異動希望が通らないのはなぜ? 4月異動はどう決まるかを人事のプロが解説

(提供:PantherMedia/イメージマート)

(会社員の運命を大きく左右する人事異動。多くの会社では、4月異動に向けてちょうど今の時期に検討や調整を行うケースが多いようです。

これまでの日本企業ではどのように異動が決められてきたのか、そこにはどんな課題があって今後はどう変わっていくべきなのか、専門家に聞きました。

写真提供 リクルートマネジメントソリューションズ
写真提供 リクルートマネジメントソリューションズ

井関 隆明(リクルートマネジメントソリューションズ コンサルティング部 シニアコンサルタント)

株式会社リクルートの求人事業部門での営業を経て、2001年より人事測定研究所(現リクルートマネジメントソリューションズ)にて人事領域のコンサルティング業務に従事。主に大手企業を対象に、人事制度構築、職務評価、多面評価制度構築、組織診断プロジェクト等を担当。2010年からタレントマネジメントシステムに関する新規事業の立ち上げを担当。2016年から現職。

「誰をどこに異動させる」はどうやって決めるのか?

ー まずは、リクルートマネジメントソリューションズ シニアコンサルタントの井関隆明さんにお伺いします。これまでの日本企業における一般的な人事異動のプロセスを教えてください。

井関隆明氏(以下、敬称略):日本の場合、事業年度が4月から始まる会社が非常に多く、新入社員も大量に入ってきますので、それに合わせて4月に定期異動を実施することが多いです。

ー 確かに、年度末に近づくと「異動の内示があるんじゃないか」とドキドキしたりしますね。人事や管理職の間では、いつ頃から検討が始まるんでしょうか?

井関:事業年度が4月から始まる会社では、事業計画やそれに伴う要員計画についての議論が前年の11月から12月頃に始まります。それによって組織の形が粗方決まると、まずは部長や課長あたりから決まっていきます。それが1月頃になることが多いですね。ですので、メンバーについて議論が始まるのは2月頃、本人への内示が2月中旬頃になるのです。転勤が伴わない場合は、3月に入ってから内示ということも結構あるのではないでしょうか。

ー 誰が異動の対象となるかは、どうやって決まるのですか?

井関:ひとつは、事業計画、要員計画に従って、各部門から「これくらいのクラスの方で、できればこんなことができる人を、これくらいほしい」という要望が上がり、人事部がそれを取りまとめ、逆に各部門から「出せる」人材がいるかということもヒアリングしながら誰を異動させるか決めていく、ということがあります。

もうひとつ、3年や5年ごとにジョブローテーションをさせている会社もありますので、特定の部署に長期滞在している人材を人事部で把握し、その人たちの行き先と、彼らが抜けた後に入る人と、パズルに当てはめていくように異動をアレンジしていくということもあります。

ー 複雑な作業になりますね。

井関:今お話したのは部門を超えた異動の場合で、部門内であれば、部長と課長などが話し合いながら内々で進めていくことも多いと思います。

ー 大企業と中小企業で異なる点などはありますか?

井関:中小企業はオーナー社長や各部門のキーパーソンの声が比較的大きかったりしますので、定期的にというよりは、必要になったタイミングで「この部門にあの人を」と一本釣りで異動が決まることが多いかもしれません。また、規模の大小だけでなく業種業態による違いも大きいです。製薬会社などは職種をまたぐような異動がほとんどないようなところもありますし、逆に金融機関では3年に1回シャッフルするようなことをやっているところもあります。

公募やFAに応募しても異動できないのはなぜ?

ー 最近は非正規社員の割合が増えているほか、転勤のない「限定正社員」というカテゴリーを設けたり職種を限定して新入社員採用をする会社も出てきています。それにより、通常の正社員の異動頻度などは変化していますか?

井関:制限なく異動させられる社員の割合が減っているのは確かです。ただ、それらの方々の異動が増えたり減ったりという変化はそれほどない印象です。今でもジョブローテーションがある会社は多いですし、それとは別に公募やFA制度など社員の希望を丁寧に聞いて異動を実現させようという会社も増えてきていますから。

ー 公募やFA制度など、社員の方から異動の希望を出せる機会は増えてきていますね。ただ、希望を出しても叶わないケースが多い印象です。

井関:そうですね。「異動を希望している社員がいるから、その受け入れ先を一生懸命探そう」という会社もなくはないですが、まだまだ少ないでしょう。やはり人材が欲しいところに対して「異動したい」あるいは「異動できる」人を当て込んでいくようなやり方、つまり「需要ありき」で決まることが多く、なかなかマッチングが難しい面があります。

もうひとつ、これは個人的な感覚ですが、異動を希望する人には2つのパターンがあります。ひとつはキャリアに問題意識があったり、キャリア構築を自分なりに考えて積極的に動こうとしている人。もうひとつは「今の仕事が合わない」とか「上司と合わない」などのネガティブな理由で異動を希望する人です。前者は優秀な人が多いので、どうしても現場が離したがらないことが多いです。後者の場合は異動が必ずしも問題解決にならないと判断され、「希望しているから異動させよう」とはならないことが多い。そんなこともあり、希望が叶いにくい面があるのではないでしょうか。

これまでの異動の決め方の課題

ー これまでの異動の決め方は、どんな点に課題があると思われますか?

井関:特に大手の場合、社員のキャリアについて「この時期に異動させ、昇進させる」といった形でモデルが作られているケースが多いんですよね。同じ職場に同期が何人かいて、その中で昇進する人としない人がいるとギクシャクしたりするので、だいたい同じタイミングで異動させたり昇格させたりするわけです。

自分のキャリアを会社に委ねてゼネラリストとして育っていく、という価値観の中では、これで問題なかったのでしょう。しかしキャリアを自分で考える人も多くなっている中で、本人の意思と会社がやっていることとのギャップが広がりつつあるように感じます。社員のモチベーションや一人ひとりのキャリアの展望に向き合う事ができているかという点で、従来の異動のシステムは限界が来つつあるのではないでしょうか。

ー 「これからはキャリアの自律が求められる」と言われて久しいですが、会社のシステムが追いついていないんですね。

本人の意志は別として、異動先の仕事に合った人を送り込むことができているか、という点ではどうですか?

井関:日本の企業の問題点のひとつに、仕事の定義が甘いということがあります。適材適所を進めていく上では、「この仕事はどういう仕事で、どういうことが求められている」と明確にする作業が圧倒的に不足しているんです。

それができたとして、人事が一人ひとりのスキルや志向などを把握できているか、ということも課題ですよね。例えば銀行のように、臨店しながら情報を定期的に収集する会社もありますが、それでも分かることは限定的だと思います。やはり毎年の人事考課や上司のコメント、本人からのヒアリングの内容を頼るしかないところがあり、どこまできめ細かくできるかというとなかなか難しいでしょう。

ー そこで、御社では人材配置にSPIのデータを活用することを提案されているそうですね。次回はデータを活用した人材配置について、SPIの専門家であるリクルートマネジメントソリューションズエグゼクティブコンサルタントの竹内淳一さんにお伺いします。

(続き:就活でおなじみSPI、何がわかるの? 人事異動に活用の動き