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【体操 全日本種目別選手権】世界メダリスト3人登場の平均台に注目! 渡部葉月、芦川うらら、宮田笙子

矢内由美子サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター
2022年世界選手権種目別平均台で金メダルを獲った渡部葉月の演技(写真:ロイター/アフロ)

 世界選手権(ベルギーで9、10月に開催)の代表選考を兼ねて東京・代々木体育館で開催されている全日本種目別選手権は、6月11日に男子6種目、女子4種目の決勝競技を行う。

 種目別の日本一を決めるハイレベルな争いが繰り広げられる中で、とりわけ熾烈な戦いとなっているのが、世界選手権の金メダリスト2人と銅メダリスト1人が登場する平均台だ。

 2022年世界選手権金メダルの渡部葉月(筑波大)、2021年世界選手権金メダルの芦川うらら(日本体育大)、2022年世界選手権銅メダルの宮田笙子(順天堂大)を紹介する。

■渡部葉月2022年世界選手権 金メダル

2022年世界選手権平均台で会心の演技をして両拳を握る渡部葉月
2022年世界選手権平均台で会心の演技をして両拳を握る渡部葉月写真:ロイター/アフロ

 昨秋に英国・リバプールで開催された体操の世界選手権。東京五輪まで日本を引っ張った代表メンバーがすべて入れ替わり、新しい顔ぶれで出場した“新生・女子ニッポン”は、不安視された事前の予想を見事に覆すあっぱれな活躍を見せた。

 中でも種目別平均台で金メダルに輝いた渡部の活躍は、日本の女子体操界に大きな希望をもたらす快挙だった。

 平均台は1954年のローマ世界選手権で当時19歳だった田中敬子(結婚後は池田姓)が日本女子初の金メダルに輝いた種目。わずか10センチの幅の台上で繊細なバランスが求められる種目だ。

 渡部は演技の入りの技で高難度の「屈身前宙」を決めて1万人の会場を沸かせた。その後は停滞のない流れるような演技で最後まで通し、着地もピタリと決めた。

 身長159センチ。高さがあり、軸がぶれないジャンプをするため、着地に余裕があってふらつきが少ないのが特長だ。昨年は出来映えを重視してDスコアは5.4と低めに抑える作戦。実施の正確性で高いEスコアを得た。平均台の金メダルは日本女子史上4人目で、18歳2カ月での獲得は史上最年少だった。今年はDスコアを5.6まで上げてさらなるレベルアップに挑んでいる。

ジャンプが高く、着地に余裕がある
ジャンプが高く、着地に余裕がある写真:ロイター/アフロ

■「シンデレラガール」から5カ月後、全日本個人総合選手権優勝を果たした

 近年の女子体操では“補欠からの繰り上がり”で好成績を残して飛躍していくケースが少なくない。21年の東京五輪では種目別平均台で芦川うららが繰り上がりで出場して6位入賞を果たした。そして、この時の成績が元となって同年の世界選手権出場権の獲得へとつながり、そこで金メダルを獲得している。

 遡れば、2015年世界選手権の補欠として現地に帯同した村上茉愛が、大会直前に出場チャンスをつかんで活躍し、大エースへと成長した。

 巡ってきたチャンスをものにすることは、その後の道を大きく左右するもの。渡部も、昨年の世界選手権金メダル獲得で「シンデレラガール」と呼ばれ、それをきっかけに上昇気流に乗り、今年4月の全日本個人総合選手権を制するまでに実力を伸ばしている。

■芦川うらら 2021年世界選手権金メダル

この柔軟性が芦川うららの最大の武器
この柔軟性が芦川うららの最大の武器写真:松尾/アフロスポーツ

 芦川うららは実績十分の選手だ。2021年東京五輪で6位入賞を果たし、2021年11月に北九州で行われた世界選手権では、1954年ローマ大会の田中以来67年ぶりの金メダルに輝いた。当時18歳7カ月。昨年、渡部に塗り替えられるまでは芦川が最年少チャンピオンだった。

 静岡で生まれ、2004年アテネ五輪男子団体総合金メダリストである水鳥寿思(現・男子強化本部長)の両親が創設した「水鳥体操館」で体操を始めた。

 東京五輪に種目別の出場枠ができたことをきっかけに、平均台のスペシャリストとして強化を進める中で台頭。高校時代はワールドカップで数々の好成績を残して種目別ポイントで東京五輪出場権を勝ち取った。

昨年からゆかの強化にも力を入れている芦川うらら
昨年からゆかの強化にも力を入れている芦川うらら写真:YUTAKA/アフロスポーツ

■「マトリックス」の異名を取る粘り腰

 演技構成の中でカギを握るのは、前後開脚しながら上半身を背面側にそらしてジャンプする「交差輪跳び」。2021年の世界選手権予選では、この技の着地で大きくバランスを崩して耐える姿が「マトリックス」に例えられたが、決勝ではしっかり修正した。

 また、上半身を反らして両足を後ろに蹴り上げる「ひつじ跳び」はつま先が頭につくほどで、全体を通じて非常に見応え満点。流れるような動きも特長で、高難度の演技構成でありながら、出来栄えを評価するEスコアでも高得点を望めるのが強みだ。

 日本体育大学に進学した昨年は、練習環境の変化という影響があったのか、NHK杯と全日本種目別選手権でミスが相次ぎ、世界選手権の代表入りを逃して補欠に甘んじた。今年はその悔しさをバネに代表返り咲きを狙っており、4月の全日本個人総合選手権予選13.966点、決勝14.166点、5月のNHK杯13.900点、6月10日の全日本種目別選手権13.966点。安定して高得点を出し、現時点では世界選手権代表の残り1枠を争う中で最有力となっている。

■宮田笙子 2022年世界選手権銅メダル

ダイナミックな動きの中に繊細さを溶け込ませている宮田笙子
ダイナミックな動きの中に繊細さを溶け込ませている宮田笙子写真:YUTAKA/アフロスポーツ

 跳馬やゆかを最も得意としている宮田だが、平均台でも高い実力を発揮している。

 昨年のリバプール世界選手権で宮田は平均台でも世界トップを争える力を見せた。予選でDスコア5.8、Eスコア7.900、合計13.700点をマークし、全体の3位で決勝に進出。団体総合決勝、個人総合決勝と数多くの演技をこなし、疲労がたまった状態で迎えた種目別決勝でも安定した演技を見せたのが非常に印象的だった。

「平均台はそこまで自信を持っていけるというわけではない。もっと技を上げたりEスコアを伸ばしたりしたらメダルを狙いたいなと思えるようになるかな」と謙虚だが、演技構成の難度を示すDスコア5.8は決して低くはない。

 2月に疲労骨折が判明した右かかとの状態は徐々に回復の兆しを見せているというが、痛みが完全になくなったわけではなく、ケガの再発に注意しながらの演技となる見込み。その中でどれだけ正確な演技をできるか。

 決勝出場の10人中3人が世界選手権のメダリストで、2人が金メダリストという熾烈な争い。演技順は8番目が芦川、9番目が宮田、ラスト10人目が渡部となっている。日本の女子体操史上まれにみる競演に注目したい。

2022年世界選手権種目別平均台の表彰式。真ん中は金メダルの渡部葉月。左は銀メダルのエリザベス・ブラック(カナダ)。右は銅メダルの宮田笙子
2022年世界選手権種目別平均台の表彰式。真ん中は金メダルの渡部葉月。左は銀メダルのエリザベス・ブラック(カナダ)。右は銅メダルの宮田笙子写真:ロイター/アフロ

サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。スポーツグラフィックナンバー「Olympic Road」コラム連載中。

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