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【体操】21世紀コンビ 橋本大輝と北園丈琉が“東京五輪代表入り最速ルート”に挑戦

矢内由美子サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター
個人総合スーパーファイナル前日の橋本大輝(左)と北園丈琉(撮影:矢内由美子)

 体操の男子個人総合W杯シリーズ代表選考会を兼ねた「スーパーファイナル」が11月8日、群馬・高崎アリーナで行われる。今大会で2位以内に入った選手には、来春の個人総合W杯シリーズの代表権が与えられ、その結果次第で東京五輪代表の最速ルートが開けてくる。

 試合前日の7日には会見が行われ、高校生の橋本大輝(千葉・市立船橋高校3年)と北園丈琉(大阪・清風高校2年)もそれぞれ抱負を語った。

■あん馬の難度を一気に0・4点上げて臨む橋本

 橋本は今年10月の世界選手権(ドイツ・シュツットガルト)にチーム最年少で初出場し、4種目で堂々たる演技を披露して団体銅メダルの一翼を担った。

 世界選手権から帰国した後は、スーパーファイナルの内規である「6種目合計のDスコア35点以上でない場合は合計点から0・5点マイナスされる」というハイレベルな条件に挑み、厳しい練習を課する毎日を送った。

 これまでの橋本の演技構成は34・6。「あと0・4」(橋本)の壁は分厚かったというが、限られた時間でその壁をどうにか乗り越えて35点に到達させた。

 当初は複数の種目で少しずつ難度を上げることも考えたが、最終的に上げたのは得意のあん馬のみ。手首の痛みも出たというが、E難度の「アイヒホルン」などを入れる新しい構成にした。

 Dスコアは6・1から6・5にアップ。これにより、他の種目の構成を変えずに臨めることになった。

「1種目上げるだけでも相当きついので、他の種目も上げるとなると体に負担もかかるし、精神的にもきつかった。でもこれをやらないと足りなくなる。この大会で(難度の高い演技構成を)使って、感触を覚えて次の試合に生かしていきたい」

 歯を食いしばって高難度の構成に取り組んだことを先々までつなげたい。橋本はそう考えている。 

個人総合スーパーファイナル前日練習で平行棒に向かう橋本大輝(撮影:矢内由美子)
個人総合スーパーファイナル前日練習で平行棒に向かう橋本大輝(撮影:矢内由美子)

■最年少17歳の北園は1年でDスコア3点アップ

 18年ユース五輪で5冠に輝いた北園丈琉は、昨年に続いて2年連続での出場となる。

 昨冬に腰の痛みが出た影響が残り、今年は4月の全日本個人総合選手権で17位、5月のNHK杯で21位と、世界選手権の代表争いに絡むことができなかった。

 しかし、夏場にかけて急速に復調。8月になるとインターハイ男子個人総合で橋本を抑えて優勝し、全日本ジュニアでは橋本に続いて2位になった。2人は9月の国体でも競り合い、そこでは橋本が1位、北園が2位だった。今大会は若い2人の競い合う姿も楽しみのひとつになる。

 北園が目指しているのは「優勝」のみだ。北園は会見で「やっと大人の舞台で戦える自信がある」と力強く言った。 

 思いの強さはこの1年で難度を大幅に上げた演技構成に現れている。ゆかはF難度の「前方屈身2回宙返り2分の1ひねり」を入れ、跳馬はDスコア4・8の「アカピアン」から5・2の「ドリッグス」へ格上げ。鉄棒ではG難度の離れ技「カッシーナ」を組み込んだ。

 6種目のDスコアの合計は35・1点。これは8位だった昨年のこの大会の32・4点より約3点も高い。若く伸び盛りの選手であるとはいえ、驚愕レベルの難度アップである。

「去年のDスコアは32点くらいで、今考えるとなんで出られたのかな、というくらいでした。でも1年間しっかり練習をして35点まで上げられたので、去年に比べて自信があります」

 北園は堂々と言った。

18年11月の個人総合スーパーファイナルで披露された北園丈琉のあん馬(撮影:矢内由美子)
18年11月の個人総合スーパーファイナルで披露された北園丈琉のあん馬(撮影:矢内由美子)

■互いが刺激である21世紀生まれコンビ

 これには橋本も「彼も35点まで上げて、がんばってきたと思う」と自分の苦労と重ねるように言い、1学年下の北園の努力を称えた。

「まだ高校2年なのに自分以上のことをしてくるので、自分もそれは恐れています。でも、同じ高校生として自分の出せることに集中してやりたい。そうすれば結果に結びついてくると思う。彼も頑張って欲しいですが、まずは自分でしっかりやっていきたいです」

 そう語る橋本の口調はすがすがしい。年が近く、互いに高め合うことのできる選手がいることの幸せを知っているからこその言葉なのだろう。

 一方で北園は、世界選手権でハイパフォーマンスを見せた橋本から大きな刺激と勇気をもらったことを明かしている。

「世界選手権ではすごく点が出ていて刺激にもなったし、逆に自分があの舞台に立てていればこれくらいいけていたんじゃないかという思いも少しありました。悔しい思いもあったけど、少し自信にもなったかなと思う」

■未来の体操ニッポンを占う

 スーパーファイナルでは世界選手権で日本チームを牽引する活躍を見せた萱和磨や、負傷を抱えてはいるものの実力に疑いのない谷川航、谷川翔、実績豊富な野々村笙吾、昨年2位の三輪哲平らが軸となって上位争いをしていきそうだ。その中で21世紀生まれの2人がどれだけ自分の体操を表現できるか。未来の体操ニッポンを占う試合にもなる。

 このあと長く「名勝負」を演じていってもらいたい2人である。

メディア対応する橋本大輝(撮影:矢内由美子)
メディア対応する橋本大輝(撮影:矢内由美子)

☆橋本大輝(はしもと・だいき)

2001年8月7日、千葉県成田市生まれ。兄の影響で6歳で体操を始める。身長164センチ、体重54キロ。兄2人も現役体操選手。市立船橋高校3年。得意種目のあん馬と鉄棒は、19年世界選手権種目別決勝に進出した実力がある。

「やっとこのときが来た」と話す北園丈琉(撮影:矢内由美子)
「やっとこのときが来た」と話す北園丈琉(撮影:矢内由美子)

☆北園丈琉(きたぞの・たける)

2002年10月21日、大阪府生まれ。戦隊ヒーローの真似が好きで、3歳で体操を始める。清風高校2年。身長151センチ、体重48キロ。18年10月のユース五輪(アルゼンチン)で、5冠王に輝いた。得意種目はあん馬、つり輪、平行棒。

サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。スポーツグラフィックナンバー「Olympic Road」コラム連載中。

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