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自社に合う人材、合わない人材をどう見極める?独自給与制度の3社が討論

やつづかえりフリーライター(テーマ:働き方、経営、企業のIT活用など)
会場にて。左から倉貫義人氏、柴田史郎氏(筆者撮影)

独自の給与制度をもつ3社によるパネルディスカッション「働き方改革は給料の決め方改革」(2017年11月21日、「Tokyo Work Design Week」内で開催)の内容をお届けするシリーズ。前回前々回に続き、最後となる今回は、採用と給与制度との関係についてのディスカッションを紹介する。

登壇者

・株式会社ソニックガーデン 代表取締役 倉貫義人氏

・株式会社カヤック 人事部 柴田史郎氏

・ダイヤモンドメディア株式会社 代表取締役兼共同創業者 武井浩三氏

ファシリテーター

・ファッションデザイナー/株式会社ウツワ 代表取締役 ハヤカワ五味

3.給与制度と採用との関係

社員に大きな影響を与えるという点で、給与制度と採用とは密接な関係がある――、今回のディスカッションでは、そのことにも気付かされた。

ユニークな給与制度が採用に影響を与えている?

給与を始め、魅力的な制度を作ると、それに惹かれて望ましくない人材も来てしまうのでは? という疑問に対し、カヤックとソニックガーデンの独自の採用方針、手法が語られた。

ハヤカワ:

例えば「サイコロ給、めっちゃ面白いじゃん!」みたいな感じで、事業内容というよりは制度に惹かれて来られたような人材に対しては、どう対応されてますでしょうか?

株式会社カヤック 人事部 柴田史郎氏(筆者撮影)
株式会社カヤック 人事部 柴田史郎氏(筆者撮影)

柴田:

サイコロ給に興味を持って来る人は、そんなにいないです。カヤックを知ったきっかけがサイコロ給、というのはありますけど。

そもそも何をやっている会社か分かりづらいので、「カヤックって名前を聞いたことあります。なんか面白そうだったので来ました」みたいな人はいますよ。事業内容というのはかなり変化していくものなので、そのくらいの動機の方がいいんです。「それしかやりたくない」というものがあると、変化に対応できないので、「基本何でもいいけど頑張ります」みたいな人が多いですね。

ハヤカワ:

私も、カヤックさんを最初に知ったきっかけは、寿司を食べながら面接する、みたいな話からでした。ヤバい会社だな、と思いましたね。

柴田:

それは僕が入る前ですね。正月に寿司を奢るという謎の企画。

ハヤカワ:

私もそこから興味を持ってインターンに行かせていただいた経緯があるので、そう考えると理にかなっているというか……。

柴田:

確かに。「(会社のイメージは)バカっぽいけど、話してみたら意外とちゃんとしてますね」と言って入ってくる人が多いですよ。「いろいろ考えてるんですね、安心しました」って。

ハヤカワ:

そのギャップの部分に惹かれて、思いがけない人材が入ることもあるんですか?

柴田:

何かやることが思いつけば、入れることができるんですね。例えばYouTuberの人が「カヤックの企業チャンネルを作りたいんです」みたいなことを言ってきたら、「なるほど、ちょっとやってみる?」みたいな感じで。最初からポジションがなくても、受け入れ先を考えてアサインして試してみたりとかは、比較的ありますね。評価が相互投票だと、それができるんです。

ハヤカワ:

なるほど。ソニックガーデンさんの場合、給料が一定ということで、「あんまり働かなくてもいけるんじゃないか」みたいな人が応募されてきたりとか、ないんですか?

倉貫:

ないですね。逆に、僕らの会社は採用がものすごく厳しいんです。いっぱい応募はあるんですけどあまり採用しない方針で。

よく「仕事しないんじゃないか?」ということを聞かれますけど、遊びでもプログラミングをするという人じゃないと採用しないです。そういう人を採用したら、ほっといても仕事するし、仕事しなくてもプログラミングしてるので、結局仕事の役に立つ。なので、給料や働き方だけに惹かれて来る人は、まず入れないですね。

ハヤカワ:

なるほど。でも、応募される方はいると思うんです。そこをどう見極めているんですか?

倉貫:

僕らの会社は、面接の一番最初が社長面接なんです。普通の会社だと、人事とか部門の人が面接して、最後に社長面接ですけど、そこで落としたら、それまでの苦労がもったいないので、社長はめちゃくちゃ落としにくいんですよね。合理的に考えると、社長が最初に落とした方がお互い痛みが少ないので、まず社長面接をするんですけど、そうすると毎日面接みたいな状態になってすごくしんどくて、その前に試験をすることにしました。

自分たちでシステムを作ったんですけど、会社のウェブサイトで「応募したい」というボタンを押すと、そこからゲームっぽい感じで、トライアウトのレベル1がスタートします。そこで、「このプログラムを書けますか?」という問題が出て、「書けなかったらここで勉強しましょう」というリンクがあったりします。そういうチェックリストに答えたり、プログラムを提出したりしてもらう他に、面接の時に聞くようなことも大体ここで聞きます。面接だと喋りのうまいやつが通っちゃうので、作文してもらおうと思って。たくさんの問題があるので、それを最後までクリアした人が、「レベル1クリア、おめでとうございます。社長と面接です」となります。

柴田:

クリアして社長と面接って、ちょっと嬉しいですね。

倉貫:

その後もレベル3まであるので結構大変で、そこで大分振るい落とされますね。

柴田:

じゃあ、「勉強してください」と言われて勉強して、また1年後に受けに来る人もいたりするんですか?

倉貫:

います。トライアウトは期限なしなので、スタートしたあとずっと頑張ってやって、ようやくレベル1をクリアできました、みたいな人もいます。

ハヤカワ:

うちの会社でも、エントリーシートのハードルを少し上げるだけでも、エントリーしてくる人の質が変わるということはありますね。すごく面白い仕組みで、これなら導入しやすい会社さんも多いんじゃないかなと、今お伺いしていて思いました。

倉貫:

履歴書を見るよりは、大分確実ですね。

柴田:

社内の自由な制度と、厳しいフィルタリングと、セットでいい感じですよね。

倉貫:

そうなんですよ。僕は「人を信じてますね」とか「性善説で会社を経営されているんですね」と言われるんですけど、実は真逆で、全く人のことを信じていないんです。

世の中悪いやつばっかりなので、しっかり採用のところでガードする。めんどくさい質問にずっと回答し続けるのは、相当入りたくて真面目な人じゃないとやりきれないので、それをクリアするということは結構いいやつです。そうやって入ってきた人は、信じればいい。いい人かどうかわからないのに入れて性善説、性悪説……とやるとうまくいかないです。

各社に合わない人材、採用したくない人材とは?

「来てほしくない人材とは?」という質問に対する答えからも、各社のそれぞれの考え方が浮き彫りになった。

ハヤカワ:

こういった人はエントリーしないでほしいといった、逆のターゲットみたいなものはありますか?

ダイヤモンドメディア株式会社 代表取締役兼共同創業者 武井浩三氏(筆者撮影)
ダイヤモンドメディア株式会社 代表取締役兼共同創業者 武井浩三氏(筆者撮影)

武井:

うちは採用のハードルを上げるというのは逆のアプローチで、そもそも僕が全く採用に関わっていなくて、みんな部署ごとに勝手に採用して、合わなければ勝手に辞めさせちゃいます。

うちの会社は、辞める仕組みがいっぱいあるんですよ。一般的には、採用した人を簡単にはクビにできないですけど。

ハヤカワ:

そうなると、代謝が悪いというか……。

武井:

そうそう、組織は大きくなるしかなくなってしまう。でも、今はそんな大企業は作れないので、どう新陳代謝を良くするかです。うちの場合は、給料をお互い話し合って決めるというプロセスに自浄作用があったりします。「お前の給料とパフォーマンス見合ってないよね。そろそろ他の会社行っちゃう?」みたいなことも話すんです。「知り合いが人材募集してたけど、そっちの方が給料高いし、行った方がいいんじゃない?」みたいな。

柴田:

気軽にそういう話をするんですか?

武井:

そうですね。やっぱり給料について話し合うと本性が出るので、フェアな立場で話せる人は会社にずっと残っていきますし、「周りのことは知らないけど、俺は給料もっとほしい」と言うやつだったら「じゃあ、辞めればいいんじゃない」となって、話が早いんです。

ハヤカワ:

確かに、人事で苦労するのは「この人絶対にうちに合わないな」という人が辞めてくれないときだと思います。お互い気を遣って大変ですよね。それが、自分の給料の相場を把握することで、自分の評価が分かって、他の会社に行くという選択肢も見えやすくなるというのは、面白いですね。

カヤックさんは、こういう人は違うな、というのはありますか?

柴田:

学生向けには、「特徴が何もない人は落ちます」と言います。何か尖っているところがあれば一次面接は通す、くらいのざっくりしたやり方です。

ただ、僕の本音を言うと、「分からない人は基本合格にしろ」というルールがあります。僕の考える基準を超えたところにいい人がいるかもしれないという疑問を、絶えず持っていなきゃいけないと思うんですよね。僕は今年37歳ですけど、新卒の学生の面接なんかはもうキツイんですよ。十何歳も年下だと、その人がダメなのか、自分の価値観がずれているのかが分からない。正直、僕が疲れているかどうかで基準が変わっちゃったりしますよね。だから、もう面接を他の人にやってもらいたい、というのが本音です。

ハヤカワ:

確かに、価値観もずれていくだろうし、運もありますよね。

ソニックガーデンさんは?

倉貫:

わかりやすい指標が2つあります。まず、僕らはリモートワークという働き方をしているので、面接もテレビ会議でやります。そうすると、直接会いたい、会って熱意を伝えたい、という人がいるんですけど、そういう人は不採用です。熱意をテレビ会議で伝えられない人は、この先やっていけないので。

柴田:

なるほど。それは面白い。

倉貫:

もうひとつ、僕らは給料が一律で安定しているので、比較的高給ですが、そんなに上がらないんですね。上場する気もなければ、バイアウトして稼ぐ気もないし、びっくりするような大型案件が取れるということもあまりない。だから、「将来フェラーリに乗りたい」という若者がうちに入ってきても未来永劫フェラーリには乗れません。「フェラーリ乗りたい?」って聞いて、「そういうのは興味ないです」という人を入れます。「めっちゃ頑張って、フェラーリ乗れるくらい稼ぎますよ!」という人は、「よそに行ったほうがいいよ」と言って、他のキラキラした会社にお譲りします。

採用時に履歴書を見るか?

最後に、参加者からの「採用基準として経歴や年齢を見ているか?」という質問に対する回答を紹介する。

株式会社ソニックガーデン 代表取締役 倉貫義人氏(筆者撮影)
株式会社ソニックガーデン 代表取締役 倉貫義人氏(筆者撮影)

倉貫:

ないです。履歴書を見ないので、どこの大学を出て、前の会社がどこかも知らずに採用します。経歴は関係ないし、年齢も関係ないですね。

柴田:

採用時は履歴書をもらっているので見ますけど、高学歴じゃないとダメ、みたいなベタなことをやっていたらどうしようもないですよね。年齢も、何歳以上はダメとか特に無いです。今日も60歳の人を面接して、合格にしました。

武井:

僕は採用に関わってないので分からないですけど、うちも履歴書は見ないですね。「人相採用」と言って、3秒で決めるんですよ。この人いい顔しているな、という人ならOKで、その後でチームでのみんなで飲みに行って、楽しく飲めたらいいんじゃないか、みたいな感じで。

倉貫:

僕らの会社も、友だちになれるかというのは重要です。さっき説明したトライアウトのレベル1とレベル2をクリアしたら「お友だち期間」というのがあって、入社するかしないかは置いておいて、まずお友だちになります。レベル2までクリアしていたら、いい人だということは分かっていて、それで仕事ができれば一緒にやればいいし、「仕事はちょっと……」ということなら友だちとしては仲良くなるという。

柴田:

友だち期間は何をするんですか? ゲームとか?

倉貫:

ゲームしたり、僕は会わないんですけど、会社に来てもらってメンバーと飲みに行ったり。僕らはプログラミングも遊びなので、一緒にプログラム開発したりもして、それでうまくいけば入ってもらいます。まずはお友だちになるので、友だちになれるかどうかの判断に履歴書見るのって、失礼ですよね。

柴田:

履歴書に関して言うと、面接のときよりは、スカウトサイトなんかに登録されているのをすごく見てます。何十万人分も登録されているんですけど、なぜか「これはカヤックに合いそうだ」というのが直感的に分かるんです。「何かありそう」と感じて連絡する、というのはありますね。

倉貫:

それは、職人技ですね。

給料、評価、採用の制度に定石はない

上司の評価によって給料が決まらない、その1点においては共通の3社だが、それ以外の部分は、それぞれの組織のなりたちや目指すところによって異なることが見えてきたパネルディスカッションだった。

当日の会場には、自分の組織の運営のヒントを求めてやってきた人も多かっただろう。各社のやり方はあまりにユニークで、すぐに取り入れられるノウハウは少なかったかもしれない。だが、普段常識だと考えているようなものを超えたところから、自社にあるべき制度について深く考える機会になったのではないだろうか。

フリーライター(テーマ:働き方、経営、企業のIT活用など)

コクヨ、ベネッセコーポレーションで11年間勤務後、独立(屋号:みらいfactory)。2013年より、組織人の新しい働き方、暮らし方を紹介するウェブマガジン『My Desk and Team』(http://mydeskteam.com/ )を運営中。女性の働き方提案メディア『くらしと仕事』(http://kurashigoto.me/ )初代編集長(〜2018年3月)。『平成27年版情報通信白書』や各種Webメディアにて「これからの働き方」、組織、経営などをテーマとした記事を執筆中。著書『本気で社員を幸せにする会社 「あたらしい働き方」12のお手本』(日本実業出版社)

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