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【体操世界選手権】体操一家の末っ子 畠田千愛はパリ五輪への思いを膨らませた #体操競技

矢内由美子サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター
自身初の世界選手権で今ある力を十分に発揮した畠田千愛(写真:松尾/アフロスポーツ)

ベルギー・アントワープで開催された体操世界選手権。10月6日の女子個人総合決勝で、自身の最終種目である平均台の演技を終えた畠田千愛(ちあき=セントラルスポーツ)は、張り詰めていた表情をやっと緩ませた。

前半種目のゆかと跳馬は12点台にとどまったが、後半の段違い平行棒と平均台ではきっちり13点台に乗せた。

補欠からの繰り上げで巡ってきた初めての世界選手権で、17位と健闘。

各国のエース級の選手たちと一緒に種目をまわり、「個人総合の決勝に初めて出て、テレビで見ていた選手と一緒に戦ったことで、自分に足りない部分や課題が見えた。とても良い経験になった」と充実感をのぞかせた。

女子個人総合決勝での平均台の演技
女子個人総合決勝での平均台の演技写真:松尾/アフロスポーツ

■5日間で合計11演技 充実の世界選手権だった

パリ五輪の団体出場権獲得という重大なミッションが課せられた女子団体総合予選、チームとして課題を突きつけられることになった団体決勝、そして個人総合。畠田にとっては、5日間で全11演技を行う内容たっぷりの世界選手権だった。

最初にあった団体総合予選では全4種目のうち3種目で一番手を任され、安定感のある演技で次の選手につなぎ、パリ五輪団体出場権獲得に貢献した。

試合後は、「トップバッターを任せられることは不安だったけど、どの種目も次につなげる演技はできたんじゃないかな」と胸を張っていた。

その時、思い出していたのが、東京五輪の団体出場権を懸け、姉の瞳さん(現コーチ)が重圧の中で全種目一番手として演技をした2019年シュツットガルト世界選手権だ。

日本はエースの村上茉愛が不在という厳しい状況に加えてケガを抱える選手も多く、全員がそれこそ必死に演技を行い、五輪切符をつかみとった。

当時、翌年に予定されていた東京五輪の代表入りを目指して、日本で練習を続けていた畠田は、「お姉ちゃんが常に一番目に出て成功させて、みんなの演技をつないでいたのを(テレビで)見て、つなげる演技というのを勉強できた。今回、自分が実際にやってみて、一番手がどれだけ重圧がかかるか、どんな重圧がかかるのかが分かって、お姉ちゃんの気持ちも分かった」と振り返った。

コーチとして帯同している姉の瞳さん(左)と
コーチとして帯同している姉の瞳さん(左)と写真:松尾/アフロスポーツ

■パリ五輪出場への意欲がさらに増した

今は、自身が出た試合でパリ五輪の団体出場権を手にしたことにより、パリ五輪に出場したいという気持ちがより一層強まっているという。

「今回の世界選手権は、元々は補欠として帯同するだけで、出る予定がなかった。実際に出てみて、この大舞台で演技するという経験ができたし、この場で完璧にこなすのがどれだけ難しいかも分かった。もう一度この大舞台で戦いたい。オリンピックは自分で掴んだ権利だと思っているので、パリで自分の演技をしたいという気持ちはある。今回出場できたことで、パリオリンピックへの気持ちが現実に変わったかなと思います」

段違い平行棒の演技。つま先までしっかり伸びている
段違い平行棒の演技。つま先までしっかり伸びている写真:松尾/アフロスポーツ

■「初めて自分の試合で、海外で家族がそろった」

両親は体操の指導者で、父の好章さんは1992年バルセロナ五輪男子団体総合銅メダリスト。母の友紀子さんも元体操選手で、母の指導の下、姉の瞳さとともに五輪出場を目指してきた。

けれども、世界選手権など主要大会の代表の座は遠く、両親や姉が海外遠征するときには一人だけ日本に残るということが続いた。そして、瞳さんは東京五輪の翌年、ケガの影響で現役を退いた。

「親がいつも練習を見てくれて、(姉妹)2人で(代表に)入りたいという夢があったけど、それを叶えられないままにお姉ちゃんが引退してしまった。いつも私だけ取り残されていたことは、私も悲しいですが、お母さんが一番悲しんでいたんじゃないかな」

パリ五輪団体出場権を獲得した団体総合予選の後、少し目を潤ませながらそう語っていた畠田にとって、今回の世界選手権は、競技面とはまた異なる感慨も生んでいる。

会場では両親がスタンドで見守り、瞳さんはコーチとしてつねに時間をともにし、支えてくれた。

「自分の試合で海外で家族がそろうことができて、私としてはそれが今までのなかで一番うれしかったことだと思う」と語る表情には家族への感謝があふれていた。

団体決勝で「片足水平3回ターン」に挑戦。回りきったが、最後に少しだけ上げていた足が下がってしまい、難度認定はされなかった
団体決勝で「片足水平3回ターン」に挑戦。回りきったが、最後に少しだけ上げていた足が下がってしまい、難度認定はされなかった写真:松尾/アフロスポーツ

■「片足水平3回ターン」は成功まであとわずかだった

今大会前、ゆかの新技として申請していた「片足水平3回ターン」は団体決勝で成功まであと少しだったが、Dスコアとして認定されず、同時に申請していた米国のジョーンズが成功。心残りはあるが、「やれればDスコアが高いし、魅せられる部分でもある。これからもやっていきたい」と意欲を見せる。大会を通じて、もっとDスコアを上げていく必要も感じたという。

「パリオリンピック。頑張りたいです」

多くの収穫を手に、畠田は次のステップへと向かっていく決意を固めた。

瞳さん(左から2人目)は世界選手権3度代表。東京五輪団体総合で入賞。2022年に引退した時には会場に家族がそろった。
瞳さん(左から2人目)は世界選手権3度代表。東京五輪団体総合で入賞。2022年に引退した時には会場に家族がそろった。写真:西村尚己/アフロスポーツ

サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。スポーツグラフィックナンバー「Olympic Road」コラム連載中。

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