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【体操】つま先と膝の美しさが際立つ土井陵輔 パリ五輪で日本の力に #体操競技

矢内由美子サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター
2022年世界選手権男子団体決勝でゆかの演技をする土井陵輔(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

初出場した2022年世界選手権で、男子団体銀メダルと種目別ゆかの銅メダルに輝いた土井陵輔(日本体育大4年)がこの夏、高難度技を組み込んだ新たな演技構成を成功させている。

8月22日に長野市ホワイトリングで行われた全日本学生選手権(インカレ)の男子個人総合で83.565をマークし、優勝した橋本大輝(順天堂大)、2位の谷田雅治(同)に次ぐ3位。あん馬で2度の落下があったため6種目の合計点としては少々物足りないが、持ち味である「美しい体操」を取り戻していた。

次の試合は9月10日の第1回男子スーパースペシャリスト選手権(東京・立川立飛アリーナ)。パリ五輪へ向けて今の最高の演技を見せようと意気込んでいる。

2023年全日本種目別選手権に出場した土井陵輔
2023年全日本種目別選手権に出場した土井陵輔写真:松尾/アフロスポーツ

■世界選手権の代表入りを逃した2023年

「今年は本当に何もできなかった。代表が決まる試合で、ここぞという時に全然できなかった」

8月にあったインカレで土井は悔しそうにそう言った。

その言葉通り、4月から始まった2023年の代表選考シリーズは散々な結果だった。

選考会の口火を切る全日本個人総合選手権(4月20~23日)の3、4日前の練習中に鉄棒のG難度技「カッシーナ」を持ち損ねて、右肩の肩甲下筋(けんこうかきん)を損傷。その影響がもろに出た全日本個人総合選手権は予選でミスを重ねた。結果は予選が81・532点で22位。決勝は82.798点で予選より少しだけ点を伸ばしたが予選の点数を持ち越しての最終順位は19位。まさかの結果となった。

その後も痛みを抱えての練習や大会出場が続き、NHK杯18位、全日本種目別選手権も表彰台は2位のゆかだけ。2年連続の世界選手権代表入りが叶わなかったのみならず、ユニバーシティー大会、アジア大会など国際大会の代表入りを逃した。

ただ、巻き返しを誓う気持ちはすぐにわき上がった。練習では質を高めることへの意識を強め、通し練習も増やした。特に、苦手なあん馬は通しを2度行うほど力を入れた。

世界チャンピオンの橋本大輝とは同学年だ
世界チャンピオンの橋本大輝とは同学年だ写真:YUTAKA/アフロスポーツ

■インカレで高難度技 ゆか「リ・ジョンソン」 跳馬「シライ/キムヒフン」

こうして迎えた8月のインカレは、負傷の影響がほぼなくなった状態でもあり、自信を持って臨むことができたという。

1種目めの平行棒で14.466とまずまずのスタートを切ると、2種目めの得意の鉄棒では全体1位となる15.000。

昨年の世界選手権で銅メダルを獲得したゆかでは冒頭にG難度の「リ・ジョンソン」を入れる新たな構成を美しくまとめて、ここでも全体1位の14.900。あん馬で2度の落下があったのは反省材料だが、苦手なつり輪を12.933で終えて迎えた最後の跳馬では、これまでやっていた「シューフェルト」よりひねりが半分多いDスコア5.6の「シライ/キムヒフン(伸身ユルチェンコ2回半ひねり)」を初めて使った。

完璧な出来映えまでは行かなかったが、日体大で指導を受ける白井健三コーチの名がついた高難度技を決め、「自分の中で勢いづく試合にすることができた。練習してきた自信はあったので、思い切って演技をすることができた」と笑顔を見せた。

ひねりや回転を行っている時も膝とつま先がそろっている
ひねりや回転を行っている時も膝とつま先がそろっている写真:松尾/アフロスポーツ

■寝ていてもピュッと伸ばした「膝・つま先」

2002年1月7日、福岡県で3人きょうだいの末っ子として誕生。小学校1年生の時に2つ上の姉とほぼ同時期に体操を始めた。

その後は父の転勤で岡山へ引っ越し。おかやまジュニア体操スクールで三宅裕二コーチから基礎を教え込まれ、美しい体操を志してきた。

母の美香さんによると、つま先の柔軟性を高めるために「家の中でも姉と2人で(指を内側に丸める)つま先立ちで歩いていました」とのこと。土井も「母から聞いたのですが、僕が寝ている時に母が『膝・つま先!』と声を掛けると、寝ているのにピュッと伸ばしてたらしいです」と明かす。

そして、「ジュニアの頃からやってきたのはEスコアを求める体操。つま先と膝については厳しく指導されてきました。練習では映像を見て、汚くなっている時は必ずもう一度やって修正するという、そういった細かい練習はすごくしてきました」と語った。

明るい笑顔が持ち味のひとつ(撮影:矢内由美子)
明るい笑顔が持ち味のひとつ(撮影:矢内由美子)

■内村航平・日本代表強化コーチも認める練習量

岡山・関西高校3年生だった2019年には第1回世界ジュニア選手権で団体金メダル、個人総合銀メダルに輝き、2020年に日本体育大に進んだ。現在は日体大の4年生。内村航平コーチや白井コーチといった世界の頂点を極めたOBスタッフの指導を受けるという恵まれた環境で美しさを磨いている。

インカレの前日も、会場練習の動画を内村コーチに送ってアドバイスを求めた。

「航平さんはいつもなら『練習がまだまだ足りてない』と言うのですが、今回は『練習をやってきたんだから大丈夫だ』と言ってくださった。それが自信になった」

だからこそ悔やんでいるのがあん馬だ。

「航平さんがちゃんと認めてくださるくらい練習していたので、なおさら悔しいです。あん馬は航平さんも(2008年)北京オリンピックの時に2度落ちて個人総合2位だったというのを経験しているので、あん馬の難しさはいつも話してくださいます」

来年に向けては、「インカレでやった演技構成でさらに磨きをかけて、以前のようにEスコアがトップになれるような演技をしたい。倒立の1個だったり、そういうひとつひとつの質を高くしていきたいと思っています」と意気込む。

目指すのはパリ五輪出場と金メダル。ひときわ美しいつま先と膝を武器とし、体操ニッポンの力になろうとしている。

鉄棒も得意種目。ここでも膝やつま先の美しさが目を引く
鉄棒も得意種目。ここでも膝やつま先の美しさが目を引く写真:YUTAKA/アフロスポーツ

サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。スポーツグラフィックナンバー「Olympic Road」コラム連載中。

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