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2年ぶりVの桃田賢斗 “攻め気”をよみがえらせた後輩の存在

矢内由美子サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター
2022年12月、バドミントン全日本総合選手権男子シングルスで優勝した桃田賢斗(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

バドミントン男子シングルスの元世界ランク1位・桃田賢斗(NTT東日本)が、昨年末に行われた全日本総合選手権で2年ぶり5度目の優勝を果たした。

決勝戦の相手は昨年9月にジャパンオープンを制してワールドツアー初優勝を飾り、自信を深めている西本拳太(ジェイテクト)。試合は第1ゲームの序盤こそ競り合う展開となったが、徐々にエンジンをかけていった桃田が8連続ポイントで突き放し、最終的には21-11、21-16でストレート勝利を収めた。

西本との対戦で目を引いたのは、課題として取り組んでいた守備の改善だけではない。負けが込んでいた昨夏頃の段階では「自分の持ち味ではないと思っている」と弱気に語っていた「スマッシュ」を駆使する攻撃的な組み立てを久々に見せたことだ。

攻撃的なプレースタイルは、ナショナルチームの朴主奉ヘッドコーチが“世界で再びトップ争いをするためには必要不可欠”と指摘している要素でもある。

「決勝では最初から自分が攻めていき、我慢して、我慢して、それでも攻撃して、という展開が多かった」。優勝を決めた桃田は誇らしげだった。

2022年全日本総合選手権男子シングルスの決勝で対戦し、優勝した桃田賢斗(左)と準優勝の西本拳太(右)
2022年全日本総合選手権男子シングルスの決勝で対戦し、優勝した桃田賢斗(左)と準優勝の西本拳太(右)写真:西村尚己/アフロスポーツ

■ファイナルまでもつれた準決勝にターニングポイントがあった

決勝でなぜ攻撃的なスタイルを取り戻すことができたのか。伏線となった試合がある。所属チームの後輩である田中湧士と対戦した準決勝だ。

田中は日大4年だった21年12月に全日本総合を制した前年度王者。昨年春にNTT東日本に入り、技を磨いてきた社会人1年目のホープであり、桃田が比較的苦手としてきたスピードタイプのスマッシャーでもある。

普段から一緒に練習をしており、互いに手の内を知っている田中に対し、桃田は長いラリーを覚悟しながら守備を中心に組み立ててポイントを奪うという戦略でコートに立っていた。しかし、田中のフィジカルが桃田を上回り、第1ゲームは終始先行されたまま17-21で今大会初めてゲームを失った。

「すごくしんどかった。相手の攻撃にキレ味があってどうしようと思った」

桃田も第2ゲームは次第にペースを上げたが、リードしても再び追いつかれるという悪い流れ。

「普段の練習なら田中が先に崩れると思ったけど、今日は全然、崩れてくれなかった。自分が回されて、ドカンと決められたので苦しかった」

その言葉通り、俊敏な動きで確実に良い体勢に入ってから打ち込む田中のスマッシュに手を焼いた。ところが苦境に立たされたタイミングでターニングポイントが訪れた。それは第2ゲームの11-11の場面。桃田はこのように振り返る。

「2ゲーム目は11-7でリードしながら11オールに追いつかれてしまい、このまま守っていては負けると思った。出し切ろう、がむしゃらでもいいから動いて攻めていこう。そう思った」

明らかにその後は攻撃的になった。ヘアピンやロブで相手を揺さぶって甘い球を誘発し、きわどいコースへスマッシュを打ち込む桃田の姿があった。

第2ゲームを21-16で取ると、ファイナルゲームの序盤には強烈なスマッシュを見事なカウンターで返して点を奪い、会場のため息を誘うシーンもあった。粘る相手をはねのけて21-17で勝利を手にした桃田は田中と握手をかわしながら、「これからのNTT東日本を引っ張っていってほしい」と言葉をかけた。

「普段はそういうこと言わないのですが、試合で熱くなって言っちゃいました」

夢中にシャトルを追ったからこその爽やかな笑顔だった。

桃田と同じNTT東日本所属の田中湧士
桃田と同じNTT東日本所属の田中湧士写真:西村尚己/アフロスポーツ

■「田中が自分のプレースタイルを思い出させてくれた」

桃田は田中について、「普段一緒に練習しているが、すごく強くなっていると感じた。今まではラリーをしたらミスするイメージだったけど、丁寧にラリーしながらの攻撃にリズムがあった。後ろの(球への)入りは世界トップレベルだと思う。ショットのキレ味もいいし、ディフェンス力もある。日本人はどちらかというと綺麗に相手のタイミングを外しながらラリーをする人が多いが、田中には打ち抜ける力があるので羨ましい」と期待を込めて言う。

桃田は現在28歳。今大会では「自分が引っ張っていく時代も終わりにさしかかっていると感じている」と率直な思いも明かしていたが、優勝後の場内インタビューでは「まだまだバドミントンを続けたい。もっともっと強い桃田賢斗をみせていきたい」と意気込みを示している。

「準決勝で対戦した田中が自分のプレースタイルを思い出させてくれた。本当にもう、ギリッギリのとこまで追い詰められて吹っ切れた。その分、決勝では自分から向かっていくだけだった」

言葉を噛みしめるように語った桃田。ワールドツアーを欠場して鍛え直したディフェンス力と、試合の中でつかみ取った攻め気のスタイルが、2023年の新たな武器となるに違いない。

会心の勝利で優勝を飾った桃田賢斗。久々の笑顔だ
会心の勝利で優勝を飾った桃田賢斗。久々の笑顔だ写真:西村尚己/アフロスポーツ

サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。スポーツグラフィックナンバー「Olympic Road」コラム連載中。

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