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都の公表する重症者と検査人数について。データは現実を写しとる方眼紙のようなもの。

矢崎裕一データ・ビジュアライゼーション実務家兼研究者
都公式の公表データを筆者がチャート化したもの

厚生労働省の定義とは異なる基準で、東京都が新型コロナウイルスの重症者数を報告していることが報道で明らかになりました。また、検査人数の集計についても以前から公開データの危うさを感じておりました。本記事ではこの二点について、書いています。

  • 東京都独自の「重症者」定義
  • 検査人数の集計元の変更

東京都独自の「重症者」定義

厚生労働省の定義とは異なる基準で、東京都が新型コロナウイルスの重症者数を報告していることが報道で明らかになりました。

厚労省は4月26日に、通知を出して都道府県に定義を伝えていました。

  • 集中治療室(ICU)で治療
  • 人工呼吸器を使用
  • 人工心肺装置「ECMO(エクモ)」を使用

のいずれかに該当すれば、新型コロナウイルスの重症者とする、という定義です。

しかし、都は異なる定義を採用。

  • 人工呼吸器を使用
  • 人工心肺装置「ECMO(エクモ)」を使用

のいずれかに該当すれば重症者である、としています。

さらには大阪府も独自の基準を定めていることがわかった、と報道されています。

  • 集中治療室(ICU)で治療
  • 人工呼吸器を使用
  • 人工心肺装置「ECMO(エクモ)」を使用
  • 気管挿管

重症者数が増加傾向 大阪は東京の2倍以上 「基準」に違いも 新型コロナウイルス|NHK

公式サイトの書き換えタイミング

公式サイト上の記載について、検証してみます。

  • 1. 検査陽性者の状況カード(独立したチャート)への修正
  • 2. 重症患者カード(独立したチャート)の追加

1. 検査陽性者の状況カード(独立したチャート)への修正

公式サイトに以下の文言が追加されます(4月27日に修正作業4月27日に公式サイト上に公開)。

'(注)「重症」は、集中治療室(ICU)等での管理又は人工呼吸器管理が必要な患者数を計上'

東京都 新型コロナウイルス感染症対策サイトより
東京都 新型コロナウイルス感染症対策サイトより
東京都 新型コロナウイルス感染症対策サイトより
東京都 新型コロナウイルス感染症対策サイトより

後日、文言の変更がなされます(7月28日に修正作業7月30日に公式サイト上に公開)。

'「重症」は、集中治療室(ICU)等での管理又は人工呼吸器管理が必要な患者数を計上'

'「重症」は、人工呼吸器管理(ECMOを含む)が必要な患者数を計上'

東京都 新型コロナウイルス感染症対策サイトより
東京都 新型コロナウイルス感染症対策サイトより
東京都 新型コロナウイルス感染症対策サイトより
東京都 新型コロナウイルス感染症対策サイトより

2. 重症患者カード(独立したチャート)の追加

モニタリング項目の一つとして、重症患者カード(独立したチャート)の掲載に伴って、公式サイトに以下の文言が追加されます(5月20日に修正作業5月24日に公式サイト上に公開)。

'(注)入院患者数のうち、集中治療室(ICU)等での管理又は人工呼吸器管理が必要な患者数を計上上記の考え方で重症患者数の計上を開始した4月27日から作成'

東京都 新型コロナウイルス感染症対策サイトより
東京都 新型コロナウイルス感染症対策サイトより
東京都 新型コロナウイルス感染症対策サイトより
東京都 新型コロナウイルス感染症対策サイトより

後日、文言の変更がなされます(7月21日に修正作業7月27日に公式サイト上に公開)。

‘入院患者数のうち、集中治療室(ICU)等での管理又は人工呼吸器管理が必要な患者数を計上’

‘入院患者数のうち、人工呼吸器管理(ECMOを含む)が必要な患者数を計上’

東京都 新型コロナウイルス感染症対策サイトより
東京都 新型コロナウイルス感染症対策サイトより
東京都 新型コロナウイルス感染症対策サイトより
東京都 新型コロナウイルス感染症対策サイトより

カウントの仕方自体は以前から変わっていない?

都議会議員の藤井あきらさんがブログで報告しています。

注にある通り、重症患者数の公表を始めた4月27日からこの定義で計上をしていましたが、対策サイト上は集中治療室(ICU)の利用が残ってしまっていました。

そのため、表記の間違いに気が付いた7月27日に修正をしています。

定義自体を変更したわけではなく、あくまで記載の訂正です。

出典:東京都議会議員(府中市) 藤井あきら公式サイト

東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議では、第6回(令和2年8月13日)までは、

重症患者数は、その時点で人工呼吸器又はECMOを使用している患者数であり、数は一週間前とほぼ同数であるが、傾向としては一度減少した後に再び増加している。

出典:(第6回)東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料 03 専門家によるモニタリングコメント・意見

としていましたが、第7回(令和2年8月20日)より、

(1) 国の指標及び目安における、病床全体のひっ迫具合を示す、重症者用病床の最大確保病床数(都は 500 床)に占める重症者(ICU 入室または人工呼吸器か ECMO 使用)の入院患者数の割合は、8 月 19 日時点で 8.2%(41 人、うち人工呼吸器又は ECMO 使用は 32 人)となっており、国のステージ3の指標及び目安の 20%よりも低い数値となっている。また、現時点の確保病床数(都は 150 床、前週と比べて 50 床増加)に占める重症者数の割合は、27.3%となっており、国のステージ3の指標及び目安の 25%を僅かに上回っている。

(2) 東京都は、その時点で、人工呼吸器又は ECMO を使用している患者数を重症患者数とし、医療提供体制の指標としてモニタリングしているが、前週と比べ増加した。

出典:(第6回)東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料 03 専門家によるモニタリングコメント・意見

という言い方に変化しています。また今後もこれまでと変わらない基準を採用することが感染症モニタリング会議で公表されています。

画像

会議の動画では26:28から、大曲貴夫・国立国際医療研究センター・国際感染症センター長が解説しています。

コミュニケーションの問題

重症者数が大阪が東京の2倍以上と報じられたタイミングで厚労省と都の定義違いの報道がなされてしまうと、国民としては疑心暗鬼にならざるをえません。「ICU在室者すべてが重症ではない」というのが正しい判断だと信じているなら、報道されたから答えるのではなく、先んじて公表していただきたいものです。

今後は、東京都が公表する重症者はこれまで通りで、加えて厚労省へ報告する数字は同省の基準に合わせるとしています。定義が異なると、「自治体間での比較ができない」ことになります。これまでのデータについてはほかの自治体と比較が難しいといえます。東京都は人口も多く、周囲の首都圏(東京圏)から仕事で流入する昼間人口も多い自治体です。先日のように「Goto トラベル キャンペーン」の対象外に東京都のみがなったことが感染状況にどのくらいの影響があったかどうか、検証が困難になってしまいかねません。重症者数自体は遅行指標でしょうが…。

検査人数の集計元の変更

話は変わって、検査人数の件です。東京都が検査人数や陽性者数を公表していますが、データ集計元が

(1)東京都健康安全研究センター

(2)PCRセンター(地域外来・検査センター)

(3)医療機関での保険適用検査実績

とあって、

4月9日以前…(1)

4月10日~5月6日…(1)+(2)

5月7日以降…(1)+(2)+(3)

と時期によって集計元が異なるんですよね。で、そのことが公式サイトには注意書きとして示されているんですが、データファイルの中にデータ値として記述されていないため、データを取得して可視化すると、これらの集計元が異なることがわからないまま、時系列データとして独り歩きして流通してしまいます。実際には5月7日以降のみを意味のある数値として見ることになるのではないでしょうか。

都公式の公表データを筆者がチャート化したもの
都公式の公表データを筆者がチャート化したもの

動くチャートを掲載しています(外部サイト)

非常事態宣言が出ていたころと比べて大幅に検査人数が増えている!という疑念は、数値集計される元となる医療機関の対象数がまるで異なるわけで、必ずしもそうとはいいきれないでしょう。

データは現実を写しとる方眼紙のようなもの

データは単に数字が羅列された表ではなく、現実をある基準・定義で写しとった方眼紙のようなものです。あとから振り返って検証する際に基準・定義が極めて重要になります。このあたりが曖昧だとデータとしては信頼できず、活用・検証が叶いません。

タダでさえ多忙な医療現場や行政機関において、潔癖な完璧さを求めるものではありません。一見すべての升目が同じ大きさにみえる方眼紙が、虫眼鏡で拡大してみると、少しずつ升目の大きさが異なってみえるかもしれません。それでもある基準・定義で構成された升目は、その事態の大きさを皆で共有し、後世において検証するのに役に立ちます。基準・定義がバラバラではそれも叶いません。

データ・ビジュアライゼーション実務家兼研究者

コード・フォー・トウキョウ 代表/データ・ビジュアライゼーション・ジャパン 発起人/多摩美術大学 情報デザイン学科 非常勤講師/東京大学空間情報科学研究センター 柴崎研究室 協力研究員/千葉工業大学大学院 デザイン科学 修士修了/おもちゃコンサルタント。株式会社ビジネス・アーキテクツにてデザイナー及びアートディレクターを7年間経験後、2008年に独立。近年では、データ・ビジュアライゼーションの実践と普及に関する様々な活動をおこなっている。共著書に「RESASの教科書」がある。

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