就活ルールなき今求められる“一括り”にしない新卒一括採用

先輩社員からアドバイスを受けるグロービス新卒入社1期生の柳沼 慎哉さん

経団連は昨年10月、新卒採用活動の解禁日などを決めるいわゆる「就活ルール」の廃止を宣言した。

株式会社ディスコの調査によれば、採用広報を規定の3月より前に始める企業が24%に上るなど、すでにルールは形骸化している。また、昨今の採用環境の厳しさから、経団連加盟の大企業であってもルールを遵守していては採用がままならないという状況が、この動きの背景にある。

今後は政府が就活ルールを定めるが、罰則はなく、採用活動の早期化は止まらないだろう。単なるスケジュールの前倒しにとどまらず、以下の記事にあるように、新卒一括採用からの脱却を考える企業も出てきている。

来春の就活「もう終わった」 新卒一括採用に転換期

これまでの新卒一括採用をめぐる状況の変化と、時代や自社の状況に合った新卒一括採用を実施する3社の事例を紹介する。

新卒一括採用が日本で続いてきた理由

これまでの新卒一括採用は、以下のプロセスが標準になっている。

1.大学3年生向けに1~数日の「インターンシップ」を開催

2.リクナビなどの求人サイトに採用情報を掲載

3.会社説明会を実施

4.エントリーシート(ES)と履歴書による書類選考

5.数回の面接

6.内定

前述の調査によれば2020年入社に関しては5割の会社が大型連休前に内定を出し始める見込みだ。その結果、日本では大学卒業者の7割程度が卒業と同時に就職する(厚生労働省「平成29年度大学等卒業者の就職状況調査(平成30年4月1日現在)」より、大卒者のうち就職希望者が75.3%、うち就職した者が98.0%)。

欧米でも新卒一括採用が存在しないわけではなく、在学中のインターンシップで能力を見極めて正規採用の内定を出す企業も増えているようだ。しかしインターンシップは4週間から数ヶ月におよび、「就業経験」として履歴書に書くことができる。多くの学生がアルバイト以外の就業経験なしに内定を得る日本の状況は、やはり珍しい。(参考:海外におけるインターンシップ最新事情 | リクルートワークス研究所

この珍しい状況が続いてきたのは、特に大企業が大量の社員を低コストで獲得するのに好都合だったからだ。

職務の内容まで合意して採用する欧米と異なり、日本では会社の都合で配属、異動を決められる。よって職業的スキルは重視せず、求人サイトで1万人、2万人と応募を集め、人柄や学力が一定レベル以上の者を採って研修やOJTで会社になじませていけば、常に人員不足を穴埋めできたのだ。

効率重視の一括採用が時代の変化で非効率に

しかし時代は変化し、今はより丁寧な採用活動が求められている。

株式会社コヨーテ 代表取締役 菊池 龍之さん
株式会社コヨーテ 代表取締役 菊池 龍之さん

採用活動の企業コンサルティングを行う菊池龍之さん(株式会社コヨーテ 代表取締役)は、現状を「求人倍率も上がっていて、優秀な学生を採用するのが非常に難しい時代。リクナビなどで大量のエントリーを受けたら、他社に取られないためにはなるべく早く内定を出さないといけない。それでは自社に合う学生を見極めるためのコミュニケーションが圧倒的に足りず、ミスマッチの原因になっている」と指摘する。

かつては多少ミスマッチがあっても、他の部署に異動させて様子を見るような余裕が企業側にあった。しかし今はビジネスのスピードも速まり、若手社員にも早く成長して成果を出すことを求める。社員側も、ネットの口コミなどで他社の状況が分かるし、転職のチャンスも増えているから、合わない会社で頑張り続ける理由が少なくなっている。従来型の新卒一括採用は、せっかく獲得した人材が力を発揮できない状態で抱え続ける、あるいは流出してしまうといった無駄の多い方法になっているのだ。

「『大学のレベルが高ければ問題ないでしょ』といった意識では、ミスマッチはなくならない。企業は『自社で活躍するのはどんな人なのか』を徹底的に議論し、そういう人たちに向けて採用活動を行うべき」というのが菊池さんのアドバイスだ。

即戦力になり得る新卒をインターンシップで見極める~グロービス~

グロービス エンジニアの末永 昌也さんと経営管理本部の金田 裕香子さん
グロービス エンジニアの末永 昌也さんと経営管理本部の金田 裕香子さん

会社設立以来二十数年にわたり中途採用のみ行ってきたが、IT系人材拡充のために新卒採用を始めたのが、グロービスだ。

国内最大級のビジネススクールを運営する会社とあって社会人の認知度は高いが、ITエンジニアを目指す学生の間での知名度は低い。だからこそ、これまでの標準的な方法に頼らない今どきの採用方法を実践している。

「即戦力」を求める会社がIT系人材に限って新卒を受け入れる理由

同社は2016年にグロービス・デジタル・プラットフォーム事業部を立ち上げ、それまで不在だったIT系人材を急速に増やしている。2022年までにITエンジニアが100人超の組織にするという計画だ。中途採用だけでは人材獲得が間に合わないため、新卒採用を始めることにした。

これまでは、「自由と自己責任」をポリシーとした社風で社員をプロフェッショナルと捉えており、一から育てる必要のある新卒者を採用する必然性を持たなかった。

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経営管理本部 人事・総務本部 シニア・アソシエイトの金田裕香子さんは、「即戦力の方に来ていただくというスタンスは変わらない」と言う。だが、IT系人材に限っては在学中からインターン経験や自主的な活動でソフトウェア開発をした経験があるなど、若手社会人と遜色ないスキルを持った人材が多くいる。そのため、中途採用に限る必要はないと判断したそうだ。

グロービスにITエンジニア第一号として入社した末永昌也さんは、新卒採用については事業部側の要望も強かったと語る。今いるエンジニアは30代が中心で、ほとんどが自分なりの仕事の仕方を確立している。そこに考え方が柔軟でチャレンジ精神のある若者が入ってくれば、刺激になるというのだ。

学部・学科や成績よりも、実践経験を重視

IT業界では、大学・大学院でAIや機械学習など高度な研究に携わってきた人材を、新卒でも破格の待遇で迎える動きもある。

しかしグロービスでは、新卒に高度な技術力を求めているわけではない。現在選考が進んでいる学生の中には文系の学生もいるそうだ。

末永さんは「単に『授業で習った』ということではなく、趣味の開発でもいいので、主体的に何かを作った経験があることを重視する。高度な技術があるかということよりも、『ユーザーにとって良いものを作りたい』という気持ちをもった人に来てほしい」と言う。

今はプログラミングを独学したり、実際に何かを作ってみるための環境は整っている。やる気さえあれば実践の経験を積めるのが、ITエンジニアという職業なのだ。

2週間以上のインターンを経て一緒に働けるかどうかを確かめる

グロービスが本格的に新卒一括採用の活動を始めたのは昨年で、2019年4月入社からという計画だった。しかし、同社のエンジニアが以前に勤めていた職場でインターンをしていた柳沼慎哉さんが「新卒でも入れるなら他社の内定を蹴ってでも入りたい」とアプローチし、2018年4月に入社した。スキルも人間性も分かっていたため急遽内定を出したのだ。

2019年4月入社予定の学生も、ひとりは末永さんが以前に経営していた会社で2年ほどインターンをしており、よく知る間柄だ。もうひとりは昨年グロービスで3ヶ月インターンをした上で選考に進んだ。残りの1名も、他社でのインターンやソフトウェア開発のコンテストなどで腕を磨いてきた学生だという。

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グロービスでは当面、原則として同社でのインターンを経験してもらい、会社側と学生双方の意思を確認した上で面接に進むというやり方を取りたいと考えている(その後は、採用に直結するインターンを禁止するという政府の方針も鑑みて、新卒採用の取り組み方を模索していくとのこと)。

昨年夏頃からエンジニア志望の学生と企業をマッチングするイベントなどに参加し、見込みのありそうな学生にインターンの誘いをかけている。

末永さんは「インターンには最低2週間は来てほしい」と言う(学生の都合により、必ずしも週5日フルタイムでなくても構わないとのこと)。現在、スクラム開発という方式で1週間をひとつの単位として開発を進めているため、2週間いれば一連のプロセスを体験できる。その間に、一緒に仕事をしていけそうかどうかを相互に確かめることができるというわけだ。

中途採用の場合は、2週間も一緒に過ごして人となりやスキルを見極めることは難しい。末永さんらは、インターンの期間をとれることも新卒採用のメリットのひとつだと感じているそうだ。

報道によれば、政府は採用に直接結びつけるインターンシップを禁止する方針を固めている。これまでも文科省が同様の見解を示してきたため、インターンといっても名ばかりの「1Dayインターンシップ」などで学生と接点を作れればよしとする企業が多い。しかし、共に仕事をすることでスキルや人間性を見極めることができるインターンは、時期を柔軟に設定できれば学業を阻害するものでもない。企業と学生双方に利益のある取り組みではないだろうか。

「新卒採用は必要?」という議論も経て、時代に合った手法を模索~三幸製菓~

三幸製菓 人事部 人事課 主任の柴田 光章さん
三幸製菓 人事部 人事課 主任の柴田 光章さん

グロービスとは反対に、過去から新卒一括採用を続けてきたのが、あられ・おかき・おせんべいなどの米菓を製造する三幸製菓。以前はまさにスタンダードなプロセスで採用活動を行っていたが、かなり苦戦していた。

内定辞退や早期退職に採用担当者は徒労感

求人サイト経由で1万人近くのエントリーは集められるものの、内定を出した応募者に「新潟勤務や全国転勤が嫌」「東京の大手食品メーカーの内定を得た」などの理由で辞退されることが多かった。入社後、転勤を受け入れられずに退職する若手が一定数出ていたこともある。採用担当者としては徒労感が大きかった。

新潟市の三幸製菓本社。周りは田畑に囲まれている
新潟市の三幸製菓本社。周りは田畑に囲まれている

人事部で新卒採用を担当しているのはたった2名、東京の有名企業と同じ手法で戦うのは無理があると気づいた同社は、5年ほど前に新卒採用の方法を大きく見直した。

学生からのエントリーが激減しても採用数は維持

2013年春入社の新卒採用活動から求人サイトの利用をやめ、自社のウェブサイトやFacebookでの情報発信でエントリーを集めるようになった。エントリー者数は減ったが、採用人数は毎年十数名を維持している。人事部 人事課 主任の柴田光章さんは「15人採用しようとしたときにミニマム15人が応募してくるような、マッチング精度の高い状態が理想」だと言う。採用のやり方を変え、目指す方向に近づいていると言えるだろう。

採用広報と選考の仕方を変え、新卒採用へのエントリー者数は激減。これが採用活動の効率化につながっている(資料提供:三幸製菓)
採用広報と選考の仕方を変え、新卒採用へのエントリー者数は激減。これが採用活動の効率化につながっている(資料提供:三幸製菓)

自社にとって必要な資質を効率的に評価

エントリー数が減っても応募者の質を保ち、かつ採用担当者の負荷を軽減する方法を模索してきた。

例えば、「日本一短いES」と銘打ち、エントリー段階では大学名も学部も問わず、志望動機や学生時代に力を入れたことなどの記述もさせない代わりに、ウェブ上で「35の質問」に回答させる。これは大学の研究室と一緒に独自に開発したアセスメントツールで、自社で活躍する人材が持っている7つの資質を測定するものだ。

この質問をクリアすると、次の選考コースが複数提示される。2019年春入社の場合は、1泊2日の合宿で“他者の価値観を受け入れられるかどうか”を評価する「未知への探求」コースと、おせんべいに対する情熱を評価する「おせんべい採用」コースの2つだった。

つまり、「35の質問」までは人手を介さずに自動的に審査を行い、候補者がある程度絞られてから、じっくりコミュニケーションを取って応募者の資質を見極めていくのだ。

そもそも新卒採用は必要か?

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採用手法の改革にあたり、「なぜ新卒採用が必要なのか?」まで立ち返って議論をしたという。

例年、三幸製菓では新卒採用の人数を中途採用の人数が上回るほどで、柴田さん自身は「中途採用だけでも良いのではないか」という考えだ。しかし、経営層や事業部のマネージャーには、会社のビジョンを実現していくために新卒採用が必要という考えもある。

また、「中途で入る人は定着しないのでは?」、「新卒から育てて会社のカルチャーを継承したい」という意見も。しかし、今の時代は新卒でも辞めていく人がいるし、中途で入って長く働き続ける人もいる。これらの観点で両者を区別する意味はあまりないというのが、柴田さんの考えだ。

企業を取り巻く環境は常に変化するため、人材戦略もそれに合わせて柔軟に変えていく必要がある。しかし、人事部が独断で突っ走っても現場がついてこなければ意味がない。同社の今の新卒一括採用のあり方は、現場の理解を得る努力をしつつ少しずつ改革を進めた結果であり、今後も変わっていくことが予想される。

組織文化重視で新卒入社者が多い組織に~ネットプロテクションズ~

ネットプロテクションズ 執行役員 秋山 瞬さん
ネットプロテクションズ 執行役員 秋山 瞬さん

日本初のネット通販における“コンビニ後払い”の仕組みで業界トップのシェアを誇るネットプロテクションズは、創業時期こそグロービスと同時期だが、過去から新卒採用を積極的に行ってきた。今では約150名いる社員の内100名近くが新卒で入ったメンバーだ。伝統的な大企業であれば社員のほとんどが新卒入社組ということも珍しくないが、新興のITベンチャーでこれだけ多いケースは少ないのではないだろうか。

若手が早期に成長し、レベルの高い仕事も担える仕組み

新卒採用者の割合が増えた背景には、組織文化重視の経営がある。フラットな関係性や個人の意志を尊重する同社の文化には、一般的な会社の論理に染まっていない新卒者の方が馴染みやすく定着率が高かったのだ。

その結果、新卒入社1~3年目の社員が全社員の半数近くを占める。普通の企業であれば教育コストばかりかかって仕方がないということになりそうだ。しかし同社では、もともと意欲の高い人材が集まっていることに加え、様々な仕組みが若手の成長スピードを加速している。

フラットな関係の中で切磋琢磨ができる社風(写真提供:ネットプロテクションズ)
フラットな関係の中で切磋琢磨ができる社風(写真提供:ネットプロテクションズ)

例えば、各自がメインの担当業務とは別に業務時間の20%を充てる「ワーキンググループ」という制度がある。組織風土の浸透と活性化、ナレッジマネジメント、新卒採用、全社の予算策定など、組織づくりに必要なことに部署横断で取り組む活動で、プロジェクトを推進することや、経営の視点などが身に着いていく。

若いうちから多くの権限を委譲され、判断と実行の場数を踏むことも、成長に寄与している。例えば、2018年3月に初の海外拠点として台湾オフィスを立ち上げた際には新卒4年目の社員が代表に就任した。同年7月の本社オフィスの移転でも、当時入社5年目の社員がプロジェクトリーダーを務めた。それぞれ、現地の人材採用や移転先物件の決定なども社長にお伺いを立てるようなことなく進めたという。若手にレベルの高い仕事を担う機会を与え、平均年齢が低くても事業が成長し続ける状態を実現しているのだ。

全社的な協力体制で手間をかけた採用活動を実現

ユニークな組織文化に合い、同社で活躍できる人材を見極めるには手間もかかる。

三幸製菓同様、ネットプロテクションズも大手求人サイトは使っていない。それでも毎年4~5回開催する5日間のサマーインターンシップは口コミで評判を呼び、80~100名程度の募集に対して10倍の応募がある。選考が開始してからは個人面接が3回あり、それぞれ平均1.5時間ほどかけてじっくり話をする。

こういった活動は、新卒採用ワーキンググループの呼びかけに応じて多数の社員が協力することで実現している。協力体制が成り立つのも、過去にワーキンググループに参加して新卒採用の大変さや重要性を理解している社員が多いからだ。

「『説明会を手伝います』とか『面接官をやります』とか、みんなが希望する方法で少しずつ協力することにより、ひとりひとりの負担感はずいぶん小さくなっています。以前は必ず社長がしていた最終面接も、社員がやるようになりました。社員の価値観が揃ってきて判断を任せられる状態になったためです」(秋山さん)

日本的な採用・育成手法を現代の若者に合う形に

最近のトレンドとして、事業部別や職種別で新卒採用をする会社も出てきている。しかしネットプロテクションズでは、文系・理系にかかわらず同じ枠組みで採用し、入社時点で担当する仕事は決まっていない。

秋山さんは「就職というよりは“就社”に近い」と言うが、旧来の日本企業と異なるのは、入社後の研修ですべての部署を回った後、本人が希望を出し、それを尊重して配属する点だ。その後も、会社から一方的に異動を命じられることはない。本人が長期的なキャリアの展望や希望する異動先などを書いた「ビジョン・シート」を元に相談、合意の上で異動が決まる。

基本給は在籍期間に応じて自動的に昇給するという年功序列的な制度もある(等級によって上限あり)。しかし単純に年次で一括りの扱いとするわけではない。同じ新卒入社者でもスキルや経験はそれぞれに異なるという考えのもと、今後は一斉研修の割合を減らし、個々人の必要に合わせて教育メニューを選べるようにしていく予定だという。

日本的な採用・育成手法の良いところを残しつつ、現代の、特に成長意欲のある若者に合った方法を独自に編み出しているのが、ネットプロテクションズの新卒採用の特徴だ。

新卒一括採用の意味を見つめ直す時期

新卒一括採用の理由も方法も、三社三様であることが分かった。

共通するのは、“新卒”での採用には意義を感じているが、「“一括”だから効率的」というところにメリットを見出しているわけではないという点だろう。新卒だからと一括りにせず、多様な個人を理解し、それぞれに合った対応をすることが重要になっているのだ。

就活のルールが大きく揺らぐなか、これまで新卒一括採用を続けてきた企業も、あらためてそれが必要な理由を見直し、今後の人材戦略や採用手法を立て直すべき時ではないだろうか。

(写真は特に記載のあるものを除き、筆者撮影)

【この記事は、Yahoo!ニュース個人の企画支援記事です。オーサーが発案した企画について、編集部が一定の基準に基づく審査の上、取材費などを負担しているものです。この活動は個人の発信者をサポート・応援する目的で行っています。】