がより強調され、さらにスープにキャベツの甘味も加わって、それでいてどっしりとした豚骨スープなのでラーメンを食べた感覚もある。

グルテンアレルギーの人のために生まれた「ラーキャベ」
グルテンアレルギーの人のために生まれた「ラーキャベ」

「秀ちゃんラーメン」店主の河原秀登氏によれば、元々は海外で展開している店舗でのグルテンアレルギー客に対して考えたのが発端だったという。麺を使わずに何を入れるかと考えた時に思いついたのがキャベツ。福岡をはじめとした九州では、もつ鍋やチャンポンなどでスープにキャベツを合わせることは日常だったこともあり、ラーメンのスープに合うのも分かっていたという。さらにラーメンではどうしても不足になりがちな野菜をたっぷり摂れるということから、女性客やアスリートなど健康への感度が高い人たちにも訴求した。麺の食感に近づけるために、キャベツの切り方を長めにして麺の細さに近い細さにしているのも違和感が少ない秘密。現在「秀ちゃんラーメン」(福岡・警固)「秀ちゃんラーメン赤坂」(東京・赤坂)「初代だるま」(福岡・西中洲)の3店舗で販売し、好評を得ているという。

豆腐作りからこだわった、一風堂の「とんこつ豆腐」

一風堂の「とんこつ豆腐」にはオリジナルの豆腐が一丁まるまる
一風堂の「とんこつ豆腐」にはオリジナルの豆腐が一丁まるまる

日本国内のみならず、世界にも進出している「博多一風堂」の新メニュー「白丸とんこつ百年豆腐」は、一風堂の看板メニューである「白丸元味」の麺を「豆腐」に代えたもの。中に入れる豆腐は、福岡県八女市を拠点とし、創業百年を迎えようという老舗豆腐店「豆藤(加藤豆腐)」とコラボレーションして生み出したオリジナルの豆腐。豆腐の製造段階から一風堂の豚骨スープを配合することで、豆腐のアルカリ性と豚骨スープの酸性が中和されて、まろやかにとろける食感を生み出しているのだという。

後からご飯を入れて雑炊風にしたり、替え玉の麺を入れる楽しさも
後からご飯を入れて雑炊風にしたり、替え玉の麺を入れる楽しさも

実際に食してみると、まず箸よりもレンゲの方が食べやすいことに気付く。大きな豆腐をレンゲで崩してスープと一緒に頬張れば、鍋を食べているようでもあり、やはり豚骨スープなのでラーメンの味わいが強く感じられる。チャーシューなども細かく刻んであるので、レンゲで食べることを想定して作られているのだろう。博多一風堂では、以前もイベントで豆藤とコラボレーションして豆腐を使ったラーメンを創作して好評を得ていた。さらに昨年の福岡ラーメンショーにおける「替え豆腐」の試みもあって、豆腐とラーメンスープとの親和性は実証済み。麺の代わりに豆腐を入れることでカロリーも抑えられ、ヘルシー志向の人たちにも好評なのだという。後からご飯を入れて豆腐雑炊風にしたり、替え玉の麺を入れて豆腐ラーメンにすることも出来、自分好みの楽しみ方が出来るのも人気のポイント。当初は東京と福岡の3店舗のみの限定メニューだったが、現在は恵比寿店、銀座店をはじめ、関東と関西、福岡の9店舗に販売店舗も拡大。一日40丁、3月31日まで提供が予定されている。

どちらのメニューも食べた感想としては、何を食べたかと問われれば「ラーメン」と答えざるを得ないものだった。しかし、麺を食べてこそラーメンという思いも同時に強く感じた。ヘルシーやダイエットがキーワードとなる健康志向の時代において、何かと目の敵にされがちなラーメンではあるが、奇しくもどちらも福岡に本拠を構える人気ラーメン店による「麺なしラーメン」の登場は、今後ラーメン界に根付いていくのだろうか。いずれにせよ、常に新しいことにチャレンジしてきたラーメンの世界で、その先陣を切ってラーメンから麺をなくした試みに敬意を表したい。そして、まずは恐れずに「ラーキャベ」と「とんこつ豆腐」を食べてみて欲しい。これらの料理がラーメンか否かを論ずるのはそれからだ。