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「負傷したアスリートの気分…」それでも育休・子育てに積極的な男性たちの思い

やつづかえりフリーライター(テーマ:働き方、経営、企業のIT活用など)
男性育休者が集まるイベントで話し合う参加者達

男性の育休が大きな話題になった2019年

2019年も終わりに近づいています。今年の働き方関連のニュースを振り返ってみると、時間外労働の規制や有給休暇の取得義務など、今年施行された働き方改革関連法に関わるものが多かったのは当然でしょう。しかし、「男性の育休」関連の話題がこれほど盛り上がるのは予想外でした。

全国紙4紙のニュースで、タイトルに“男性”かつ“育休”または“育児休業”が含まれるものは、2018年の27件に対し、2019年は12月20日までで60件に上ります。

「男性の育休」に注目が集まった大きなきっかけは、6月に起きたカネカの炎上事件でしょう。

その直前には男性の育休取得率が6.16%という厚生労働省「平成30年度雇用均等基本調査」の速報値発表や、自民党有志による「男性の育休『義務化』を目指す議員連盟」発足という報道がありました。カネカの件で、これらのニュースへの注目度がさらに高まった形です。

そして8月には、小泉進次郎衆議院議員(現 環境相)の結婚と妻の滝川クリステルさんの妊娠が報じられ、小泉氏の育休取得を「率直に考えている」という発言が大きく取りざたされました。

小泉氏は育休取得を見送ることにしたようですが、「職員が育休や産休、復職をしやすい環境をつくりたい」と環境省の働き方改革に意欲を示しており、これからどんなアクションを取るのかが注目されます。

仲間が見つけづらい男性の育休経験者のためのイベントを開催

これらのニュースを見て、「自分は育休を取れるだろうか」と考えた子育て世代の男性も多かったのではないでしょうか。

「『取れるだろうか』なんて迷っている場合ではない」と、育休取得を決意している男性もいるでしょう。そういう人でも、職場で理解を得るにはどうしたらいいか、育休中はどんな生活になるのか、育休後の働き方をどうするのかーーなどなど、不安や悩みがあるに違いありません。男性の育休取得者は6%強という数字からも分かるように、まだまだマイノリティで周りの経験者を参考にするというのも難しい状況だからです。

いま必要とされているのは、育休を取得した、あるいは育休取得を真剣に考えている男性たちが情報交換できる場なのではーーそう考え、11月に渋谷で開催された「Tokyo Work Design Week 2019」のプログラムのひとつとして「育休後カフェ for men」というイベントを企画しました。

「育休後カフェ for men」告知画像
「育休後カフェ for men」告知画像

「育休後カフェ」は育休後コンサルタントの山口理栄さんが2011年から続ける活動で、仕事と子育てを自分らしく両立していきたい人たちに、リラックスして本音で話せる時間と空間を提供するもの。現在は山口さんに共感して指導を受けた育休後カフェファシリテーター達が、全国各地で開催しています。

通常は参加者の大半が女性ですが、今回は“for men”と銘打って3名の育休経験者の男性をゲストに呼び、主に男性に向けて参加者を募りました。集まってくれたのは12名の男性と3名の女性。男性は全員が子育て中で、ちょうど育休中の方もいました。平日の昼間に来てくださったことを考えると、イベントの趣旨にかなり共感してくれた人たちではないかと思います。

1.5ヶ月、半年、2年。長期の育休を取ったそれぞれの理由

「育休後カフェ for men」で経験談を語る登壇者。左から鈴木さん、浦野さん、小野さん、進行役の筆者
「育休後カフェ for men」で経験談を語る登壇者。左から鈴木さん、浦野さん、小野さん、進行役の筆者

育休経験者としてお招きしたゲストは、以下の方たちです。

小野 俊樹さん

4歳と1歳半の2児のパパ。外資系IT企業勤務。NTTドコモ在籍時代、第1子が生まれた2015年から2017年にかけて2年間の育休を取得。その間は妻の留学に帯同という形でニューヨークにて主夫生活を送った。

浦野 真理さん

3歳児のパパ。AI開発ベンチャー勤務。2016年から2017年にかけて6週間の育休を取得。当時在籍していた会社では、女性も含めて育休取得第一号となった。

鈴木 庸介さん

2歳児のパパ。都内の商社勤務。2018年から2019年にかけて6ヶ月の育休を取得。2019年4月の職場復帰後は時短勤務中。

育休を取ることについて、小野さんと浦野さんは結婚前から、鈴木さんは子どもができる前から考えていたといいます。最近でこそ「子どもができたら育休を取りたい」という男子大学生も増えているようですが、3人は30代後半から40代前半のビジネスマン。そういう心境にいたるにはどんなきっかけがあったのでしょう。

小野さんの場合、子育てに積極的に関わりたい気持ちがもともとあったところに、妻が勤務先の制度で留学することが決まり、その直前に第1子が生まれることも分かりました。そこで、小野さんが留学先に帯同して子育てを担うという選択が現実的なものになったのだそう。

浦野さんは、独身時代に北欧に旅行した際、平日の昼間に子どもと楽しそうに過ごしている父親達の姿をたくさん見かけたことがずっと印象に残っていたそう。また、5歳年上の姉が里帰り出産をし、乳児期の育児の大変さを間近で見て手伝ってもいたということも大きかったと振り返りました。

鈴木さんは、影響を受けた人物として「リンダ・グラットンと塚越学」という2人の名前を挙げました。新婚旅行中にリンダ・グラットン氏の共著書『ライフ・シフト』(東洋経済新報社)を読み、「生き方を変えなきゃ!」という危機感を持った鈴木さんは、妻の妊娠中に参加した自治体の両親学級でNPO法人ファザーリング・ジャパン理事の塚越学さんの話を聞いて、「長期の育休を取ってライフ・シフトしよう」と決意したそう。共働きの妻と相互に仕事と家庭のバランスを調整し、人生100年時代のキャリアを夫婦で構築していくことを目指しているといいます。

3人の話から、同じ育休でもその目的や思いは人それぞれであることが分かります。浦野さんは父親としての子どもとの関わりや妻の負担の軽減、鈴木さんはどちらかというと妻のキャリアを後押しするという面が大きく、小野さんはその両方の目的を果たすために育休という手段があったと言えそうです。

「怪我をしているときのアスリートの気分」仕事に全力投球できない葛藤も

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育休期間を終えても、子育てと仕事の両立というテーマはずっと続きます。3人も、子どもが生まれる前と後ではかなり働き方に変化があったようです。

鈴木さんは、先にフルタイムで職場復帰する妻と交代で育休に入り、子どもの保育園入園のタイミングで時短勤務で復職しました。「夫が時短勤務」という選択は「夫が育休」以上に今はまだ珍しいです。そこには、「時短勤務の女性はキャリアアップのチャンスが得にくい」という会社の実情を見越し、妻がその状態に陥らないようにするという意図があったそうです。

初の男性の時短勤務者である鈴木さんは、時短だからと言って責任ある仕事から遠ざけられるという目には遭っていないようです。逆に、急に海外出張を命じられたり、保育園のお迎えがあって帰らなければならない時刻が近づいているときに「明日の朝9時からの会議の資料を修正して」と言われたりすることも。仕事を持ち帰ったり、どうしようもないときは妻の協力を得たりしてなんとか乗り切っていますが、フルタイム前提の働き方の癖が抜けきらないことや、妻に負担をかけていることにモヤモヤすることもあるとのことです。

この状況は、鈴木さんが「時短勤務でも成果は維持しよう」という姿勢を見せていることや、鈴木さんが時短勤務であることをあまり(?)気にしない上司のパーソナリティなどが合わさってのことなのでしょう。結果として妻も責任のある仕事を任されるようになり、夫婦としてのキャリア戦略はうまく行っているようです。ほかの上司や他の組織であればまた別の結果になっていたかもしれませんが、とても興味深い事例だと思います。

小野さんと浦野さんは、育休から復帰後しばらくして転職をされています。小野さんの場合、育休中に過ごしたニューヨークで、家族との時間を大切にし、転職しながらステップアップしていく米国流の働き方に触れたことが転職を考えるきっかけになったとのこと。転職活動中の面接では「残業せず、6時にオフィスを出てもいいですか?」と聞き、「やることをやっていれば構わない」という答えが返ってきた外資系の企業に移ったそうです。

育休中、起業家の友人から「うちに来てくれ」と誘われた浦野さんも、「家族と過ごす時間を持てる働き方を」という条件を提示して転職しました。ただ、創業間もないベンチャー企業ゆえ、実際に移ってみると約束通りにはならず、しょっちゅう出張で家を空けることになって悶々としたことも。それでも粘り強く交渉や調整を重ね、今は理想に近いワークスタイルに落ち着いているという話をしてくれました。

子どもと関わる時間を意識的に増やしている3人ですが、必然的に仕事や自己研鑽の時間を減ることについての葛藤も抱えているようです。浦野さんが「今は育児に時間を使うべきとき」と自分を納得させながらも、物量的に大きな仕事や長期のプロジェクトなどを断らざるを得ないときの気持ちを「怪我をしているときのアスリートの気分」と例えたのが印象的でした。

この感覚は、女性の私にもよくわかります。子育てや介護など、仕事以外にも責任を持っているビジネスパーソンなら男女に関わらず抱えている葛藤ではないでしょうか。だからこそ、育休を経験した男性や管理職が増えれば、職場での相互理解が進み、働き方改革もさらに前進するのではないかと感じました。

「数日〜数週間の短い育休でも意味はある?」長期育休経験者たちの答えは……

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イベントの後半は、参加者に4〜5人のグループを作ってもらい、ゲストも交じって自分たちの経験や悩みをシェアしてもらいました。

その後、各グループからゲストにさらに聞いてみたいことを募ったところ、さまざまな質問が出てきました。

すでに育休取得済みの男性が多かったことから、

・男性の育休義務化をどう思うか?

・育休を取る前から、育児の大変さ(=育休の必要性)を十分に理解していたか。

・長期の育休は取れないと言う同僚に、数日から数週間の短い育休でも勧めるべきか?

など、「後に続く人をどうやって増やすか」という観点からの質問が多かったように思います。

最後の「短い育休でも取得を勧めるべきか?」という質問に対してゲストの3人からは、「短くても取った方が良い」という共通の回答がありました。その上で、「必ずしも生まれた直後でなく、子どもが動き回り始めて子育てがより大変になるときにするなど、時期を考えるとよい」、「長期の育休の方で得られるものは、短期の育休のそれとは全く違うということは伝えよう」といった、経験者ならではのアドバイスが提供されました。

男性が子育てについて学ぶ場、仲間とつながる場をもっと!

イベント終了後も、多くの人が居残ってゲストや参加者との話を続けていました。男性同士だから話せること、話したいことというのがきっとあるのだと思います。

少し前まで、仕事と子育ての両立というのは「女性の問題」と捉えられてきました。今、インターネットで「仕事と子育ての両立」と検索すれば、出てくる情報はほとんどが女性向けのものです。

日本の企業社会は長いこと男性中心だったが故に、女性特有の悩みと同じくらい、男性特有の悩みもあるはずです。また、文化や制度的な理由から男性が家事や育児についての知識やスキルを身につける機会が女性よりも少なかったという実情も無視できません。働き方改革で「男性も子育てを!」と言うなら、そのために必要なことを男性が学ぶ機会、仲間と情報交換する場がもっと必要だと思います。

今年はパタハラがクローズアップされ、勇気をくじかれたワーキングファザーもいたかもしれません。2020年は、子育てに積極的な男性に勇気を与えるようなニュースが増えてほしいものです。

(写真・画像提供:Tokyo Work Design Week)

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フリーライター(テーマ:働き方、経営、企業のIT活用など)

コクヨ、ベネッセコーポレーションで11年間勤務後、独立(屋号:みらいfactory)。2013年より、組織人の新しい働き方、暮らし方を紹介するウェブマガジン『My Desk and Team』(http://mydeskteam.com/ )を運営中。女性の働き方提案メディア『くらしと仕事』(http://kurashigoto.me/ )初代編集長(〜2018年3月)。『平成27年版情報通信白書』や各種Webメディアにて「これからの働き方」、組織、経営などをテーマとした記事を執筆中。著書『本気で社員を幸せにする会社 「あたらしい働き方」12のお手本』(日本実業出版社)

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