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平成の働き方の変化(労働時間編)〜「24時間戦えますか」からプレミアムフライデーまで〜

やつづかえりフリーライター(テーマ:働き方、経営、企業のIT活用など)
(写真:アフロ)

月末の金曜日は早めに仕事を終えて余暇を楽しもうという「プレミアムフライデー」が始まったのは、2年前の2月でした。3年目に入る今日、いつもより早く帰宅する人はどれくらいいるでしょう。

「年度末も近いこの時期にそんなのムリ!」という人も多いでしょう。それでも「できれば残業を減らしたい」「仕事ばかりではなくプライベートも充実させたい」と考えている人は多いのではないでしょうか。

30年前は「ワーク・ライフ・バランス」という言葉も知られておらず、長時間労働が良くないことだという意識も希薄でした。平成の時代を通して、私達の労働時間に対する意識は大きく変わったのです。その変化を、キーワードと共に振り返ってみましょう。

■24時間戦えますか

「24時間戦えますか」というキャッチフレーズが栄養ドリンク「リゲイン」のCMで登場したのは、ちょうど平成元年(1989)のことでした。

今なら「24時間働かせるな!」と炎上必至ですが、バブル絶頂期の当時、CMで時任三郎が演じる海外出張中のビジネスマンは笑顔に溢れ、「働かされている」という悲壮感は微塵も感じさせません。CMソング『勇気のしるし』はオリコンシングルランキングのトップ10入りを果たし、累計60万枚以上売り上げたそう。世間では「24時間戦う」という感覚が普通に受け入れられていたわけです。

しかし「長時間バリバリ働くのがかっこいい」という感覚は、この後どんどん古いものになっていきます。

■時短/週休2日/ノー残業デー

平成の始まりは、時短運動の始まりと重なります。1980年代、貿易摩擦により海外から「働きすぎ」を非難されてきた政府は、当時 2,100 時間前後だった年間総労働時間を1,800時間程度に引き下げることを目標に様々な時短施策を打ちました。

そのひとつが週休2日制の導入です。

昭和の終わりに労働基準法が改正され、労働時間の規定が「1日8時間、週48時間以内」から「1日8時間、週40時間以内」に短縮されました。それから10年ほどかけて週休2日制が浸透していきます。

まずは平成元年(1989)2月から金融機関が土曜日の窓口業務を中止し、平成4年(1992)5月から国家公務員も完全週休2日となりました。一般企業については段階的な時間短縮などの移行措置を経て、平成9年(1997)4月にほぼ全面的にルール化されました。

参考:週休3日制は定着するか?週休2日の歴史から考える

働く日を減らすだけでなく、残業を減らす取り組みも盛んになりました。「ノー残業デー」という言葉は1970年代からあるようですが、平成3年(1991)の春闘では連合が「週1回のノー残業デー」を掲げ、平成5年(1993)には中央省庁も水曜日を「定時退庁日」としています。

■ワーク・ライフ・バランス

時短運動は外圧に押されて始まったわけですが、バブル崩壊とそれに続く「失われた10年」を経験した日本には、「いよいよ働き方を変えないとマズイ」という危機感が芽生えます。

平成19年の「骨太方針2007(経済財政改革の基本方針)」では、人口減少下での成長を実現するための「働き方の改革の第一弾」として「仕事と家庭・地域生活の両立が可能なワーク・ライフ・バランスの実現」に向けた取り組みを行うことが宣言されました。

「ワーク・ライフ・バランス」という言葉は、平成12年ごろコンサルタントのパク・スックチャ氏によって日本に紹介されました。それが企業の重要課題となったのは、骨太方針のもと、国が「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」を策定し、企業に取り組みを迫ったことが大きいでしょう。

また、平成に入って共働き家庭がどんどん増えたことも、企業のワーク・ライフ・バランスへの取り組みを加速させたことは間違いありません。

平成9年以降は共働き世帯数が男性雇用者と無業の妻から成る世帯数を上回っている。 出典:内閣府『男女共同参画白書 平成30年版』第3章 仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)
平成9年以降は共働き世帯数が男性雇用者と無業の妻から成る世帯数を上回っている。 出典:内閣府『男女共同参画白書 平成30年版』第3章 仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)

■働き方改革(プレミアムフライデー)

ワーク・ライフ・バランス意識が高まり、女性が育児休業や短時間勤務などを利用するのは当然視されるようになりましたが、独身者や男性の長時間労働はほとんど是正されませんでした。

一般労働者の年間総実労働時間は、平成5年から28年までほとんど2000時間を超えている。 出典:「平成29年版過労死等防止対策白書」第1章 労働時間やメンタルヘルス対策等の状況
一般労働者の年間総実労働時間は、平成5年から28年までほとんど2000時間を超えている。 出典:「平成29年版過労死等防止対策白書」第1章 労働時間やメンタルヘルス対策等の状況

平成28年(2016)から始まった働き方改革の議論では、母親だけでなく全体の長時間労働をやめなければ仕事と家庭生活の両立は困難、という指摘が当初からなされていました。加えて、電通の新入社員の過労自殺が大きく取り沙汰されたことで長時間労働についての議論は更に過熱しました。

そんななか、平成29年(2017)2月に経済産業省の発案で始まったキャンペーンが「プレミアムフライデー」です。

「月末の金曜日は、早めに仕事を終えて豊か・幸せに過ごす」というコンセプトで、企業には社員を早く帰らせるよう促すと同時に、サービス業やエンタメ業界に対してセールやイベント等の実施を推奨しました。

出典:ゼネラルリサーチ「プレミアムフライデーに関する意識調査」
出典:ゼネラルリサーチ「プレミアムフライデーに関する意識調査」

長時間労働是正と消費喚起を同時に狙うこのキャンペーン、話題にはなりましたが、「月末の金曜日なんて一番忙しいときに、早く帰れるわけがない」といった反発も。ゼネラルリサーチ社が今年2月に全国20~60代男女に対して行ったインターネット調査によると、勤務先でプレミアムフライデーを実施したという回答は約1割にとどまりました。

■働き方改革関連法(時間外労働の上限規制/有給休暇の取得義務化/高プロ)

政府の働き方改革の本丸は、キャンペーンではなく法規制です。平成30年(2018)に働き方改革関連法が成立し、残業時間の上限が初めて法律で規定されました。同時に、有給休暇を最低5日間取得させる義務も新たに制定されました。

これらのルールは、今年4月から適用されます。法律の内容については、規制が不十分であるとか、効果があるのか疑問、といった批判もありますが、「24時間戦えますか」の時期と比べると、労働時間に対するルールも意識もかなり変化したことは間違いありません。

一方、同じ働き方改革関連法に盛り込まれた「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」は、「定額働かせ放題」を実現する制度とも言われ、長時間労働の是正と逆行します。これは、労働時間の規制がきつくなる状況になんとか抜け道を作りたいという経済界の意向を強く反映したものだと言えるでしょう。

■平成の次の時代は「労働時間」に対する考え方が根本的に変わる?

私は、今回の高プロの内容は危険度が高く、これを導入するのは拙速だと考えています。しかし、これから始まるポスト平成の時代には、時間で管理しない仕事や報酬のあり方をもっと真剣に考えざるを得なくなると予測しています。少子高齢化、テクノロジーの発展、グローバル化……といった環境変化により、「労働を時間で管理する」ということが合わない仕事が圧倒的に多くなると思うからです。

平成時代は「24時間戦えますか」という昭和の意識を引きずった形で始まりました。将来、平成の次の時代を振り返ったときには、「あの頃は、労働を時間で管理するという平成の考え方を引きずっていたね」と言われるのかもしれません。

フリーライター(テーマ:働き方、経営、企業のIT活用など)

コクヨ、ベネッセコーポレーションで11年間勤務後、独立(屋号:みらいfactory)。2013年より、組織人の新しい働き方、暮らし方を紹介するウェブマガジン『My Desk and Team』(http://mydeskteam.com/ )を運営中。女性の働き方提案メディア『くらしと仕事』(http://kurashigoto.me/ )初代編集長(〜2018年3月)。『平成27年版情報通信白書』や各種Webメディアにて「これからの働き方」、組織、経営などをテーマとした記事を執筆中。著書『本気で社員を幸せにする会社 「あたらしい働き方」12のお手本』(日本実業出版社)

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