働き方改革は「給料の決め方」にメスを。主観で決める、全員一律など、5社の独自給与制度をみる

(ペイレスイメージズ/アフロ)

今の時代、長く勤めれば自動的に給料が上がるのが望ましいと考える人は少ない。その一方で、日本企業の給与制度には年功序列の考え方を引きずるところが多い。働き方改革に取り組む企業の多くは、「労働時間の削減」、「テレワークの推進」、「ダイバーシティの向上(女性活躍推進を含む)」などに取り組むが、給与制度にまで切り込まないのはなぜだろう?

「残業をやめましょう」、「失敗を恐れず挑戦をしましょう」――、いくら掛け声をあげても、制度を作っても、行動に報いる報酬を与えないのであれば、社員は「会社は本気でない」と受け取り、組織を支配する古い価値観は消えないだろう。

社員の働き方を変えたいなら、給与制度まで切り込むべきではないか――、という考えの下、ユニークな給与制度を運営している5社に取材した。

社員の“主観的”相互評価を元に基本給を決定

ITを活用したサービスの企画・制作・運用から不動産や葬儀事業にまで幅を広げ、「面白法人」を名乗るカヤックは、毎月の給料の決め方もユニークだ。

基本給は、社員間の相互評価で半年毎に改定される。全社員が仕事で関わりのある10~20人ずつのグループに割り振られ、そのグループ内で相互評価をするのだが、特徴は明確な評価基準がないことだ。問われるのは「あなたが社長だったら、誰に多く月給を分配したいか」のみ。各自の主観で月給を多く分配したい順に順位付けして人事部に提出する。人事部では集まった情報に基づいて全社員を7段階にランク付けし、それを「月給ランキング」として社内で公表している。この7つのランクと実際の基本給の水準は概ね対応するため、新入社員であっても、周囲の評価が高ければ早く昇給していけることになる。

さらに、 “運”でプラスアルファが付くのが「サイコロ給」だ。毎月1回、社員が自分でサイコロを振り、「基本給×(サイコロの出目)%」が給料に付加される。運用上、付加額は半期に1度まとめて支給だが、例えば基本給30万円の社員がサイコロで2を出すと、その月のサイコロ給は6千円。仮に6ヶ月毎月サイコロで2を出せば、半期に1度、3万6千円が基本給とは別に支給される。

社員は毎月、実際にサイコロを振るか、自動で出目を決めるシステムに任せるかを選択できる。(写真提供:株式会社カヤック)
社員は毎月、実際にサイコロを振るか、自動で出目を決めるシステムに任せるかを選択できる。(写真提供:株式会社カヤック)

独特な制度ゆえ、会社説明会では給与制度の説明に1時間半かけるそう。「月給ランキング」のための相互評価のグループ分けなど、運用の負担も軽くない。だが人事部の柴田史郎氏は、そのメリットを大いに感じている。ひとつは、自社の文化に合う人を採用しやすいという点。「給料が運で上下するとか、明確な基準のない中での相互評価で決まるといったことが受け入れられない方は、応募してこないんです」と語る。

株式会社カヤック 人事部 柴田史郎氏(筆者撮影)
株式会社カヤック 人事部 柴田史郎氏(筆者撮影)

明確な評価基準がないことで、社員が評価を気にせずに自分の判断でやるべきことをでき、やりたくないことを無理にやらずに済むという効果もあるという。

「20人それぞれの主観での評価となると、全員に評価される行動なんてできません。上司の指示も絶対的なものではないので、無視して自分が正しいと思うことをやった方が、みんなに評価されることもあります」

主観や運の要素を入れた給料の決め方は、立場にかかわらず言いたいことを言える関係構築を促進し、各自が自律的に働ける状況を生み出しているようだ。

役割や職責の給与テーブルなし。給料の額はみんなの話し合いで

不動産業界に特化したIT企業であるダイヤモンドメディアは、後に「ホラクラシー」と呼ばれるようになる独特の経営方法を、2007年の創業以来追求している。ホラクラシーは、従来の階層型の組織形態を否定し、ボトムアップで事業を運営していく方法としてアメリカで提唱されるようになったメソッドだ。ダイヤモンドメディアが徹底するのは、役職や上下関係を作らないこと。誰かが一方的に指示することはなく、会社の財務情報も含むあらゆる情報を共有し、その都度みんなで話し合ったり、やりたいことがある人がリーダーシップをとったりしながら、事業を成長させてきた。

同社における給与制度の重要性を、社長の武井浩三氏はこう語る。

「一般的な組織では、各自の業務の内容と報酬を決める『人事権』を経営者や役職者が持っています。この権力を手放さなければ、本当にフラットな組織にはなりません。僕らのやり方を完成させるためには、独自の給与制度が必要なんです」

半期に1度の「お金の使い方会議」で、各自の実力給を決定する(写真提供:ダイヤモンドメディア株式会社)
半期に1度の「お金の使い方会議」で、各自の実力給を決定する(写真提供:ダイヤモンドメディア株式会社)

同社では、一般的な企業のような役割や職責に応じた給与テーブルがない。武井氏は「社内の相場で決まる」という言い方をするが、半期に1度、全員がお互いの給料の額を知った上で、「この人の給料はもっと上げたら?」といった「お金の使い方会議」をして翌期の給料の額を決める。話し合いで上下する部分は「実力給」と呼ばれ、それ以外に社員の生活を保証する「固定給」や各種手当てがある。

資料提供:ダイヤモンドメディア株式会社
資料提供:ダイヤモンドメディア株式会社

なお、「実力給」は「成果給」ではない。直近の成果で報酬を決める成果主義ではないのだ。また、「今期から責任やミッションが大きくなる」といった理由で給料が上げられることもない。事前の期待値で給料を上げるのではなく、実績が出れば他の社員に「実力が上がった」と認められ、後から「実力給」のアップで見返りが得られるという仕組みになっている。そうすることで、その時の担当業務に縛られず、各自がやりたいこと、やるべきだと思う仕事に柔軟に自発的に挑戦できるわけだ。

「転職したらいくら?」を参考に、個別の“報酬パッケージ”を

「あなたが転職したらいくら?」という“市場価値”で給与を決めているのがサイボウズ株式会社だ。同社の給与制度は、絶対評価→成果主義→相対評価……と紆余曲折の歴史があり、その末にたどりついたやり方だという。

資料提供:サイボウズ株式会社
資料提供:サイボウズ株式会社

今の制度上は、「他社から引き抜きの話があり、年収1千万を提示されているんだけど……」といった給与交渉も可能。だが、「それでは、あなたの年俸を1千万にしましょう」となるかというと、そこまで単純ではない。

サイボウズ株式会社 執行役員 事業支援本部長 中根弓佳氏(筆者撮影)
サイボウズ株式会社 執行役員 事業支援本部長 中根弓佳氏(筆者撮影)

執行役員で事業支援本部長の中根弓佳氏は、報酬とは「社員の貢献と信頼度に対してチームから得られるもの。金銭だけでなく、仕事そのもの、役職、仲間、働き方など、様々なものがセットになった“パッケージ”であり、その中のどの要素を重視するかは個人によって異なる」と言う。例えば、プライベートな時間を多く確保したい人であれば短時間勤務や在宅勤務ができることの重要度が高くなるし、「仕事を通じて経験やスキルを充実させたい」という人は、チャレンジングな仕事をできるかが重要になる。

同社は誰もが短時間勤務や在宅勤務を希望でき、副業もOKなど、柔軟な働き方を推進している。過去には、様々な働き方に応じた給与テーブルを予め規定しようとしたこともあるそうだ。例えば、在宅勤務の場合は関わるメンバーの負荷が高まるという想定のもと、給料を多少下げる――など。しかし、仕事内容や個人の特性によっては在宅勤務の方がパフォーマンスが上がることもある。それぞれに対応する給与テーブルを作ろうとすると結局「100人100通り」になり、予め基準を用意するのは無理があった。

結果として、給料の額は本人の貢献や希望を考慮して個別に決定する形になった。その際、金額の妥当性を判断する参考値になるのが、「この人が転職したらいくら?」という市場価値なのだ。

先の例では、他社から提示された1千万円がその社員の市場価値だとすると、仕事の内容や働き方、そして本人の重視する点を鑑みた総合的な“報酬パッケージ”をその価値に見合うものにしようというのがサイボウズの考え方だ。お金という単一のモノサシで価値の比較ができないため、丁寧にすり合わせないと社員が納得しない可能性もある。だが、高い時で28%あった離職率が今や5%以下というところからみても、社員にとって満足度の高い仕組みだと言えそうだ。

“一人前”なら、仕事内容や成果に関わらず全員が同じ給料

あえて給料の差を付けないというのがソニックガーデンだ。同社は情報システムの受託開発を行う。受託開発というと、一般的には納期までにシステムを納品し、対価を得たら取引終了だ。しかし同社では、顧客企業と毎月定額の契約を結んで担当のエンジニアを付け、その時々で必要なシステム開発と運用を継続的に行う、「納品のない受託開発」というサービスを提供する。

株式会社ソニックガーデン 代表取締役社長 倉貫義人氏(筆者撮影)
株式会社ソニックガーデン 代表取締役社長 倉貫義人氏(筆者撮影)

社長の倉貫義人氏は、「この方が顧客にとって有用で高品質なシステムを提供できるが、定額制ゆえに大きく儲けることはできない」と言う。それでもこの方法にこだわるのは、同社が“プログラマ・ファースト”な会社だからだ。

同社のビジョンのひとつに「プログラマを一生の仕事にする」というものがある。これまでプログラマは、システムエンジニアやプロジェクトマネージャーなど、別の職種へとキャリアアップしていくものとされ、一生プログラマという選択肢はあまりなかった。しかしソニックガーデンでは、役員として経営に関わるようになるケースを除き、全員がプログラマであり続けることを目指す。

給与体系は非常にシンプル。未経験から仕事のイロハを教わっている最中の“弟子”が数名、“一人前”と呼ばれるプログラマが約20名、役員が数名というメンバー構成で、“一人前”は、年齢、勤続年数、仕事の内容や成果に関わらず、給料の額は一律だ。地方の自宅で働く社員もいるが、勤務地によって給料が変わることもない。賞与は、その期の会社の利益を平等に分配する。

離職防止やモチベーションアップに効果的な給与制度は……、と頭を悩ませている経営者や人事担当者にとっては驚くべきやり方だろう。だが、倉貫氏はそのメリットを次のように語る。

「給料が一律だと、『他の仕事を取ってくれば給料が上がる』とか『成績を上げるためにあれもやろう』とか、そんなことは考えなくていい。目の前のお客さんのために頑張れるんです」

成果に関わらずもらえるなら、頑張らないのでは? と思われるかもしれないが、同社はプログラマという仕事が好きな人しか採用しない。彼らにとって、良いシステムを作ることに集中できる仕組みや環境があるということが、金額の多寡よりも重要な動機づけになっているようだ。

経験年数やスキルに関わらずパート従業員の時給は一律。昇給は全員一斉に

大阪で天然エビの加工・販売を行うパプアニューギニア海産の工場では、十数名いるパート従業員の時給は一律950円だ(2017年11月現在)。今年8月に、原料の仕入れコストが下がったことを受け、商品を値下げするとともに、パートの時給を全員一斉に50円上げた。最近入った人もいれば、6年以上続ける人もいる。また、「フリースケジュール制」と言って勤務日・勤務時間を本人の決定に任せており、出勤は毎日でもいいし、月数回でもいい。経験年数も働く時間数も様々だが、時給は変わらないのだ。

工場内での作業の様子(写真提供:株式会社パプアニューギニア海産)
工場内での作業の様子(写真提供:株式会社パプアニューギニア海産)

工場長の武藤北斗氏は、「時給に差を付けることで、『あの人は時給が高いんだから、ここまでやって当たり前』、『私はそんなにもらってないから、やらなくてもいい』などの感情が生まれることを避けたい」と言う。同じ理由で、パート従業員の中で指導やとりまとめをする“パート長”のような役割も作らない。

昇格・昇給制度によってパート従業員のモチベーションアップや定着を図ろうという企業は多い。しかし武藤氏が最も重視するのは従業員の働きやすさで、そのためには序列意識や不公平感を生まない仕組みが必要だと考えているのだ。

フリースケジュール制も、その背景にあるのはやはり「働きやすい職場にしたい」という武藤氏の思いだ。パート従業員に多い子育て中のお母さんは、子どもの病気や学校の用事などで仕事を休まざるを得ない。毎回欠勤を申し出る必要のないフリースケジュール制であれば、かなりストレスが減るだろう。

株式会社パプアニューギニア海産 工場長 武藤北斗氏(筆者撮影)
株式会社パプアニューギニア海産 工場長 武藤北斗氏(筆者撮影)

私たちは、ルールで強制したり昇給・昇格で動機づけしたりしないと人は動かないのではないかと考えがちだ。だが、パプアニューギニア海産では、これらの施策の結果パート従業員の離職率は大幅に下がり、職場への愛着や仕事への積極性、品質も向上したという。自由度を高め、競争よりも安心を重視したことが、生産性を高めたのだ。

(この工場のもうひとつの注目すべき取り組み、「嫌いな作業はやらなくてよい」というルールについても別の記事で詳しく紹介している。こちらもぜひ参照されたい)

各企業なりの給与制度の再検討を

ここに紹介した5社は、いずれも給与制度だけが特殊なのではなく、経営者の考え方や組織の目指す方向もユニークである。ビジネスのあり方や理念、働き方と給与制度は密接に連携していて、一部を変えても大きな変革にはつながりにくいのだ。

日本の企業の特徴と言われる年功序列賃金は、「生活給」という思想にルーツを持つ。「給料は従業員とその家族の生活を保証するものであるべき」というもので、「給料は労働力や仕事の成果に対する報酬」という考え方とは対立するのだ。この生活給の考え方は戦時中に生まれ、戦後、日本電気産業労働組合が社員の年齢と扶養家族数に応じた「生活保障給」を細かく定め、その上に能力に応じた賃金を付け加える「電産型賃金体系」と呼ばれる基準を作った。それが、その後の日本企業の給与制度を方向づけたのだ。

年功序列賃金は終身雇用と相まって、一時期の日本の状況においては、労働者とその家族、企業はもちろん、社会保障の一部を企業が肩代わりしているという点で国にも利益のあるものだった。それゆえに深く根付いたのだが、共働き世帯が増え、1社に定年まで勤め続けることも少なくなってきている今の時代には合わない。生産性向上や同一労働同一賃金とは矛盾するので、むしろ働き方改革の足を引っ張る存在だ。

筆者が言いたいのは、これまでの給与制度を捨て、例えば「裁量労働制」のような新しいスタンダードに一斉に移行せよ、ということではない。ここに紹介した5社のように、企業としてどう戦うのか、そこに集う個々人が仕事や会社から何を得たいのか――といったことを見つめ直し、それを実現するための給与制度のあり方を根本から考えてみてはどうだろう。また、行政には、企業毎の制度づくりの自由度を高めるとともに、これまで企業が担ってきた生活保障の役割をどう担保するのかの議論を進めて欲しい。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人の企画支援記事です。オーサーが発案した企画について、編集部が一定の基準に基づく審査の上、取材費などを負担しているものです。この活動は個人の発信者をサポート・応援する目的で行っています。】