日本代表デビューのMF伊藤敦樹 浦和のスコルジャ監督が掛けた言葉
■アンカーとして後半31分から途中出場
“ぶっつけ本番”にも動じない、堂々とした日本代表デビューだった。
6月15日の国際親善試合エルサルバドル戦(豊田スタジアム)。浦和のMF伊藤敦樹は後半31分、流通経済大時代に3学年先輩だった守田英正と交代してピッチに立ち、アンカーの位置に入って日本代表初出場を果たした。
入った時点で既にスコアは6-0。相手が1人少ない状況でもあり、強度や運動量が浮き彫りになる展開ではなかった。それでも、約15分間のプレータイムでチームのバランスを失うことなくペナルティーエリア付近まで侵入してシュートを試みた場面や、相手のカウンターのチャンスで身体を寄せて食い止めた場面があるなど、しっかりと試合に入れていたのは好印象だった。
「出るつもりで気持ちの準備をしていましたし、行くよと声をかけられてからも、しっかり気持ちを作っていけました。森保さんやコーチの人から楽しんで来いと言われてそこも意識しましたし、ピッチ入ってからもみんなが良い声をかけてくれたので、自信を持って試合をできました」
上気したままの面持ちで15分間を振り返る様子には、日の丸のついたユニフォームで第一歩を踏んだことへの高揚感があった。
■追加招集を受けてから約30時間後に代表デビュー
試合前のタイムラインは怒濤の流れだった。試合前日の14日、MF川村拓夢(広島)の体調不良による途中離脱が決定。浦和での午前練習を終えてシャワーを浴びて自宅に戻ったタイミングで、クラブスタッフから「追加招集されたよ」と電話を受けた。
「びっくりしたし、嬉しい気持ちもありました。そこからあわてて家で準備をしてクラブハウスに荷物を取りに行って、そのまま大宮駅に行って新幹線に乗りました。こっち(愛知県豊田市)に着いたのは7時頃。代表チームが練習から帰ってくる時間とちょうど被っていたので夕食から合流して、挨拶させてもらいました」
2ボランチの一角でプレーしている浦和では、相棒の岩尾憲が主に後方でのタスクを任され、伊藤は前めの位置取りをすることが多い。4-3-3ならばインサイドハーフの方が普段のイメージには近いが、「与えられたポジションでしっかり自分のプレーをアピールすることができたから良かったと思います」と自らに及第点を与えた。
■ベンチにいた時間は守田英正のプレーを凝視した
森保一監督からは、「まずはチームのバランスをしっかり整えること。サイドチェンジだったり、散らすボールだったり、縦パスを出すときはしっかり刺す。前を見てしっかりプレーすること。前に行くタイミングがあったらそれがお前の良さだから、バランスを気にしないで行っていい。思いっきりやっていい」と言われていたという。
指揮官の言葉による後押しもある中で実際にシュートを試みた場面については、「全然当たらなかったですけど」と苦笑いしながら、「思いっきりやるのは自分の良さなので、シュートまで行ったのは良かったと思う」と頷くように言った。
一方で、ベンチに座っている間は、守田のプレーを意識的に見ていたという。
「切り替えの速さだったり、ボールを奪うところだったり、ボールを持っているときの落ち着きだったり、参考にする部分がたくさんありました。そこは自分が目指していかなければいけないところ。試合より練習の方がそういう部分を感じれるので多くのものを吸収していきたいです」と意欲をかき立てられている。
■「日本代表に値する選手だから、思い切ってやってこい」
追加招集が決まってクラブハウスから出発する前、浦和のマチェイ・スコルジャ監督から「良い言葉を掛けて貰えました」という。
「呼ばれるのが遅すぎると思っていたし、お前は絶対に呼ばれると思っていた。お前は日本代表に値する選手だから思い切ってやってこい。そう言って貰えました。最後に、『エスパルス戦をアツキがいなくて闘うのは不安だけどな』と。冗談も交えながら送り出してくれました」
「エスパルス戦」とは、18日に行われるYBCルヴァンカップ・グループステージ最終節の清水エスパルス戦。浦和は勝てばグループステージを突破し、プライムステージ進出が決まる。伊藤としてはチームメートに勝利を託すことになる。
■「レッズでやり続けてきたことが評価されている」
「もともと呼ばれていなかった中で離脱選手が出て呼ばれて、デビューできたのには運もあると思いますが、自分のキャリアにとって大きな一歩になりました。今までレッズでやり続けてきたことが評価されているので、そこは自信を持っていいと思います。ここで一歩踏み出したことは大きいですし、これで終わりにならずに練習からアピールして、代表活動が終わってからもチームに戻って代表活動をチームに還元して、自分にも還元して、また成長して日本代表に継続的に呼ばれる選手になっていきたいです」
ペルー戦に向けては「チャンスがあるなら、前に出てくる部分や推進力をどんどん作っていきたい。そういったところを出していきたい」と意気込む伊藤。これまで年代別代表の経験もなかった身長185センチの大型ボランチは、自らの足で可能性を押し広げていくことを誓っている。