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【体操世界選手権】橋本大輝が史上4人目の個人総合連覇 ピンチを救った“骨盤”のひらめき #体操競技

矢内由美子サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター
体操世界選手権の男子個人総合で連覇を達成した橋本大輝(写真:ロイター/アフロ)

ベルギー・アントワープで開催されている体操世界選手権。10月5日(日本時間6日)に行われた男子個人総合で、日本のエース橋本大輝(順大4年)が6種目合計86.132点で昨年に続く連覇を果たした。男子個人総合の連覇は2009年から6連覇した内村航平以来で、史上4人目の快挙。橋本は団体総合との2冠も達成した。

■不安にさいなまれていた団体総合予選

9月30日の団体総合予選では、「事前のオランダ合宿からコンディションがあまり良くなかった」と吐露したように、あん馬でミスをするなど精彩を欠き、個人総合予選3位。

それでも「これから徐々に上げていく」とプライドを見せると、団体決勝では2015年以来8年ぶりとなる金メダルに輝いた。

中1日で迎えた個人総合決勝も、最初のゆかこそ着地がうまくいかず、まさかの17位発進となったが、そこからの巻き返しは見事。予選でミスが出たあん馬をきちっと通し切り、4種目目の跳馬では「ロペス」を着地まで完璧に決めて15.000点。ラストの鉄棒では団体決勝と同様に、点差を計算しながら確実に点を取れる演技構成を選択し、見事に昨年に続く金メダルを獲得した。

不調だった予選から団体決勝、個人総合と日程が進むにつれて調子を上げたのはさすがディフェンディングチャンピオンのなせる業。だが、実際は口で言うほど簡単なことではなかった。橋本は試合後、「予選が終わった時はどうやって(調子を)合わせようかと思った。上がる感じもないし、どうしようと思っていた」と不安にさいなまれていたことを明かした。

団体総合予選の時は不安が大きかったと吐露した
団体総合予選の時は不安が大きかったと吐露した写真:松尾/アフロスポーツ

■ふと浮かんだ「骨盤を開く」という打開策 それを可能にした抜群の身体センサー

悩める橋本を救ったのは、自身が持つ抜群の身体センサーだ。

「元々、僕は胸椎が硬いので、胸椎を開くトレーニングをやっていた」という橋本は、団体総合予選を終えてからどうにか打開策を見出さなくてはと頭を巡らせ、その最中にふと浮かんだのが「骨盤を開くこと」(橋本)だったという。

骨盤調整に望みを託した橋本は、ストレッチポールの上に寝転がってトレーナーに骨盤を押してもらい、慎重に骨盤を開いていった。すると、感触が劇的に変化した。

「骨盤を開いたら、ちゃんと体重が乗るようになって体が動きやすくなった。骨盤が閉じていると、鉄棒の車輪で伸びやかに体をしならせることができない。骨盤を開いたことによって跳馬のロイター板の乗り方も良くなって跳躍も良くなった。あん馬の旋回も安定感を増してきた」

自身の感触通り、あん馬と跳馬は今大会の最高点が出た。

橋本の見解によると、日本から事前合宿地のオランダに行った際に、飛行機での長時間移動で骨盤が固まってしまったのだろうということだが、当初は気づいていなかったそうだ。

ただ、橋本自身は「よく思いついたなと思います」と言うが、解決策が偶然に見つかったわけではない。普段から自分の体としっかり向き合っているからこそ導き出せたアイデアだ。

個人総合決勝のつり輪の演技
個人総合決勝のつり輪の演技写真:ロイター/アフロ

■腰の疲労骨折をきっかけに「自分の体をもっと知るようになった」

修正ポイントがどこであるかを見抜くためのセンサーを身につけるきっかけとなったのは、ケガだ。とりわけ大きかったのが今年1月に発覚した腰の疲労骨折。

「今まではトレーナーさん任せだったりしたところもあったのですが、腰痛を持つようになってからは、自分で何か変えなきゃいけない、自分でも体のことをもっと知らなければいけないと思った。そこで自分を見つめ直せたっていうのは良かったと思う」

自分で考えるようになっていたことが、不調を打開するための力となった。

橋本を指導するアテネ五輪金メダリストの冨田洋之コーチは「(体の変化を感知する)発想や敏感さは、普通の選手より高い。その能力をうまく引き出しながら、彼自身も気づいていってすぐに対応できるし、体のコントロールも優れている」と語る。

橋本はこれで、個人総合連覇を達成。

「まだまだ自分の中では満足していないところもあるのですが、最後、勝ち切れたというのは良かったなと思っています」と安堵した。守るべきタイトルを守った、重みが、言葉と表情ににじんでいた。

#体操競技 #橋本大輝

重圧をはねのけて金メダルを手にした橋本大輝の笑顔
重圧をはねのけて金メダルを手にした橋本大輝の笑顔写真:ロイター/アフロ

サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。スポーツグラフィックナンバー「Olympic Road」コラム連載中。

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