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【体操 全日本種目別選手権】NHK杯で自己最高4位の千葉健太 あん馬とつり輪の貢献得点で世界を目指す

矢内由美子サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター
世界選手権代表入りに向けて好位置につける千葉健太(セントラルスポーツ)(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

■「チーム貢献得点」で好位置

 五輪や世界選手権の出場歴はないが、千葉健太(セントラルスポーツ)の名を知らない体操ファンはほとんどいないのではないだろうか。体線(たいせん=体操用語で身体のライン)の美しさを武器に大阪・清風高校3年生からNHK杯や全日本種目別選手権に出場するなど、将来を嘱望されてきた逸材だ。

 これまでは演技にムラがあり、主要大会の代表出場権を勝ち取ることはできなかったが、5月のNHK杯は初出場だった2014年から10年目にして自己最高の4位。世界選手権(ベルギーで9、10月に開催)の代表選考を兼ねて6月10、11日に東京・代々木体育館で行われる全日本種目別選手権で、「チーム貢献得点」による残り2枠の代表入りを目指している。

 全日本個人総合選手権の得点を持ち越して争われた5月のNHK杯は、3位の三輪哲平とわずか0.067点差で4位。僅差で世界選手権の出場権を逃したが、NHK杯当日の点だけを見れば優勝した橋本大輝らを抑えて全体トップの86.565点をマークしていた。

 ただ、3位と僅差だっただけに悔しかったのではないかという問いには、笑顔で首を振った。

「順位は惜しかったんですけど、もともと(持ち点が)11番だったので、驚きと嬉しさがあります。いい試合をできて良かったなという思いです」

2018年全日本個人総合選手権1組のメンバー。右から千葉健太、谷川航、白井健三、谷川翔、萱和磨、内村航平
2018年全日本個人総合選手権1組のメンバー。右から千葉健太、谷川航、白井健三、谷川翔、萱和磨、内村航平写真:西村尚己/アフロスポーツ

■1996年生まれの“白井健三さん世代” 萱和磨、谷川航は順大からの同僚

 リオデジャネイロ五輪団体金メダリストの白井健三氏(現日本体育大学コーチ)や、東京五輪団体銀メダリストで、順天堂大学の同期でありセントラルスポーツで同僚の萱和磨、谷川航と同じ1996年生まれ。手が届かなかった2021年の東京五輪の後は、すぐにパリ五輪に目を向けて切り替えたが、思うように強化が進まなかった。昨年4月の全日本個人総合選手権はまさかの予選37位で決勝進出を逃した。

 苦しみながらパリ五輪出場の道筋を模索して取り組み始めたのが、つり輪の強化だ。元々得意なあん馬と、伸びしろを感じていたつり輪の貢献度で五輪を目指そうと決めた。

 すると、他の種目にも好影響が出るようになった。その成果がはっきり出たのが5月のNHK杯だった。

「僕は緊張すると身体が硬くなって動きがぎごちなくなるのですが、以前より緊張しなくなった分、しなやかさが出て見栄えが良くなったのかもしれません」

 そう言って振り返った通り、全日本個人総合選手権とNHK杯を合わせたEスコア(出来映え点)の合計点は全体の2位。最もEスコアの高い人に送られる「セイコーエクセレント賞」は田中佑典に譲ったが、「美しい体操」という持ち味は十分に発揮できた。

調子も上々の千葉健太
調子も上々の千葉健太写真:長田洋平/アフロスポーツ

■美しさに定評のある千葉「代表入りはあまり考えず、自分の体操をしたい」

 種目を絞って強化することにより、メンタル面での相乗効果も得られた。

「個人総合をもうやめようかなと思ってつり輪の強化を始めたら、他の種目も良くなってきたんです。前までは、ゆかもあん馬も鉄棒も全部ちゃんとやらなくてはいけないという考えがあって、ミスをしたら『うわー、キツイ』と思っていたのですが、それがなくなった。言い方は悪いかもしれないけど、他は少々ミスが出てもそこまで気にしなくなった。今は、あん馬とつり輪だけ“バンッ”とやればあとはもう気楽にできるという気持ちでやっています」

 ただし、今回の世界選手権代表争いについては、全日本個人総合選手権でのあん馬の得点が低かったため、千葉自身は「チーム貢献得点はあまり稼げていない」と話す。

「世界選手権の代表はあまり考えないようにして、自分の体操をしたい。そうすれば自ずと結果もついてくるものだと思います。この大会を終えてもまた地道に練習するだけです」と冷静に自分を見つめている。

 全日本種目別選手権では6種目すべてにエントリーしている(跳馬は棄権する見込み)。体線が際立つあん馬、力技の安定感に加えて倒立姿勢の美しさで他を圧倒するつり輪で、どれだけ点を稼げるか。見応えのある試合になりそうだ。

千葉健太の持ち味である体線の美しさが浮かび出るあん馬の演技
千葉健太の持ち味である体線の美しさが浮かび出るあん馬の演技写真:YUTAKA/アフロスポーツ

サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。スポーツグラフィックナンバー「Olympic Road」コラム連載中。

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